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Psycholess  作者: Hoichi
1/3

第1話

 祖導匠は、いつも定時に目が覚める。

 

 

 6:30に目覚め、携帯のチェックを行う。

 「…仕事あり。」

 テレビを点け、歯を磨きながら軽く呟くと、

 携帯を机の上に裏返しで戻した。

 『今朝のニュースです。

  汚職の疑惑が出ている高木直道議員が、本日の昼頃に記者会見を開く予定になっております。

  この番組では、13時から生放送で報道させていただきます。』

 

 (今日のターゲットは、秘書の方か。)

 ――対象は世間を賑わしている政治家高木直道の汚職疑惑**情報元である高木直道の議員秘書**赤井誠治だった。

 


 

 県立朝日ヶ丘高等学校、県内でもトップクラスの文武両道の高校だ。

 

 「匠ー!!!」

 大声で駆け寄ってくる筋肉質な大男が猪両行チョ・リョウコウ、中国から来ている留学生だ。

 「…僕に構うな。また目を付けられるぞ。」

 身長180cm越えの筋骨隆々で黒髪の男が160cmを少し超える程度の瘦せ型で可愛らしい男の子・祖導匠の肩を組んではいるが祖導匠は鬱陶しそうだ。

 そう言って立ち去ろうとする素振りを見せるが、

 「まぁいいじゃないカ。またぶちのめせばいいンダ。」

 流暢な日本語なのだが、片言な語尾だけが治らない。

 「…いいよ、助かってるし。」

 (ターゲットの行動履歴を見せてくれ。)

 祖導匠はボソッと話すと、猪はクリアファイルで束ねた紙を胸に押し当てて渡す。

 「じゃあナ、課題はやっておけヨ。」

 (今回はこれダ。よく読んでおケ。)

 猪は手を振りながら走り去っていく。

 振りなおると猪の顔はどんより重たい表情になっている。


 「おいおい、匠くん。今日は護衛君、いらっしゃらないんだな。」

 2-Bの教室に入ると、2人組のシャツを出した黄色のパーカーとNYのロゴのキャップを被った男たちが寄ってきた。

 他のクラスメートに目をやると、皆、我関せずで机に向かっている。

 祖導匠は小さく溜息を吐いて席に向かう。

 「なんだ!!?」

 無視された怒りから蹴り飛ばそうとしたキャップ男を、匠は振り返りながら一瞥した。

 「 チッ…」

 キャップ男は一瞬頭が真っ白になり、後ずさりをしながら一言吐き捨てた。

 「 いつもこれだ…」

 キャップ男は自分の頭を押さえてパーカー男に寄りかかる。

 「大丈夫か!? 」

 パーカー男はキャップ男を支えながら声を掛けた。

 そして、若干の恐怖を覚えながら震えた声で呟いた。

 「気持ち悪い奴め…」

 そう言って、匠から離れていく。


 教室内は何事もなかったように机の上の参考書を解いている。


 【赤井誠治、42歳。妻子あり。

 [家族構成]

 父:赤井憲明(以下、詳細あり)

 母:赤井幸子(他界。以下、詳細なし)

 妻:赤井美優(以下、詳細あり)

 実子①:赤井美花(以下、詳細あり)

 実子②:赤井美来(以下、詳細あり)

 …中略…

 非行歴なし。借金歴なし。ギャンブル歴なし。非喫煙。女性関係なし。

 …中略…

 行動パターン:

 平日・土曜日

 05:30 自宅を出る。

 07:00 議員会館に入る。

 14:00頃 議員会館近くの喫茶店で昼食をとる。

 23:30 帰宅の途に就く。

 25:00 自宅に戻る。

 

 日曜日

 10:30頃 家族と近所のスーパー赤玉へ買い物に行く。

 15:00頃 近所の公園に子供を連れていく。


 以上】


 さらっと資料を読んだ上で、最後の紙を確認する。

 【赤井誠治を2026/05末までに妻子の前で殺せ】

 それが依頼内容だった。


 (日曜日か…)

 決行の日時が決まった。今週の日曜日だ。


 2026/05/10 10:18、…何処かの屋上から見ている猪からイヤホン越しに連絡を受ける。

 「家を出タ。行動パターンは資料通りダ。変わらなイ。」

 「…了解。家に帰宅後、任務を遂行する。」

 匠の声色は変わらない。

 「でも気が重いな。この仕事。」

 猪の声は重たい。

 「今までの仕事と何も変わらない。尾行を開始する。」

 匠の声は一定だ。

 「そうか…。」

 少し残念そうな素振りを見せて猪は一言告げる。

 「では、仕事の時間だ。」


 同10:54、スーパー赤玉にて、

 「パパーっ、お菓子買ってー!」

 5歳児という連絡事項があった、次女・美来がはしゃいでいる。

 その様子を後方から買い物をする振りをしながら、顔色を変えずに見ていた匠は口元で何かを呟く。

 猪も同様の映像を共有するスマートグラスで映像を見ながら告げる。

 「家で殺るんだろ?」

 匠はそれを聞き、

 「これは下準備だ。いつもの事だろ。それに…」

 と言い淀んだ後に、

 「…守護霊付きだ。…先に排除しておく。」

 猪に伝えた後、赤井誠治に悪寒が走る。

 

 「すまない。美優、先に家に帰る。用事ができた。」

 焦ったように妻の美優にそう伝えると、赤井誠治は急いで帰ろうとする。

 「どうしたの?パパ?」

 赤井誠治の娘である9歳になる美花だ。

 「仕事の呼び出しが入ったんだ。いいか、皆んな仲良くやるんだぞ。大好きだからな。」

 泣きそうになるのを堪えて、赤井誠治は後ろを向こうとした時、5歳の次女・美来が声をかける。

 「お家で寝ててね。お菓子買っていってあげるから!」

 次女の頭を撫でながら、

 「お菓子は美来が好きなものでいいから。」

 笑顔で話すと抱きしめた。

 「じゃあ、先にいくね。」

 「歩いて帰るから。美優、後は宜しく頼む。」

 それは何かを覚悟した顔だった。

 その様子を見ていた匠は

 「…気付かれた。家に先回りする。」

 そう猪に伝えると周囲から認識が消える。


 小刻みに震えて家に入った赤井誠治は電気の付いていない暗がりの部屋を睨みながら怒気を孕んだ声で叫んだ。

 「先生の差し金だな!お前らを知っている!」

 

 誰も居ないはずの部屋から声が聞こえる。

 「…ソうカ。なラ話は早イ。家族ガ帰ってキた後ニ目ノ前でオ前を殺サなけレバならナい。」

 それは大人の男女でもあり少年少女でもあり老爺老婆でもある独特な電子声で聞こえた。

 赤井誠治は走ってその部屋に向かうと壁に凭れ掛かる髑髏のお面を被った全身黒の衣装でスキニーの中に手を入れている小柄な人間が居た。

 急いで叫ぼうとしたその瞬間「 …!!!」

 「叫ばせない。」

 髑髏のお面の眼は微かに青白く光っている。

 怒りと恐怖で顔が引き攣っている赤井誠治を眺めながら準備しようした時、猪から連絡が入る。

 「スーパーを出タ。予定より若干早イ。あと20分弱ダ。」

 「了解。準備は始めている。」

 匠は天井の柱にロープを括りつけながら淡々と答える。

 「最後に高木直道への伝言だけ聞いておケ、ってヨ。」

 猪は車で帰ってくる赤井家の人間を追いながら、ジュースのストローをズルズル吸いながら伝える。

 「…? そんな命令は来ていないぞ?追加か?」

 「まぁ、個人的なところらしイ。」

 猪は苦笑いしながら、顔を掻く。

 「了解。」


 ロープに赤井誠治の手指の跡と皮脂を着ける作業をしながら、青白い眼が退いていく。

 そして口に人差し指を当てながら小声で赤井誠治に話しかける。

 「大声ヲ出したラ、全員居なクナる。」

 赤井誠治は震えながら頷く。そして青白い眼が完全に消え匠が話そうとした瞬間、

 「条件は"家族の前で殺される事だろ"!なら、死ぬ。死ぬから死に方を選ばせてくれ!」

 少し仮面の下が苛立った感じがし、赤井誠治は下を向きながら黙った。

 匠が再度話しかけようとした時、猪が話しかける。

 「話は聞いタ。いいんじゃないカ?」

 「上から来ていない。仕事だ。」

 「依頼内容ハ?」

 「"家族の目の前で殺す"事だ。」

 「そうダ。目の前で殺されれば良いんダ。」

 「?」

 「自決用を渡せば分かル。」

 

 「階級、俺の方が上だからナ。」

 笑いながら猪はジュースを飲み干す。

 「あと7分程度。マンションの玄関まで来ていル。」

 「…了解。」

 少し不貞腐れながら、匠は口の中にある黒の革手袋を突っ込むと一粒の錠剤を差し出してみる。

 「これは?」

 赤井誠治は怪訝な顔をし息を荒くしながら、髑髏面の存在に聞く。

 「ジけつ用。」

 ――この仕事上、情報を外部に出さないために呪術で即時脳細胞を壊死させる自決用の黒いカプセル薬が存在する。

 ――検査をしても何も出ない薬だ。

 それを聞き、赤井誠治は縋りつき泣きながら、

 「…家族の前で飲む…頼む!これをくれ!」

 「モう一度言ウ。叫んダら…」

 匠の眼が青白く光りそうになった時、

 「おっト、もうエレベーターに乗っタ。あと3分なイ。」

 (準備も完璧ではない。全員消すか…)

 そう思った瞬間、

 「ありがとう。」

 何故か赤井誠治の口から予想外の言葉が紡がれた。

 「ハ?ドういウ事…チッ…今日中ダ、見テいる。」

 苛立ちと若干の焦りから舌打ちをし、ロープを回収して匠は暗がりに消えていった。

 泣きじゃくる赤井誠治の手の中には、一錠の黒い錠剤が入っていた。


 同11:52、「どうしたの!?やっぱり様子がおかしいよ?」

 妻である美優が家に入って暗い部屋で泣いている夫の誠治に一直線で向かってくる。

 「パパ!」「パパーっ!」

 二人の娘である美花と美来も駆け寄ってくる。

「ごめんな、皆んな、心配かけて。お昼ご飯は何食べようか!」泣いた後のぐちゃぐちゃな顔でありながら、誠治は強がってみせた。

「カレーっ!」次女・美来が叫んだ。

「私もお父さんのカレーが食べたい!」長女・美花も続く。

 2人の頭を撫でながら、

 「気分晴らしにカレーを作らせてくれないか?」と涙の跡が残った笑顔で妻・美優に話しかける。

 「え…えぇ…」美優は若干困惑しながら了承する。


 同11:57、近所のとあるビルの屋上で

 「本当に大丈夫か?今後の任務に支障が出たら…」匠は髑髏面を外しながら猪に話しかける。

 「大丈夫ダ。だガ、よく見ておいた方が良イ。」軽く笑いながら、猪は答える。

 (猪は時々よく分からない事を言う…。)

 「何かあったら困るのは僕らだ…」若干怒りながら匠は眼を閉じる。


 大袈裟に身振り手振りを使って家族を笑わせている赤井誠治がいる。困惑していた美優も今は笑顔だ。

 15:00過ぎ、いつも通り公園へ行く赤井誠治と美来だったが、今日はいつもと違う様子の家族を心配して美優と美花も一緒だ。

 追いかけっこをし、雲梯で遊ぶこの家族を見て、少しずつ苛立っていく匠がいた。


 「本当に何の意味がある?」匠は猪に苛立ちをぶつけた。

 「上官命令ダ。よく監視しておケ。」猪は余裕の表情だ。

 「信頼落とすぞ。」匠はまた眼を閉じる。


 公園で遊んで帰ってきた赤井家は夕ご飯をまたカレーで済ませた後、家族四人で風呂に入り、四人で川の字に布団に入った後に眠りにつこうとする三人に赤井誠治は話しかける。

 「皆んな起きて、パパを見てくれ。」

 3人が笑顔で起きてきて、「「「どうしたの?」」」とはしゃいで抱きつき、寝転がる誠治の顔を覗き込む。

 「ありがとう。本当にありがとう。家族になってくれて。じゃあ寝るね。おやすみ。」そこに泣き顔はなかった。

 「おやすみなさい。」皆んなくっついて笑顔で眠りにつく。

 そして、赤井誠治はパジャマのポッケの中のものを口の中に含み、噛み砕く。眠るように赤井誠治の脳は死んでいった。


 【赤井誠治 享年42歳 死因:呪殺】


 同21:07、マンションの一室で匠と猪は眠りについた赤井誠治を確認し、

 「部屋に戻って儀式を行う。」匠がそう言うと、

 「ナ?ちゃんと依頼通リ。」猪が言いながら苛立つ匠の肩を叩いた。


 同21:12、部屋で胡座をかきながら、匠は眼を閉じる。

 眼の周りがほんのり青白くなると、匠の前に白い霊が現れる。その顔は匠が今まで見たことがない程、穏やかだ。

 「赤井誠治。その命奪ったのは僕だ。その命奪わせたのは高木直道だ。その魂守ったのは僕だ。その魂守らなかったのは社会だ。社会を変える為に力を貸してくれ。」

 呪文のように言葉を繋ぐと穏やかな顔は首を振った。

 「そうか…では、天に召されてくれ。」匠はそう伝えると

 (ありが…とう…)そう聞こえてきた気がして、溜息を吐いた。

 「残念だったナ、良いソルジャーになる可能性があったのニ」部屋を出ると猪が笑っている。

 「分かっていたんだろ、鬱陶しい奴だ。帰ってくれ。」

 「はいはい、分かった。そういえば、明日からのテストはどうダ?」猪はマンションの部屋から出ようとしながら話題を変えた。

 「いつも通りだ。」匠は少し考えながら答えた。

 「お前、ちょっとだけ変わったヨ。」猪は少し嬉しそうに笑った。


 同21:23、猪が出ていった後、匠は風呂に入りながら少し考え込んでいる。

 (なんだ?何かがおかしい。

 身体的にも変化はない。集中力も問題ない。

 だが、何かが変化した気がする。)

 眼を開けて水面を眺めていると、とある事象を思い出した。

 あの赤井家の事だ。

 (あの光景はなんなんだ?)

 …昔の言葉を思い出す。

 他界した母親の言葉「あ…し…さい…」微かな残像も残したくない母親の痕跡は祖導匠を呪いのように蝕んでいた。

 (勝手に自死しておいて、勝手な言葉だ。

 また脳の封印をしないとな。)

 そんな事を思いながら、湯船に浸かる。

 どうしても赤井家とあの言葉を思い出す。

 (「ありがとう。」か…。しんどい言葉だ。)

 そして、同23:00、日課である瞑想を行い祖導匠の一日は終わった。


 2026/05/16 09:00、テスト期間も終わり、匠と猪は東京の一等地にある日本支部本部に来ている。

 若干足を開き後ろ手を組みながら立っている。

 「依頼内容【赤井誠治を2026/05末までに妻子の前で殺せ】完了しました。」猪が報告を行う。

 「…」蛇九蘭鬼日本支部長は目を閉じ、黙って聞いている。

 「…」匠と猪も黙り、直立不動だ。

 重たい口調で蛇九支部長は一言。「…帰っていい。」

 二人は悪寒と冷や汗で少し青ざめる。

 「…それでは、失礼します。」猪が何とか言葉を発したが、震えが止まらない。

 本部を出ても二人とも無言だ。

 上層階から二人を眺めている蛇九支部長はボソッと何か呟くと、影がゆらゆらと蠢き薄くなっていく。


 同11:21、(猪、お前の責任だ。)

 (やっぱりカ。)猪が頭を抱えた。

 (どうする…この状況かなりまずいぞ…)

 11:12東京発名古屋行き、新幹線で二人並んで帰宅する途中、視線をねっとりした後方から感じる。

 (しょうがない。)匠は後ろに意識を向ける。

 (やるしかないカ。)猪は頭を抱えたまま、下を凝視している。

 (そうですか)影が笑う。

 (やっ…)一瞬で猪の身体が影に飲み込まれる。

 匠以外、誰も気づいていない。

 (これ、猪狙いだ。どうする?

 一瞬の判断ミスで死亡だ。逃げるか。)

 そう思った瞬間、赤木誠治の仕事中の猪が思い出される。

 (…チッ。しょうがない。聞きたいこともあるしな。

 影使いの本体を探すか。)

 

 同11:24、席を自然に立ち、1号車の先頭まで早歩きで向かう。

 平日の夕方ということもあるからか、寝ている人間が多い。

 (影使いは意識を全部持っていくからな。

 痕跡を辿るのもありだが、痕跡を残すのも影使いは上手い。

 どうする…。猪の痕跡は…)

 意識を失っている人間を探しつつ思考を続ける。

 (タイムリミットは猪の息が続く限り。30分といったところか。

 猪の能力から防御はできるだろうが攻勢にはできないだろう。

 急ぐか。)

 影使いは世界で三十人、日本で三人の情報は聞いているが詳しくは分からない。

 乗客の一人が喚きだす。

 「ずっと入ってて出てこないやつがいるんだけど、どういうこと?」

 トイレか!魔術の痕跡を追う。

 (トイレ内に若干反応アリ。ここか。)

 「漏れそうなんだけど…!!他行くよ、もう。」騒いでいた客が離れた隙に中を透視する。

 (違う、これ!)気づいた瞬間に匠も消えていく。


 同11:36、(猪の痕跡あり、精神統一と鋼皮で耐えているか。クッ…)

 肌と皮下肉の一部が切れる。闇の中で笑い声が微かに聞こえる。

 (影使いは影の世界に引きずり込み、無呼吸状態の相手を刺し殺す。

 性格の特徴は陰湿サディスト。だから時間をかけて殺すタイプが多い。

 残りの無呼吸状態で12分程度、お互い持つか微妙なところか。

 初手で殺さなかったこと、後悔させてやる。)

 ≪でよ、我が契約者達よ≫

 匠がそう念じると、周りに三つの光円と光円を巻き込む一つの幾何学光円が浮き上がる。

 影使いの笑い声が消える。

 幾何学光円から徐々に杖の先が出てくる。

 (時間がかかりすぎる…勿体ないが、光弾だけ使うか…)

 ≪メイジよ、最大出力の光弾を放て!≫

 目を閉じて、そう命じる。

 光が一瞬にして闇を照らす。


 同11:50、揺さぶられている。

 意識を起こすと、乗客の数人が揺さぶっている。

 「頭痛っエ…」猪が膝立ちで起き上がり呼吸を整える。

 「出れたから、まだマシだ…」匠も起き上がる。

 (メイジとの契約が切れた。影使いは生きている。最悪の状況だ。)

 立ち上がって歩いていこう行こうとする二人に

 「ちょっと、君たち!」起こした乗客たちが声を掛ける。

 「ありがとうございまス。今度病院行きますんデ。」猪が愛想良く笑顔で答える。

 (どうすル?この状況。)猪も心では焦っている。

 (恐らく1人、夜になったら2対1でもこちらがやられる。この新幹線内で殺る。)

 (どうやって見つけル?このまま夜を待てばいい相手に有利過ぎル。

 光源の神具を買って対応するカ?)

 (そんな資金も繋がりもなくなった。…)

 ふと、匠は心の念話を止めて少し考える。

 そして前を向きなおして席に戻る。

 『この列車は浜松駅を通過いたします。』

 そのアナウンスから、メモ蝶を破いて何かを書き猪に渡す。

 「了解。」猪も了承した。

 (さて、どうしてやるべきか。)

 

 「ふふっ。楽勝だね。」

 名古屋駅に着いて、階段を降りていく中学生ぐらいの私服の少女は鼻歌を唄っているが、

 急に動きを止める。

 「何か用?お兄ちゃん達。」

 焦げ茶のツインテールに黒の猫目、推定身長154cm黒色のパーカーに金色の英字がプリントされている。

 白のスカートに白の踝丈のフリフリ靴下と黒のブーツを履いている。

 振り向いて、殺意を向けている相手に問いかけた。

 彼女の周りには、一人剣を持つアンデッドが憑いており、彼女の喉元に剣先が向けられている。

 「蛇九さんの指示なの、あの人には救ってもらってるし…」

 (なんで蛇九さんの事、話してるんだろ。ハッ!これ…夢!)

 

 同12:30、そう思って飛び起きた瞬間、「おはよう、お嬢ちゃん。」目の前にはターゲットである猪と匠が睨んでいる。

 少女は周りを見渡すが、皆、寝ている。

 「神具?」少女は呆れた顔で外を眺めながら話す。

 「魔具。使用制限はあるが、数分眠りにつき真実を話す。魂でやらせてもらった。」猪は怒りで声を震わせている。

 

  睡眠の魔具【中級】使用制限5回 5,000万円

  ・範囲内の人間を眠りにつかせる。※効果は対象のレベルに応じ、使用者には効果がないものとする。

  強化の魔具【上級】使用制限1回 1億円

  ・魔具の効果を強める。※対象のレベルも効果として含めるものとする。

  真実の魔具【上級】使用制限1回 1億円

  ・魂で真実を話させる。※対象のレベルは関係ないものとする。

 

 「蛇九さんの事バレちゃったのか、私も殺されるな。」少し泣きそうになりながら、外を眺めて話す。

 「なんで、そこまでするんだよ!」猪は怒号を放った。

 前の号車の乗客がざわついた。少女と同じ列のCおよびD席に座り、皆順々に起きていく。

 「もう何でもいいや。殺して。私、A級単体【影使い】中目瑠璃。お兄ちゃんたちは?」中目と自分を呼んだ少女は睨みつけながら聞いた。

 「俺はB級チームリーダー【金剛力】猪両行。」

 「…僕はC級チームメンバー【死霊使い】祖導匠。」

 「どうする?やる?」中目は睨みながら半笑いという相変わらず挑発的だ。

 「…やらざる終えないか。」匠がそう言った瞬間、中目の身体が窓側に倒れそうになる。

 「ちょっと待テ!」猪がやや大声で言うと、緒に襲い掛かる影が止まる。

 匠の青白くなった眼も消えていく。

 「やはり俺カ!…どういう事ダ?赤井誠治の件だけでそこまでなるのカ?」猪は怒りがなくなり、何かを考えている。

 「知らな~い。私は黒髪の筋肉マンだけ殺せって言われてるの。」中目は無邪気に笑うと、二人は考え込んだ。


 『まもなく、名古屋…名古屋…お降りの方はお忘れ物の無いよう、よろしくお願いします。』

 「じゃあね、お兄ちゃん達。私はグリ横にでも行くわ。」中目は窓の外の遠くを眺めている。

 「そうカ、じゃあナ。生きろヨ。」猪がそう告げると、

 「筋肉マンにだけ言ってあげる。お兄ちゃん、うちの組織に合わないよ。」猪が苦笑いして新幹線から出ていこうとする。

 (合う合わないじゃないんだよ。)繋がらないようにボソリと心で呟いた。 同12:51、


 同21:42、自宅にいる匠は悩んでいた。

 組織内でどういう立ち位置を持っていくか、

 (…猪のことを売って許してもらうか…しかし…分からない…)

 不意に猪に聞きたいことを思い出した。

 その瞬間に携帯が鳴った。


 【2026/05/10 21:45日本支部東海班 ID:00294506・B級チームリーダー【金剛力】猪両行 謀反により懸賞金1憶円 危険度B】


 (…どういうことだ?

 これは本当にどういうことだ!?)

 猪と連絡が取れないと分かったのは、その後すぐだった。

 [第1話完]

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