第十話
三分割中編です。お楽しみいただければ幸いです。
唐突な美蘭の告白に三人は固まる。想像もしていなかったのか言葉が出ずに唖然とし続ける。
「い、いきなりどうしたのですか……?」
「私も……ケンヤさんたちと過ごしてとても楽しかった……もうこれで会えないなんて嫌です……」
「美蘭さん……」
「どうか私も連れてってください。お願いします!」
勢いよく頭を下げて懇願するが、
「断る。異世界に迷い込んだ人間は元の世界に帰すのが決まりだし」
マザンにバッサリと断られてしまう。
「そもそも帰りたかったんじゃないのかよ」
「そうですよ。両親や友達のことを心配していたじゃないですか」
言われてずっと頭を下げていた美蘭が顔を上げる。
「本当は帰りたくありませんでした」
「「「!?」」」
美蘭の衝撃発言に三人は言葉を失った。誰一人としてなにも言わず、しばらく静寂が続いた。
「どうして……ですか……?」
ケンヤが声を絞り出して美蘭に尋ねる。美蘭が訳をぽつりぽつりと語り始めた。
「皆さんは、私の両親が仲が良さそうに見えますか?」
言われて三人は顔を見合わせる。少ししてキザミが代表して答える。
「悪いということはないんじゃないか?家族の雰囲気も良かったし」
「両親が会話してるところを見たことありますか?」
マザンはどうなのと言いたげに呆けた顔でケンヤとキザミを見る。見られた二人は今までのことを思い出そうとする。
「私の両親は、本当は仲が悪いんです。いつも二人は口を聞かず口を開けば喧嘩ばかり。それがずっと続いてるんです」
「でも両親が喧嘩してるところなんて見たことないぞ」
「私の前じゃ喧嘩しないようにしてるんです。二人は隠してるつもりなんですけど、夜な夜な言い争いをしてることを私は知ってます」
美蘭の暴露話をケンヤたちは聞き入る。
「家に帰っても空気が悪くて、家にいてもまったく落ち着かなくて、段々家に帰るのが嫌になりました。だったら早く離婚してほしいと思いました。けど、そうなると親権のことでまた喧嘩すると思います。多分私がいるから離婚しないんだと思います。私がいなくなれば離婚してくれる。そう思ってたある日に、私はあの黒い穴に吸い込まれました」
「「「………」」」
「最初はよくわからないところに来て不安で怖くて、早く帰りたいと思いました。でも、ケンヤさんたちと一緒に過ごして、あの世界を案内してくれて、見ず知らずの私を優しくしてくれて。段々とあの世界での生活が好きになっていました。ギスギスした感じじゃないあの温かい感じの家が、私の望んだ生活でした。もう帰れなくてもいい、帰りたくないと本気で思いました」
ケンヤたちが口を挟むことはなかった。内の想いが込み上げてきたのか、美蘭は涙を浮かべていた。
「お願いです!私に帰る場所をください!私は両親なんかよりも、ケンヤさんたちとずっといたいです!お願いします!」
大きな声で頭を下げて再び願い出た。そんな美蘭を三人はなにも言わずじっと見つめる。少ししてからマザンが口を開いた。
「言っておくけど、美蘭が思うような安全な世界じゃないんだぞ。いつ誰かに襲われるかわからない危険な世界なんだ。本当にそんな危ない世界に行きたいのか?」
「確かに危険な世界かもしれません。でも私は、あの世界が単に危険な場所とは思えません。優しくて温かい世界だと思っています。それに例え危険な目に遭うことがあっても、ケンヤさんたちが助けてくれます」
美蘭は断言した。初めて出会った時も、誘拐事件が起きた時も、三人は助けてくれた。共に過ごした濃密な時間により美蘭は強く信頼していた。
マザンが息を吐いて、ケンヤの肩に手を置いた。
「お前に任せる。美蘭を助けた張本人」
押し付けられてしまいケンヤは困った表情をする。
「俺は別にいいと思う。美蘭が今の秘境界での生活が辛いって言うなら生活を一新するのも一つの考えだと思う。まあ、美蘭の料理が上手いってのもあるけど」
キザミが一人意見を呟いた。マザンに任されたケンヤがしばらく考え事をしてから口を開いた。
「美蘭さんの気持ちはわかりました。本来帰る場所が居づらいというのはよろしくないです。私たちの家、私たちの住む世界で良ければ、美蘭さんの居場所にしてください」
(ケンヤさん……)
「しかし、両親になにも言わずに行くのはいけませんよ。しっかり両親と話し合ってみてください。もしかしたらなにか変化があるかもしれませんから」
「はい。わかりました」
美蘭は素直に頷いた。ここで両親と話し合いをして、仲直りをすればそれで良い、離婚することになっても居場所ができた。恐れることはなにもない。美蘭は微笑んでから自室を出ていった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。次話で第一章完結の予定です。今度こそは早めに投稿できそうです。




