1733:寝ずに考えた。
皆さまが揃ったところで、グイーさまたちがくる番となっている。
グイーさまはみんなに驚いて頂くために、派手な登場をするぞと張り切っていた。もちろんナターリエさまとエーリカさまは引いていたし、ヴァルトルーデさまとジルケさまも毎年恒例の登場の仕方で良いのではと訝しんでいた。
娘さんたちの言葉を無下にしてもグイーさまは皆さまに『凄い』と言って頂きたいようで、寝る間も惜しんで考えていたようである。テラさまに助言を頂くとも言っていたし、果たしてどうなるのやら。
そろそろくるかなと南の島の面子は創星神さまの登場を待っていた。すると幾何学模様が地面に浮かび、テラさまとナターリエさまとエーリカさまの姿が現れる。そしてシェクトさまとヴォイドさまとプライムさまも一緒だった。
「やっほー! 今年もお世話になるわ! みんなよろしくー!!」
テラさまが高らかに声を上げた。去年よりテンションが高めだから、徹夜明けなのかもしれない。ナターリエさまとエーリカさまは『お母さまは相変わらずお元気そうで』『はしゃげることが羨ましいです』とテラさまに視線を向けている。
『創星神さま、島へお越しいただきありがとうございます』
ガンドさまがテラさまたちとシェクトさまたちに頭を下げた。神さま方を前にして大白蛇のガンドさまが頭を垂れる姿は面白い。一部の方たちは『神々しい』と呟いているから、とても貴重な光景のようである。神さま方はディアンさまと村長さんにも挨拶を済ませると、シェクトさまとヴォイドさまとプライムさまは周囲を見渡してなにかを探していた。すると私とバッチリ視線が合う。
シェクトさまがスライムボディーを動かして、私の前へと歩み寄った。後ろにはヴォイドさまとプライムさまも控えている。
『ナイ。短いけれど、よろしく』
ぬーーとシェクトさまの身体の一部から触手のようなものが伸びてくる。私はシェクトさまの下へとしゃがんで手を差し出した。
「シェクトさま、よろしくお願いします。シェクトさまとヴォイドさまとプライムさまが楽しく過ごせるように努めますね」
言葉と同時に頭を下げて、伸びてきた触手のようなものを握り込んだ。シェクトさまは握手をしたかったようで、間違いではなかったことに私はほっと息を吐く。しかしシェクトさまたちが楽しく過ごせるようになるには、どうすれば良いのだろうか。
難しい問題であるが、みんなが一緒にいるから、たくさんの人たちに囲まれてお喋りする時間や、一緒に雑魚寝をしたりすることが楽しいと感じて頂けると良いのだが。テラさまたちは昨年も島へと訪れているから慣れたものだから接待は必要ない。
シェクトさまは私と握手を交わせばボディーの光の変化が早くなる。大丈夫かと私が首を傾げると、普段のタイミングに戻った。シェクトさまの後ろに控えているヴォイドさまとプライムさまは私が彼らを『さま付け』で呼んだことに不服のようだ。仕方ないと私は片眉を上げながら立ち上がり、ヴォイドさまとプライムさまと視線を合わせた。二柱さまの背は高いので見上げているけれど……ヴォイドさまとプライムさまは軽く頭を下げる。
「母上、ご招待いただき感謝申し上げます」
「お母さまからのお誘い、嬉しく存じます」
ヴォイドさまとプライムさまが私のことを『母』と呼ぶのは直っていないけれど、まあ、個人的な場となっているから問題なかろうと私は口を開く。
「ヴォイドとプライムに夏休みの概念が伝わると良いけれど……二週間、楽しんでくれると嬉しいな」
私が二柱さまを呼び捨てれば、凄く蕩けた表情になっていた。そんな顔もできるんだねえと私は感心しながら、そういえばグイーさまはまだかと首を傾げる。
『グイーはお調子者。そろそろくる』
「あー……みんなーごめんね~グイーの登場の仕方にちょっと驚くかもしれないわ」
シェクトさまが声を上げたあと、テラさまも言葉を紡いだ。お二方の声は場にいる皆さまへと伝わったようで、なにがあるのかと皆さまが身構える。すると黒い雲が島の上を覆い、地鳴りが響く。ゴロゴロと鳴り始めた雷に今にも雨が降りそうだった。集まった皆さまが今にも降り出しそうな空を見上げる。ただ神さま方は呆れている様子をありありと見せている。
「父さん、なにやっているの」
「親父殿、気合入り過ぎだろ」
ヴァルトルーデさまとジルケさまが溜息を吐き、ナターリエさまとエーリカさまが『本当に』『残念なお方ですわ』と口にしていた。散々な言われようであるが、これがグイーさま一家である。
女系家族の中で男性の立ち位置が低いのは世の常なのかもしれない。ゴロゴロと鳴る雷鳴がどんどん近くなっていく。落ちたりしないよねと周りの皆さまと話していれば、海の中に一筋の雷が『ピカッ』と落ちた。そうして落ちた場所の海が割れて島へと続く。雷が落ちた場所にはなにやら人影のようなものが見えた。
「もしかして、あれ、グイーさま?」
私が首を右に傾げると、側にいたジークとリンが海に視線を向けて眉を顰めていた。そっくり兄妹には人影のようなものがグイーさまと分かるだろうか。
「みたいだな」
「今年は派手だね」
どうやら人影はグイーさまのものであるようだ。ジークとリンが口にしたならそうだろう。肩の上に乗っているクロも『テラさまが仰ったとおり、今年は気合が入っているねえ』と尻尾を右へ左へと振っている。
一緒にきているエルとジョセやジャドさんたちは『愉快な創星神さまですね』で片付けている。そういえばヒトミチさまはグイーさまと初対面だから、この派手な登場にドン引いていないかと私は彼を探す。するとナガノブさまとアリーさまに挟まれていたヒトミチさまは割れた海を見つめて目を輝かせていた。
あー、うん。心配は必要なさそうだ。
病み上がりだしと気に掛けたのは無駄だったようである。とはいえグイーさまの派手な登場を受け入れられる度量があるのであれば、島での二週間はきっと楽しいはず。あまり無茶はできないだろうけれど、体力を取り戻すために島の探検に向かっても良さそうである。
まあ、ヒトミチさま次第だなと私も海へ視線を戻せば、グイーさまの姿が随分と島に近づいていた。グイーさまと酒飲み友達であるボルドー男爵さまとアリーさまとナガノブさまも私と同じように海へ視線を向けている。
「愉快なお方だ」
「私も真似してみたいな!」
「同じことはできぬが、派手な登場も良いものだな!」
お三方ははははと笑いながら、グイーさまがこちらにくるのを待っている。お三方の余裕の態度を常識組に入る方たちが少々引いていた。常識組の方たちには申し訳ないが、神さま方と対面している時点で奇跡である。
常識はどこかに置いていかないと、驚くばかりで疲れるだけだ。副団長さまと猫背さんは天候操作を魔術でできるかどうか真面目に話合っている。魔術師として変態なお二人であれば、いつか天候操作の術式を開発しそうだ。
そうなる未来が訪れないようにと私が願っていると、グイーさまがようやく合流する。にかっと歯を見せながら笑うグイーさまだが、片側の肩には酒樽を抱えていた。みんなで飲むお酒を持ってきてくれたようで、砂浜に勢い良く酒樽が置かれる。
「皆、待たせたな! 今年の儂の登場はどうだった?」
ドヤとグイーさまが胸を張るのだが、集まっている皆さまはどう答えたものかと迷っていた。ヒトミチさまと副団長さまと猫背さんは目をキラキラ輝かせているけれど。さて、どう答えたものかと私が一歩前へと踏み出そうとすると、テラさまがグイーさまの肩をパシンと叩く。
「ほら、グイー。どう答えれば良いのかみんな困っているじゃない。そういうことは聞かないの!」
テラさまの声に皆さまがほっとしているものの、グイーさまは不満気だ。えー!? という声を上げて肩を落としそうになっている。
「グイーさま、お久しぶりです。毎回、同じ登場の仕方でしたから、今日はなにが起こるのかと身構えてしまいました」
「お、ナイ! そうだろう、そうだろう! 昨日、寝る間を惜しんで考えたし、海の者たちや空の者が危ない目に合わないように、ちゃんと手配しておいたんだ!」
グイーさまが腕を組んで笑っているのだが、そこまで考えるならいつもの登場で良かったのではないだろうか。でもまあ、本神さまが楽しそうであれば良いのかと私が片眉を上げていると、足元にシェクトさまがいた。
『自慢することじゃない』
「なんだ、シェクト。お前さんの星は生き物が極々僅かで、儂らが力を放っても誰も迷惑を被らぬ場だ。お前さんの星も儂のように気を配るようになれば良いんだがのう」
シェクトさまにグイーさまが上半身を折って顔を近付けた。グイーさまはシェクトさまを凄く気に掛けているような気がする。でもまあ、そんなグイーさまだからこそ、島に行きませんかとか、いろいろと聞いているわけで。シェクトさまはグイーさまを微動だにしなかったのに、ぽよんと身体を動かした。
『……少し変わった』
「おお? そうか、そうか! いつかはヴォイドとプライム以外の話し相手がシェクトにできると良いんだがなあ!」
どうやらシェクトさまの星に少し変化があったようである。グイーさまがニッと笑い、テラさまも『おや?』と首を傾げた。ヴォイドさまとプライムさまもうんうんと頷いているから本当に星に変化があったようだ。シェクトさまの星ってどういう場所だろうと興味が湧くものの、遠いだろうし、行けることはないだろうなあと私は目を細くする。
「まあ、なににせよ。皆、二週間よろしく頼む! 我々のことは同じ人間として扱ってくれて構わんぞ!」
グイーさまの声に頷く方たちと、苦笑いを浮かべる方たちに、顔を引き攣らしている方と分かれていた。グイーさまは親しみやすいし、お酒を貢げばご機嫌になる。一緒に話す良い機会だから、皆さまと仲良くなれると良いのだが。もちろんグイーさまだけではなく、テラさまとナターリエさまとエーリカさまとも親交を深めて欲しい。神さま方がこうして地上に降りているのは、みんなと交流したいという意思の表れのはずだ。
「荷物、コテージに置きに行きましょうか」
私が声を上げると、みんなが頷いて移動を始めるのだった。




