1737:気づいた。
男性陣は島の中を探検したり、女性陣はコテージでおしゃべりに興じていたりと、各々、好きな過ごし方でバカンスを満喫していた。
二日目、三日目になれば、島に慣れたメンバーはなにをしようかと相談している。グイーさまたちは夜になれば酒盛りを始めるため、昼間はゆっくりと過ごしていた。アリーさまだけは体力が有り余っていて、島の中を自由に探検していた。
以前見つけた遺跡の中を探索してきたと言っていたけれど、本当にマイペースというか、なんというか。シェクトさまたちもなにか参考になるものはないかと、島をウロウロしている。そんな三日目のお昼過ぎ、フィーネさまが女性陣が集まる談話室で『はい!』と手を挙げた。
「せっかく海にきたんです。みんなで泳ぎませんか!?」
「泳げない人がほとんどですよ」
内陸に住んでいる方が多いから、泳げない方がほとんどである。島に遊びにきたことがある方は少しだけ泳げるようになっているけれど。それに貴族女性は陽の光が大敵である。
私が大丈夫かと心配していれば、特に問題はないとのこと。ウーノさまたちも問題ないらしいし、セシリアさまとアルティアさまも興味を示していた。渋い顔になっている私に、フィーネさまが顔をぐっと近づける。
「泳がなくても良いですし、泳げなくても良いじゃないですか。浜辺で遊ぶだけでもきっと楽しいですよ! ほら、砂の城とか作っちゃったり!」
それもそうかと私は頷いて、なにか遊べるものをもってきていないかとロゼさんに中をみて貰う。ボールくらいしかないから、ドッチボールとかネットのないビーチバレーでもみんなでやってみるのも良いかもしれない。
「では行きましょうか」
そういうことで、リンとアリアさまとロザリンデさま、アリサさまとウルスラさまが立ちあがる。当然、ヴァルトルーデさまとジルケさまも行くとなって、ウーノさまと妹さま方とセシリアさまとアルティアさまも腰を上げる。男性陣はどうしようか。誘わなければ、遠慮してこない気がする。移動の途中で男性陣の誰かと会えると良いけれど、浜辺までどうなることやら。水着が存在しない世界なので、薄い服で泳ぐしかない。
「なるようになるかな」
私がそう呟き、談話室を出ようとすれば、エッダさんが困り顔で私に声を掛ける。私はフィーネさまたち女性陣に先に向かっていて欲しいと告げた。するとフィーネさまが『待っていますからね!』と言い残して、みんなとコテージを出て行く。私とリンが残り、エッダさんに視線を向けた。改めてエッダさんが背を正し、意を決した顔になる。
「ご当主さま、家宰さまからご連絡が届きました」
なにを告げられるのだろうかと私は身構えた。
「ユーリさまが、皆さまがいないと大泣きしているようで」
「ありゃ」
「どうなさいましょうか?」
エッダさんが苦笑いを浮かべていた。リンも『ああ』と小さく声を上げる。肩の上のクロは『気付いちゃったんだねえ』と首をくるんと回転させている。流石にこのままユーリを二週間、侯爵邸でお留守番をさせるのは酷だろうか。私はディアンさまの下へ行こうとリンに顔を向け、エッダさんも一緒にいきませんかと声を掛けた。
「えっ?」
驚くエッダさんは、自身が亜人連合国の代表の下へ向かうとは全く考えていなかったらしい。ディアンさまたちなら、彼女のことは特に気にしないはず。
コテージで待機しているだけでは暇だから、外に出てみませんかというつもりだったが、エッダさん的に行って良いものか迷っているらしい。その辺りは当主権限でどうにでもなるし、嫌でなければ行きましょうと私は伝える。
「承知しました」
エッダさんはなにかを諦めたように息を吐き、私の後ろに控えてくれた。そうして私もコテージの外に出て、ディアンさまたちがいるダークエルフさんの村を目指す。途中で男性陣が泊っているコテージが見えてきた。するとジークが窓から顔を覗かせている。
「どうしたんだ、ナイ?」
「ジーク、クレイグ、サフィール。さっき振り」
彼らとは先程お昼ご飯を一緒に頂いていた。私がユーリのことを伝えれば、三人とも苦笑いを浮かべている。ユーリが成長した証だよねと肩を竦めると、ジークも一緒に村へ向かってくれるそうだ。
「クレイグ、サフィール。女性陣は浜辺で遊んでいるから、興味のある人は行ってみて。私もあとで合流する」
「分かった。みんなに声掛けてみる」
「リンもくるよね?」
クレイグが頷き、サフィールがリンを見れば『ん』と返事をしていた。ジークはいつの間にか窓の側から消えていて、コテージの外に出ている。魔法みたいな速さだなと感心していると、私の後ろにジークが付いた。なんとなく昔に戻ったみたいだと肩を竦めた私は村を目指す。村の入り口に辿り着けば、村長さんが真っ先に私たちに気付いてくれる。
「どうなさいました、ナイさん」
「代表さまはいらっしゃいますか?」
村の入り口でそんなやりとりをしていると、ひょっこりと奥からディアンさまが姿を現した。ベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんも一緒だ。
「どうした?」
「申し訳ないのですが、飛竜便をお借りしたく」
私は代表さまたちを見上げながら、ユーリのことも伝える。すると代表さまたちは肩を竦めて、すぐに事情を理解してくれた。そうして青竜さんと緑竜さんが侯爵邸へと向かってくれることになる。
しかし超大型の竜の方が二頭舞い降りれば、凄く騒ぎになりそうだ。家宰さまには連絡を入れるので大丈夫だと思いたいが……果たしてどうなるのやら。私は家宰さまに向けた手紙を念のために認め、青竜さんと緑竜さんに託した。ジークとヴァナルも一緒に行ってくれるそうだから、ユーリが空の上でぐずっても問題なさそうだ。
「気を付けて!」
そう伝えると青竜さんと緑竜さんとジークとヴァナルが頷いた。翼から起こる風を受けながら、彼らが小さくなるまで空を見上げている。
青竜さんと緑竜さんにジークとヴァナルには少し申し訳ないことをしてしまったが、ユーリの成長が感じられて嬉しい限りだ。お見送りをしてくれていたディアンさまたちは私の横で小さく笑っていた。ユーリの成長を喜んでくれているようで有難い限りだ。私はこのまま帰るわけにはいかないと、ディアンさまに向き直る。
「そうだ。今日は浜辺で泳いだり、遊んでいるのですが、ディアンさまたちも行きませんか?」
「私たちは遠慮しよう。楽しんでいるところを邪魔しては悪いしな」
「そうですねえ」
ディアンさまとベリルさまは村で開発計画をダークエルフの方たちと立てるそうである。人が住める環境になったので、次は畑や果樹園を増やすとか。
島の主であるガンドさまも許可を下さっており、順調に計画が進んでいるそうだ。美味しい南の島のフルーツが採れたら贈ってくれるそうである。ダリア姉さんとアイリス姉さんはいかないかと私が視線を移動させれば、お二人は良い顔になっていた。
「じゃあ、私たちが代わりに行きましょ!」
「ねーみんなで遊ぼ~」
じゃあ行きましょうかと、私たちは浜辺を目指す。ジークがいなくなって少し寂しい気もするが、明日の朝には戻ってくるから大人しく待っていよう。フィーネさまは皆さんを先導できているだろうか。アリアさまがいるから、きっと二人でなんとかしてくれているはずと、獣道を進んでコテージへ戻り、更に道を進んで浜辺に出た。
「泳げる方は泳げない方に教えてあげてくださいー!」
フィーネさまの声が聞こえ、ヴァルトルーデさまがドヤ顔をして先生を務める気になっていた。凄く面白い光景だと笑っていれば、ダリア姉さんとアイリス姉さんが『女神さまに教えて頂くの?』『凄いことだね~』と小声で呟いていた。
ジルケさまは浜辺に設置されたパラソルの下で椅子に腰かけて、のほほんとしていた。ジャドさんたちやクロエおばあはヤシの木の陰でゴロンと寝転がっている。エルとジョセたち天馬さまは森の中の草を食べに行くと言っていた。ダリア姉さんとアイリス姉さんはフィーネさまの下へと歩いて行った。どうやら泳ぎを教えて貰うようである。
アリーさまの姿は見えないので、島のどこかで探検しているのだろう。夕方になれば彼女は晩酌のためにひょっこりと戻ってくる。
ウーノさまたちアガレス組はどうしたものかと考えている。セシリアさまとアルティアさまはジルケさまと同じくパラソルの下で海を眺めていた。
「ウーノさまたちに声を掛けてくるね」
「私も行く」
リンに声を掛ければ、一緒にきてくれるそうである。所在なさげにしているウーノさまの下へと向かえば、彼女たちは苦笑いを浮かべていた。
「ナイさま。どうすれば良いのか分からず、ご迷惑を掛けてしまい……」
「気になさらないでください。私が皆さまをお誘いしたので、楽しんで貰えるように努めるのは当然のことですから」
しょぼんと凹んでいるウーノさま一行に私は笑みを作る。急にこういう場所にきたら、なにをすれば良いのか分からない気持ちは理解しているつもりだ。
ゆっくり過ごしても、遊び倒しても誰も怒らないのだから遠慮しないで欲しい。とはいえウーノさまたちはお客さまだ。ホストとして放置は良くないと肩を竦めれば、ウーノさまがじっとこちらを見つめている。
「ユーリさまはどうなさるのですか?」
「島にきて貰おうかと。目が離せなくなりますが、彼女にとっても良い経験となるでしょうから」
子供は気まぐれだから、直ぐに飽きて戻りたいと言い出すこともあるだろう。念のために侯爵家の方に直ぐに戻れるように手配した。本当に竜の方様々である。
「そうでしたか。ずっと泣いてばかりでは疲れてしまいましょうから。安堵いたしましたわ」
ウーノさまはユーリを心から心配してくれていたようである。大人ばかりの環境に子供を一人入れることに申し訳ない気持ちがあるが、気に掛けてくれる方は多そうだからユーリが島にきても大丈夫だろう。ユーリの面倒は私がみれば問題はもっと少なくなるはず。
その前にたくさん遊んでおこうと、私はウーノさまを見上げながら『泳いでみませんか?』と声を掛ければ、少し躊躇いながらも返事をくれるのだった。




