第十一話
第一章最終話です。短いですがお楽しみいただければ幸いです。
「お母さん、お父さん。話があるの」
リビングにいた両親をダイニングテーブルに座らせて、美蘭は家族会議を始めた。
「どうしたの?そんなに改まって」
母親も父親も集められた理由がわかっていない様子でいる。美蘭は躊躇うことなく言い放つ。
「二人に、離婚してほしいの」
「「………?」」
言われて両親はぽかんとしている。そんな二人を美蘭は真剣な眼差しで見つめる。
「いきなりなにを言い出すの?突然離婚だなんて」
「そうだよ。父さんも母さんも仲は良いし、家の雰囲気も悪くない。離婚する意味はないよ」
両親は美蘭が冗談を言っていると思っている。美蘭は真剣な表情を崩さない。
「じゃあなんで二人とも顔を合わせないの?私二人が話してるところなんて最近見たことないよ」
「美蘭が出かけた後とか、いないところではちゃんと話してるから」
両親は不仲を否定し続ける。しかし美蘭は首を横に振る。
「もう隠さなくていいよ。二人が私のいないところで喧嘩してるの知ってるから」
見透かされて両親は目を見開いた。美蘭は構わず話を続ける。
「どうして二人の仲が悪くなったのかはわからない。私は二人の仲が悪くなってから、家に帰るのが嫌になった。それがもう四年も続いて私もううんざりだよ」
積もりに積もった鬱憤を晴らすようにやや声を荒らげて言った。今までなかった娘の様子に両親は怯んでいる。
「私のことは気にしなくていいから、もう離婚してほしいの」
想いを打ち明けた美蘭は両親からの返答を待つ。両親はなにも言えずに美蘭を見ることしかしなかったが、やがて母親が口を開く。
「もし私たちが離婚したら、美蘭はどっちと行きたい?」
「父さんのところに来るといいよ。僕なら美蘭を養える。好きなものもなんでも買ってあげるよ」
「美蘭は私のところに来るわよね。私ならこの先も美蘭を幸せにできるし、美蘭だって私の方が好きよね?」
両親はお互いに美蘭を引き取ろうと口説こうとする。しかし美蘭は首を横に振る。
「私はケンヤさんたちと一緒に行く」
その一言に両親は言葉を失う。
「彼らと一緒って、山奥の村に行くってこと?」
両親は娘が異世界に行っていたことを知らない。眼鏡の記憶改変で人知れない村に行っていたことになっている。美蘭は黙って頷いた。
「わざわざそんな場所に行かなくても、美蘭は私がこの先も面倒を見てあげるから。それに田舎なんかよりも都会の方がいいでしょ?」
母親に美蘭は言い返す。
「ここと全然変わらないよ。むしろいい人たちばっかりだからここよりもいい。それに今は、ケンヤさんたちといた方が楽しい」
「どうして僕じゃなくて彼らなんだい?たしかに美蘭を助けてくれた優しい人たちだけど、それだけだろ?」
「それだけじゃない。ケンヤさんたちの家は毎日賑やかで、ギスギスした家とは違う。それに」
一瞬言うのを躊躇いつつも、
「私もう二人のこと好きじゃないから」
美蘭ははっきりと伝えた。思わぬ爆弾発言に両親は凍りつく。
「私は仲が良い二人が好きなの。前みたいに笑顔で毎日話す二人が好きだったのに、会話もなくて雰囲気も悪くて、今の二人は好きじゃないよ」
美蘭は冷たく突き放した。これで少しでも関係が修復され仲直りすることを期待した。
「ごめんな美蘭。でもお母さんの散財が原因なんだ。わけのわからないものをたくさん買ってきて」
「わけのわからないってなによ!あれは運気が上がるものなの!私は家のことを考えているの!誰よりも美蘭のことを想ってるの!」
「なにが想ってるだ!だったら少しでも散財を止めろと言ってるんだ!」
両親が美蘭の目の前で口喧嘩を始めた。言い争いは次第にエスカレートしていき、二人の荒らげた声がリビングに響き渡る。美蘭は喧嘩を止めずに黙ったままだったが、やがてテーブルを叩きつけて立ち上がる。
「仲直りしてくれるって信じてたのに……」
両親と目を合わせずにポツリと呟く。
「もういいよ。さよなら」
美蘭は両親の制止を聞かずに家を飛び出した。
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夜の町を走ってやってきたのは、誘拐事件の現場だった高校近くの公園。美蘭は人気のない暗い公園のブランコに座り小さく漕ぎながら俯いていた。
「………」
両親は美蘭の期待とは裏腹に目の前で喧嘩を始めた。もう昔のように仲睦まじい家族でいられるのは無理だと悟った。
「美蘭さん」
誰もいないはずのこの場所で聞き覚えのある声をかけられて顔を上げる。目の前にはケンヤが、その後ろにはキザミとマザンが立っていた。
「お父さんとお母さんはどうしてましたか?」
「下から怒鳴り声が聞こえてきたから俺たちも出てきたよ」
変わらずの両親に美蘭はため息が出てしまった。もしかしたら考えを改めて両親が来てくれるという淡い期待も消滅した。
「僕たちもう帰るけど」
「マザンさん。私も連れてってください」
「本当にいいのか?」
「瑞香と明乃に会えないのと、部活に行けなくなるのは嫌ですけど、もう帰る場所がない私はこの世界にいても意味はありません」
寂しさを感じないスッキリとした笑顔を見せた。美蘭の決意を感じたマザンは、ケンヤとキザミにそれぞれ視線を向ける。二人は異論はなしと頷いた。
マザンが美蘭に背を向ける。手を突き出すと、以前のように黒い穴が出現する。マザンは一度美蘭に振り向いた後、なにも言わずに向き直り黒い穴に飛び込んで行った。ケンヤとキザミも続けて穴の中に入って行く。美蘭も彼らの後に続いて、思い切って穴の中に飛び込んだ。
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「わぁ!」
勢いよく穴から出てきた美蘭。勢い余って転倒しそうになったところをキザミが受け止める。
「大丈夫か?」
「ありがとうございます」
地面をしっかり踏みその場を見回す。辺りには古めかしい建物たち。そして目の前にはすでに住み慣れた新しく帰る家があった。ケンヤが一歩進んで微笑みながら両腕を広げた。
「ようこそわーるどへ。ようこそ、私たちの世界ルスリドへ。私たちは美蘭さんを歓迎します!」
ケンヤたちの歓迎を受ける。初めて訪れた時の不安とは違う、新たな環境への変化に興奮がふつふつとわいてくる。
「美蘭さん。改めて、これからもどうぞよろしくお願いします」
「はい!こちらこそ、よろしくお願いします!!」
こうして、東美蘭の果てしなく続く異世界での生活が始まった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。これにて一章完結です。これからもスローペースで頑張りますのでよろしくお願いいたします。
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