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Psycholess  作者: Hoichi
3/3

第3話


 祖導匠は冷静だった。


 

 【2026/05/11 18:45 全員緊急一斉連絡 日本支部東海班 ID:00234567 C級→B級相当【ネクロマンサー】祖導匠

 謀反/契約規約違反等により懸賞金10億円 危険度A(※但し、生け捕りのみとする。)】


 (…生け捕りと言う事は、まだ意味があるということか。

 猪だ。恐らく中立の{製具協会}のところか…

 合流するように急ごう。)


 東海地区の{製具協会}は岐阜だ。

 神性・呪性・魔性の元が全て揃っているからだ。

 岐阜の協会は岐阜市内にはない。


 2026/5/11 18:58、匠はフードを被りながら、名古屋駅のホームで電車が来るのを待つ。

 向かいの停車していた電車が発車する。

 ドンッ。

 肩がぶつかり、(はーっ…)と溜息を吐きつつ振り向いて確認する。

 そこに居たのは意識を失っているような表情の30代の男だった。

 (…この感じは…)

 意識のない眼がこちらを向く。

 「みーつけたっ!10億円!!」

 ケラケラと笑うような声で叫び声が駅ホームの下から聞こえる。

 (公園にいたあいつか?

 まだ時間はあるが、どこかに泊まりたくはないな。

 今日中に地区長と会って保護してもらいたい。

 コントロール系は厄介だ。殺しておくか。)

 「弟の件は迷惑をかけたな。いや、かけられたのかな。」

 とケラケラ声で話す。

 (今日は三人殺ろしておいて良かった。

 判定上も【ネクロマンサー】になってる。


  死霊のソルジャー化の条件は三つ。

  ①死霊は自分の殺した者のみとすること。

  ②自分が意識不明の場合は死霊と戻ること。

  ③メンタル数値がマイナスの場合は死霊に囚われること。


 死後契約排除がなくなったのと30分の制約から伸びたが、使役時間は精神的な時間分だ。大体最大1時間ぐらい。

 今の疲弊から考えて貯蓄メンタルは45分、岐阜にいる奴らの事も考えたい。)

 「…気持ちの悪い奴だな。」

 駅の昇りエスカレーターの方に向かって話す。

 エスカレーターから顔を上げたケラケラ男を先頭に二人の男が見える。

 「やっぱりこちらを張っといて良かったな。」

 「おにぃ、超天才!」

 三人の笑い声が止まらない。

 コントロールされていた男が殴りかかってきたが、投げ飛ばす。

 周りで呆然としていた人間の一部も携帯を向ける。

 イラついた匠はケラケラ男たちに眼を光らせる。

 「おっと、これは見られては駄目だからな。すまない。」

 エスカレーターを登りきったケラケラ男は魔具を置く。

  

  人払いの魔具【中級】使用上限は5回 金額600万円

  ・範囲内に人間を寄せ付かなくする。※効果は対象のレベルに応じ、使用者には効果がないものとする。

 

 向けられていた携帯が下ろされ、人が急いで降りて行く。

 「どうしたの?早く離れよ…」

 携帯を匠に向けようとしていた若い女性が隣の女性に引っ張りながら話しかける。

 「いや、何あれ?何か出てる」

 と女性は震えながら倒れ込む。

 「…ったく、この規約やっぱり面倒だぞ!おにぃ、どうする!?」

 男の一人が怒りながら、指を指す。

 匠は徐々に後ろ向きで出入り口から離れて話す。

 「…ここから離れなければ殺す。死にたくなければ離れろ。そして忘れた方が良い。」

 匠は忠告し、離れるよう促す。

 「急いで!」

 友達なのだろう、動けない友達を引っ張って離れさせる。

 何人かが離れたいのに動けない状態になっている。

 「ちょうど良いや!俺を見ろ!!」

 ケラケラ男は叫んだ。

 三名程の動けない人間がケラケラ男に目線を送る。

 それをケラケラ男は瞬時に見る。

 (今か…殺れる…《命令だ…殺れ》)

 ソルジャーを二体送る。

 ソルジャー二体がケラケラ男に向けて、霊体の状態で襲いかかる。

 「おっと!そうはさせないぜ!ってな!」

 怒り男が笑いながら、ガントレットで剣を止める。

 もう一人がぶつぶつと呪文を唱えている。

 怒り男の周りは全身が光っている。

 (…チッ…厄介だな。ソルジャーを一体呪文男に向かわせるか…)

 ソルジャー一体が向きを変え、高速で剣を向ける。

 「ちょっ!待て!」怒り男が少しだけ慌てる。

 呪文男は呪文を唱えながら余裕の顔で掌の上に魔具を置く。

 

  闇弱体化の魔具【上級】使用制限5回 5,000万円

  ・範囲内の闇属性の効果を下げる。※対象のレベルに応じる。使用者の能力は下がらないものとする。

 

 (…対応済みか…。では。)

 電車が来る。数十名の乗客が降りていき、匠はそれに紛れる。

 ソルジャー達が向き直して匠の元に戻っていく。

 「あーもうっ、面倒臭い!!!」

 ケラケラ男が怒り散らかしているのが分かる。

 呪文男が二人に話しかける。

 「大丈夫。たっちゃんの呪文は唱え終わった。兄さんのもやれるよ。疲れもまだない。」

 「たっちゃん、いっきまーす。」

 たっちゃんと呼ばれた怒り男は笑いながら電車に飛び乗り匠の方面に向かう。

 「あのガチムチをやれ!!早く!」

 ケラケラ男は笑顔だ。

 ガチムチを含んだ三人と共にケラケラ笑いながら電車に乗る。

 「さぁ、やろう!」

 ケラケラ男は手を広げながら大袈裟に勝ちを確信している。

 たっちゃんと呼ばれた怒り男が焦った様子で奥から戻ってくる。

 「ヤバい!逃げてる!!」

 ケラケラ男は笑顔をひくつかせ、呪文男は焦った様子で呪文を止める。

 「「…はっ?」」

 三人は焦った様子でケラケラ男が叫ぶ。

 「探せっ!!!」

 「兄さん…他の奴のコントロール解いちゃった?」

 「「あっ…。」」

 他のホームから電車が出る。

 「もう今日は無理だ。諦めよう、兄さん。

 別の行き方もある。」

 呪文男は下を向きながら、泣いた。

 (勿体ねぇ…、魔具使いまくったのに…)


 同19:20、匠はタクシーに乗り込む。

 「岐阜の美濃市駅まで…。そこからは指示を出します。」

 「分かりました。担当させていただきます、田村です。」

 疑問に思った顔で田村は匠を見ながらタクシーを走り出させる。

 「新洲崎JCTで東海北陸自動車道に乗りまして、美濃ICで降りる予定になります。よろしいでしょうか?」

 「はい。よろしくお願いします。」匠はお礼を言って、警戒態勢を解かない。

 「お客様、どうして美濃まで?」田村は急に匠に話しかけた。

 「親族が急病でして、向かっています…。」匠はイラついているが表情に出さずに答える。

 「あ…そうでしたか…。」

 田村が少しホッとした様子で悲しそうな顔をミラー越しに向けた。

 「私の家族、と言っても元ですがね、病気で倒れまして…何かやってやれないかと思うんですが…」

 匠は少し面倒腐そうだが、田村はこちらをミラーを見ながら話を続ける。

 「そういえば、親御さんはどうされてるんですか?」

 匠の顔が少し強張る。

 (「あ…し…さい…」)母の記憶の断片が思い出される。

 「ちょっとだけ待ってください。嫌な記憶が思い出され…」

 (咄嗟に出た言葉だが、しょうがない…)

 匠は言葉に詰まるが正直に話す。

 「…その…他界しているんです。母が。」

 田村は沈み込んだ様子を一瞬みせたが前を向き直す。

 「申し訳ございません。お客様。」

 そしてタクシーを飛ばす。

 (…?話すのをやめたか…。

 少し落ち着こう…。)

 匠は軽い瞑想を始める。

 (…ふぅ…なんだろう、この感じ…何故か変な感じだ…)

 匠は落ち着いていく。

 田村と呼んだ男は無言だ。

 

 岐阜に入って少ししたところで、突然、田村が慌て出す。匠は目をずっと閉じている。

 「…お客様!大変申し訳ございません、お客様!

 トイレに行かせていただけませんでしょうか?」

 匠は静かに目を開けて答える。

 「あ、大丈夫ですよ…。」

 何故か、匠の気分は少し穏やかだった。

 「こちらに止めさせていただきます。」

 時間を確認すると、1時間。

 (本瞑想…してた?)

 少し困惑するが、何故か落ち着く。


 同20:31、車が何台か止まっているSAのコンビニ前にタクシーが止まる。

 「外で空気を吸っても大丈夫ですか?」

 「あぁ、大丈夫ですよ。」

 田村さんは笑顔で答えた。

 「では!」急いでトイレに駆け込む。

 タクシーを降りた匠は夜空を見上げながら

 (あぁ…澄んだ空気だ。)

 数名の人間が小声で話している声が聞こえる…。

 ふっと苛立ちが少しだけ戻って、そこを睨もうとする。

 「お待たせしましたー。」

 陽気な笑顔で田村さんが戻ってくる。

 イラつきが少し減ったので、少し溜息を吐いてタクシーに戻ろうとする。

 「ちょちょちょちょちょちょ…!」

 匠が乗り込んだ後、田村さんも乗り込もうとしたタイミングで匠に声を掛けようとする。

 「どうされました?」

 田村さんはガヤガヤ騒がしい三人組の男の話を聞こうとする。

 「運転手さん、行きましょう。」

 「あ、はい!それでは、失礼します。」

 三人に丁寧に挨拶をした後、田村さんは匠にホット缶コーヒーを渡し

 「どうぞ。」と笑顔だ。

 「…はぁ…。ありがとうございます。」渡された缶コーヒーを眺めなながら匠は呆気にとられた感じになっている。

 「それでは、行きますか。」

 シートベルトを締め終わった田村さんが運転手の顔に戻った瞬間…

 匠にヒヤリと悪寒がする。

 (この感じ…呪具だ!!それも強めだ。)

 外の三人組は未だに騒いでいる。

 「では。最速で!」

 田村さんは全く平気そうに車を動かす。

 (…効果範囲が車に乗っている僕だけ?どこかに痕跡を残したか。

 家から最上級の呪人形の媒体に使えそうなものを使われたならあり得るか…。)

 そんな事を思いながら対策を考えると悪寒が消える。

 (…は?悪寒が消えた。…っこれ!もしかして!)

 車外の様子を振り返ると、三人組が地面に落ちた何かを拾い上げて喚いているのが分かる。

 ちょうどタクシーで左折して道に出るところだ。


  呪いのお札【上級】使用回数1回 金額1億円

  ・貼られた対象の家の住人を呪い殺す。※対象のレベルに応じる。

  対象が1時間以上呪いを受けた場合、解呪をもってのみ呪いから逃れることとする。

  途中で剝がされた場合は効果が無くなるものとする。


 それぞれのバイクに乗り込もうとするが、一人は座り込んだままだ。

 そのまま何事もなかったように走り出すタクシー。

 (それよりも…この人、何者だ?)

 田村を眺めながら、匠は観察する。

 (…試すか。≪でよ、我が僕よ≫)

 光円の中からソルジャーが腕だけ出てきて剣先を喉元に突きつける。

 田村は真剣に前を見つめ、運転している姿はそのままだ。

 (…反応がない。気づいていない振りか?)

 「…運転手さん、あとどれぐらいですか?」

 「現在地が関SAなので、あと20分ぐらいですね。」

 その顔つきは変わらない。【美濃ICまであと15分】の標識が見える。

 (…嘘は言っていない。)

 

 ミラーに映った光量が車内をグラデーションになって匠と田村を照らす。

 「ん?なんですかね?」

 見ると三台のバイクが並んで追越車線のトラックの影から左車線に入ってきている。

 「煽り運転ですか…。タクシー運転手を舐めないでください。」

 田村の顔色は変わらない。

 シフトレバーを3速から4速に変えると「ちょっと揺れますね。」と告げ、タクシーを飛ばす。

 追い越そうとするトラックを無理くり追い越して、前の車の間ギリギリで車線変更していく。

 三台のバイクがトラックと前の車で前方が塞がれている。

 田村はそのままタクシーを飛ばし続ける。


 同21:10、不意に匠が大声で笑う。

 「笑わないでください、急いでいますので。」

 ミラーを確認しながら田村さんの表情は依然として真剣であり、それにも増して緊張感が伝わってくる。

 「いやいや、本当に申し訳ないです。」

 初めての笑いの涙を拭きながら、匠は田村さんに謝罪する。

 ちょうど美濃ICのところを降りるところだった。

 「…実はですね、田村さん。私、こういう者です。」

 ソルジャーへの指示を変え、何かを出したかと思えば空中で霊名刺レイメイシ(以後、「霊刺れいし」とする。)を出す。

 ICを降りた先の信号がちょうど赤になり、田村さんは後ろを振り向く。

 「…?何もありません…あれ?」

 「手に意識を持ちつつ、目を凝らしてみてください。」

 匠は笑顔で霊刺を渡す。

 「あれー?何か文字が見えるような…。なんですか…これ?」

 と田村さんが振り返り、匠の右側をちらりと見る。

 一旦目線を戻し、もう一度左に段々と視線を送ると徐々に青ざめていく。

 「ギャー――――ーっ!!!」

 匠は相変わらず笑顔だ。

 顔だけ出したソルジャーは下顎を震わせている。

 後ろでクラクションを鳴らしていた車が怪訝な顔で抜き去っていく。

 「なんですか、これ。なんですか、これ。…なんか…薄青い骸骨が見えます。」

 「才能ありです。田村さん。」匠の表情はにっこりだ。

 「呪具師というものになりませんか?良い給料出ますよ。」と匠が伝えても、田村さんは恐怖で引き攣りながらも感情を抑えている。

 「ど…どういうことか少しだけ説明してくださいね。…あ、その骸骨は…あっ!」

 田村さんの表情は若干怒りから安堵の感情と起伏の激しさを増し、

 美濃ICの信号から300m程離れたところで路肩にタクシーを止める。

 「んー!寝るか!」

 「あ、夢じゃないですし、幽霊でもないので…ってあれか、こいつは幽霊ですけど。」

 背伸びをする田村さんに対して、匠が左脇から笑い顔を覗かせ左手で右側を指差す。

 ニヤニヤしながら匠は「説明は別の場所でさせてもらいますよ。」と首を少し傾ける。

 (な…なんだぁぁあ。)左に居た骸骨は消えている。色々な感情で匠が小悪魔に見えた田村さんであった。

 「では…、向かいます。」その顔は何故か照れていた。

 

 一方、三台のバイクは行き先も分からぬまま、泣きながら北陸方面へと翌朝までツーリングを楽しむこととなった。


 同21:22、匠は美濃市駅に着くと「一旦清算で。」と田村さんに伝え、「合計22,150円になります。」と丁寧に対応する。

 支払いを終えると「あ、まだこの物語は続きますからね。」と笑い顔だ。

 田村さんはまだ少しドキドキしている。

 そんな事を知らずに匠は手帳の中からメモ用紙を取り出した。

 真新しい携帯を手にし、メモに目を通しながら携帯に打ち込む。

 「ちょっと待っててください。」少し真面目な顔に戻り、タクシーから出る。

 そのギャップに田村さんは最早メロメロだ。

 少し大きめの無地の黒パーカーに手を突っ込み、黒スキニー、黒キャップに黒スニーカーと、どこぞのホスト風だ。

 匠は真面目な顔で話している。若干目を閉じ、タクシーに戻ってくる。

 「戻りました。この場所へ行ってもらえませんか?」匠は少しだけ苛立ちを隠せられない様子なので田村さんは少し心配する。

 「承知しました。その…どうかされましたか?」

 「…先程の説明になりますのですが、そこで精算しますので会社の方は帰宅したことにしてもらえませんでしょうか?」

 「そこは分かりかねますので、一度確認させていただきたいです。」田村さんは運転しながらタクシー無線を使って確認する。

 数分後、田村さんとタクシー会社担当者との間で激論ののち、匠も会話に参加させらえれ少し焦る。

 十数分対話したのち、目的地に着く。

 田村さんはタクシーを近くに置いていったが、

 人払いの魔具が使用がされ、左右をその区画を一蹴したが認識できないのことが全く違和感はない。

 提示された場所の近くに来た為、また携帯で連絡を行う。

 「近くに着きました。人払いの魔具を一部解除していただけませんか?

 名前はB級 祖導匠および一般人、田村正則タムラ マサノリです。」

 

 【昆野中市コンノ ナカイチ地区長 090-◇★〇▽-▽▽☆◆】

 

 田村さんも不審げだ。

 それを察してか、匠は声を掛ける。

 「大丈夫です。とある組織の常務クラスなので。一応。ただ…変な人です。」

 「…着きました。」

 そこは、一軒のボロアパートだった。

 「…え?え?…あぁはい。」

 少し話を聞いてはいたが(常務なのに…?)と田村さんの疑問は尽きない。

 ボロアパートには二階の一室しか電気は付いていない。

 (あそこか…)匠は顔の表情を通常に戻す。

 

 田村さんと錆びれた手すりを使って階段を登っていく。

 電気が付いている部屋の前に着き3回ノックをする。

 …ガチャッ。部屋のドアが開く。

 「どうぞ―!入ってー。」奥から陽気な声が聞こえてくるが、ドアの前に人は居ない。

 ワンルームの部屋に雑多に置かれた物で溢れている。

 「失礼します。昆野地区長。」匠の表情は落ち着いている。

 「相変わらず、固いなぁ。」昆野と呼ばれた人間は笑っている。

 昆野は小太りの中年で独眼鏡を付け、胡坐をかいて何かを作っている。

 ボロボロの一部破れているシャツとスウェットを着ているが、左手の小指にはピカピカの羽の付いた天使のリングをはめている。

 「今はオフだからねぇ。風呂は明日の朝の予定だけど。…臭う?」と剽軽な口振りで聞いてくるが、田村さんは苦笑いだ。

 田村さんをチラりと振り返り、急に真面目な表情になる。

 「あ、はい、これ。テスト!」と田村さんに作っていた何かを投げ渡す。

 「もうですか?少しだけ説明が…。」匠に少し焦燥感が出るが、昆野は鋭い眼光で匠を一瞥する。

 「それが条件だったはずだが?」昆野は匠を睨む。


 

 「…あ、この人形をどうすればいいでしょうか?」田村さんは人形を真剣に睨んでいる。

 匠に視線を送ると匠が自分自身の眼を指差している。

 「あっ。」田村さんはあの骸骨を見た記憶を呼び起こす。

 人形から禍々しい煙が出ており、手を伝って田村さんの全身を飲み込もうとしているのが分かる。

 「へー、一応E級なら即死ぐらいの力はあるんだけどなぁ。」と驚いた表情で昆野は言った。

 「うちの取引先だ。厄介事に巻き込まれるのは面倒だから殺して追い返そうと思ったんだけどな。

 猪の事情は知っていはいるが知らない。それが本当の事だ。」淡々と無慈悲に答えていく昆野の顔は笑っていない。

 話を聞いて怯えている田村さんの周りを黒い霧が飲み込んでいく。

 ジリジリと内部に入ろうとしてくる黒い霧を田村さんの身体は拒絶しているようにも見える。

 田村さんもその光景に更に怯えている。

 「ん?これは相当な守護霊持ちだ。どれ…見てみるか。」昆野は眼を青白くして田村さんを凝視する。

 「ほぅ。お前、田村正則だったか…合格!」昆野は人形を田村さんから取り上げる。

 その表情はニヤついている。

 「いいだろう。匿ってやろう、祖導。条件は話した通り、田村正則をうちの協会に入れること。」

 「え?」緊張から解放されたからか田村さんは座り込んで呆けている。

 「申し訳ありません。田村さん。{製具協会}という組織に所属してもらえませんか?

 給与は年間契約で単年2,000万円以上+出来高払いです。」匠は田村さんを覗き込んで質問する。

 「え?」田村さんは混乱しすぎて笑い転げそうだ。

 「もう今日は遅い。田村は隣の部屋に転がしておけ。説明は明日しよう。」呆れ顔で昆野は匠に隣の部屋の鍵を投げる。

 「ありがとうございます。では…。」とその場を離れようとする匠に対して、少し困ったような怒っているような眼差しを向け

 「お前には話がある。あとで戻って来い。」そう伝えられると、田村さんを背負って真っすぐドアを見て答える。

 「分かっています。」ドアが一人出に開き出ていく匠の表情は硬い。

 「変わったな、祖導。良くも悪くもだが…。」締め切る前のドアに向かって昆野はボソりと呟いた。


  【製具協会連絡 田村昌典 未判定→A級相当【ー(未判定)】 登録】


 昆野は組織のPCに書きつつ悩む。

 (…どういつ繋がりだ?話を聞いて矛盾するところも不審な行動もなかったが、スパイの可能性はあるな。少しだけ様子を見よう。)

 

 [第3話完]

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