第二百三話 高い問題
たびたび更新が遅れて申し訳ありません。
高校へと向かう道。
晴翔はすぐ隣を歩く綾香にチラッと視線を向ける。
普段なら「手、繋ごう?」と右手を差し出してくるが、今日は顔を赤くしながら恥ずかしそうに視線を泳がせている。
「……今日は凄く良い天気だね!」
「そうだね」
不自然に明るい声で話す綾香。
朝、洗面所で会った時から朝食を食べている時も、ずっとこんな感じだった。
きっと、昨日の出来事を相当意識してしまっているのだろう。
昨日の出来事に関しては、晴翔も責任を感じているため、なんとかいつも通りの雰囲気に戻ろうと話を切り出す。
「あの……昨日のことなんだけど」
「っ!? き、昨日はごめんね! でも、私は全然気にしてないっていうか! 私の方こそゴメンねっていうか!」
綾香の顔は一瞬で真っ赤に染まって、早口でアワアワと話し出す。
「色々と急すぎだよね! 私たちは婚約してるんだから慌てる必要はないし! ね!」
「綾香、あの――」
「でも、私は本当に晴翔だったら……じゃなくて! お、大人の恋愛といっても、ゆっくりな場合も一般的だよね! 私たちは夫婦になるけど、その前にまだ高校生だし!」
「綾香――」
「いつかは子供とかも欲しいなって思うし、家族が増えたら幸せだとは思うけど、今は学生として、ちゃんとわきまえないとね! それに、二人で過ごす時間も大切にしなくちゃ! だから――」
「綾香!」
「はぅ? な、なに?」
強く名前を呼ばれた綾香はピクッと肩を揺らす。
「とりあえず落ち着こう。ね?」
「う、うん……」
顔を赤くしたまま顔を俯かせる綾香。
晴翔はどうすればいつも通りに戻るのかと頭を悩ませる。
そこに突然、無表情の雫がぬっと姿を現した。
「朝から熱々バカップル。もとい、熱愛夫婦発見です」
「うぉ!? びっくりした……おはよう雫」
気配もなく現れた後輩に晴翔は驚きつつ、挨拶をする。それに続いて綾香も彼女に挨拶をした。
「お、おはよう雫ちゃん」
「おはおはです。ハル先輩にアヤ先輩」
無表情のまま軽い挨拶を返すと、雫はそのまま綾香をじっと見つめ「ふむ」と唸った。
「な、なに?」
「アヤ先輩の赤い顔。ハル先輩との間に漂う気恥ずかしい空気……」
雫は顎に手を添えて考え込む仕草を見せると、おもむろに口を開く。
「さては、昨日の晩はオタノシミでしたね?」
「ッ!?」
綾香は大袈裟とも思えるほどにビクッと肩を揺らすと、盛大に動揺しながら大きな声を出す。
「そんなわけないでしょッ!! オタノシミだなんて! 違うからッ!!」
予想以上の反応を見せる綾香に、逆に雫が無表情ながらも、若干目を開いてキョトンとする。
「え? なんですその反応? え? もしかして、本当にオタノシミだったんです?」
「――!?!? だ、だだ、だから違うって言ってるでしょ!」
「……怪しみ全開です。どうなんですハル先輩?」
「……お前が想像するようなことは何も起きてない、よ」
「ほほ〜ん?」
何かを察した雫は、顎に手を添えてススッと綾香との距離を縮める。
そして、無表情のままジッと至近距離で目を合わせた。
「アヤ先輩?」
「な、なな、なに?」
「ア〜ヤ〜せん〜ぱいっ」
「だ、だから何!?」
「ハル先輩はヘタレ鈍感朴念仁なので、アヤ先輩のご両親や涼太君がいる場所ではきっと襲ってこないでしょう」
雫はズイッと顔を綾香に近づけ、「ですが」と続ける。
「アヤ先輩は、ハル先輩への愛情を暴走させて襲いかねません」
最後に、彼女は無表情な口元をニヤッと持ち上げて締めくくった。
「先輩はムッツリさんですので」
「ッ!? そ、そそそそ、そんな! そんなこと!!
ムッツリじゃないもん!!」
「じゃあ、私の目を見てハッキリと言って下さい。『私は晴翔を襲ってません』はい、リピートアフターミー」
「わ、私は! 私は……その……」
正直なところが彼女の良いところである。
だが、今回はそれが仇となってしまい、綾香は雫から視線を逸らしてモゴモゴと言葉にならない音を口から漏らす。
それを見て雫はポンポンと彼女の肩を叩く。
「ゲロっちまった方が楽ですよ、アヤ先輩?」
「うぅ……」
顔を赤くしながら追い込まれる綾香。
とそこに、駅方面の道から友哉と咲が並んでやってきた。
「はよっす〜」
「おはよう。って、綾香はまた雫ちゃんにいじめられてるの?」
咲が笑いながら言うと、綾香を問い詰めていた雫が首を振る。
「ノンノンノンです。これはただの事実確認です」
「へぇ? なんの事実確認をしてたの?」
「それは、アヤ先輩がハル先輩をおそっ――」
「咲、友哉君! おはよう! 二人並んで今日はどうしたの!?」
雫の言葉を綾香は大きな声で遮る。
晴翔も綾香を助けるため、彼女に続く。
「確かに、なんで友哉は駅の方から来てるんだ?」
晴翔の問いかけに、綾香を問い詰めていた雫も少し興味が逸れたようで、その視線を友哉と咲へとスライドさせた。
「こっちも朝からラブラブですか?」
「いやぁ、お恥ずかしい」
「お恥ずかしくなるな!」
雫の言葉に大袈裟に照れる友哉。
すかさず咲はツッコミを入れて「誤解されるような照れ方はやめなさい!」と説教をする。
「今日さ、駅前の楽器店に新しいギターが入荷してるんだけど、それを一目見たくてな」
そう説明する友哉の後に、咲が言う。
「店のガラスに張り付いてハァハァしてる不審人物がいたから、警察を呼ばれる前に引っ張ってきたのよ」
「なんだ、嬉し恥ずかしいラブラブ登校じゃないんですね」
無表情で言う雫に「登校というより連行ね」と咲は呆れながら返している。
話題が逸れたことにホッとしている綾香を横目に見て、晴翔は友哉に話しかけた。
「んで、お前はその新しいギターを買うのか?」
「買えるわけないだろっ! いくらすると思ってんだよっ!」
「ギターってそんなに高いのか?」
「高いよ! 家建つレベルのもあるんだぞ!」
「ほぉ。で、お前がハァハァしてたギターは?」
「15万」
「高いな」
「だろ? 家が建つだろ?」
「あぁ、犬の豪邸が建つな」
神妙な顔で頷く晴翔。
友哉も一緒になって「建つよな」と真面目に頷いている。
「まったく、なに真面目にアホなこと言ってるの? 早く学校に行くわよ」
咲はそう言ってスタスタと歩き出す。
「アヤ先輩、また後で詳しい話を聞かせてもらいますので」
「べ、別に話すことなんてなにもないから!」
ワイワイと賑やかに話しながら綾香と雫もその後に続く。
「でもギター欲しいよなぁ。バイトすっかなぁ」
友哉はそんなことを呟きながら、のんびりと女子達の後ろを歩く。
「バイトか……」
親友の言葉に、晴翔は真剣な顔で考え込む。
15万円は、友哉の言う通り高校生には物凄い大金だ。しかし、今朝晴翔が思いついたものは、それよりも遥かに高額なものである。
「ん? なんだハル。またバイトすんのか? 家事代行か?」
「う〜ん、まだわからん」
「俺の部屋の掃除係するか? 時給十円で雇用してやる」
「労基違反で訴えるぞ?」
そんな冗談を言い合いながら、晴翔達は学校へ向かう。




