1727:夏の準備。
庭師の方から畑の妖精さんたちが昨日から張り切って野菜を作っているという報告が入った。
私が魔力を放出したというわけではないし、二柱さまもなにかしたわけではない。どうして急に張り切っているのか分からないけれど、とりあえず私は様子見ですねと口にするしかなかった。
あと二ヶ月ほどで南の島行きとなっているため、今年も参加者に招待状を送っているところである。月日を経る度に参加者が増え、高貴な参加者が増えている気もするけれど気にしたら負けである。ただ、ソフィーアさま夫婦とセレスティアさま夫婦が参加できないと、お断りの手紙を頂いておりソコに関しては凄く残念だ。
来年には一緒に行けるかなと考えながら、執務室の机で参加者宛ての手紙を認めながら私は息を吐く。
「ナイさま如何なさいました?」
セシリアさまが執務の手を止めて私に声を掛けた。少し私の溜息が大きかったようである。気を付けなければと私も手を止めて背を正した。
「いえ、ソフィーアさまとセレスティアさまが南の島へ向かわないことが残念だなと。仕方ないことですが」
片眉を上げながら私が答えると、今度はアルティアさまが執務の手を止めて良い顔を浮かべる。ちなみに家宰さまは本日、お休みである。
「娘たちは来年には参加できるかと。代わりにわたくしたちが参加することになり、嬉しい限りですわ!」
ソフィーアさまとセレスティアさま方が参加しない代わりに、ハイゼンベルグ公爵夫妻とヴァイセンベルク辺境伯夫妻が島を訪れることになっている。コテージがあるから野宿にならないけれど、侯爵位を持つ方と辺境伯位を持つ方が二週間も南の島で過ごせるのか。
でもまあヤーバン王も誘い、フソウのナガノブさまとヒトミチさま――随分と回復したようである――も参加予定で、アガレス帝国のウーノさまもくるのだから今更か。アルバトロス王国の陛下にも島行きのお伺いを立ててみたものの、丁寧なお断りの手紙を頂いている。そして来年は王太子殿下夫妻を誘ってあげて欲しいとも書かれていた。
「皆さまに楽しんで頂けると良いのですが」
いろいろな方を誘っている手前、私には皆さまに快適な時間を提供する義務がある。アルバトロス王国の方以外の参加もあるので、各地自慢の食材を持ち込んでくれるそうだ。
それならアルバトロス王国自慢の食材も持っていかなければならないだろう。アルバトロス王国の素材に限らず、美味しい物は持って行く予定である。皆さまが新しい食材に興味を持って頂き、取引が始まれば交流も生まれるはずだ。
ヴァナルと雪さんと夜さんと華もくると知っているから、ナガノブさまは権太くんと松風と早風も連れてきてくれるそうだ。帝さまは年齢を理由に外へ出ることはないから、フソウにまたきて欲しいとお願いされている。
アガレス帝国のウーノさまからも遊びにきて欲しいとお誘いを受けており私たちの日程を調整中だ。私たちの都合に合わせてくれているので申し訳ない限りである。そんな話もあるから、やはりホストとして頑張らなければと私が考え込んでいると、セシリアさまとアルティアさまが苦笑いを浮かべていた。
「そう気を張らずとも。娘からは島でゆっくり過ごすのも良いと聞いておりますわ。オンセンもあると聞いておりますし」
「ええ。森を探検するも良し、竜の方々と触れ合うのも良し、ダークエルフの方たちと狩りに出かけるのも良しと我が娘からも聞いておりますわ。エルさまとジョセさまご家族にジャドさまたちもこられるとお聞きしました。楽しみでなりません!」
ふふふと笑うお二人に私は『今から考え過ぎると知恵熱を出してしまいますね』と苦笑いになる。自然の中でゆっくりしようと目的に掲げている方もいるだろうから、騒がし過ぎるのも問題になりそうだ。とはいえ海のど真ん中の孤島のため騒いでも誰からも注意は受けない。本当にバカンスに適した土地だ。毎年、島行きを許可してくれる亜人連合国の皆さまには感謝しないと。
ヴァルトルーデさまとジルケさまも南の島へ向かうのは楽しみにしているそうである。アストライアー侯爵領領主邸の環境と違っている――植生とか住んでいる生き物の違い――ことを比べるのが面白いとか。副団長さまと猫背さんも誘わなければ血の涙を流しそうだなと私は追加の手紙を認める。ふいにとある方の顔が過って、私は机から顔を上げた。
「あ……グイーさまたちにもお誘いの手紙書かないとですね。あれ、でも誰が届ける……私が魔力開放して呼べば良いのかな?」
そうだ。グイーさまも誘わないといけない。ヴァルトルーデさまとジルケさまが島へ向かうから話は伝わるけれど、招待状を送っておかなければ参加し辛いかもしれない。
グイーさまだからお誘いがなければ『まだかのう?』と声が届きそうではある。テラさまも参加してくださるなら楽しくなるだろう。しかし招待状をヴァルトルーデさまかジルケさまに預けるのは違う気がする。やはり魔力を開放してグイーさまに繋げるのが一番だろうか。テラさまに繋げるにはヴァルトルーデさまかジルケさまの補助が必要となるので、グイーさまにテラさまを誘って頂こう。
うんうん、と私が頷いていると、セシリアさまとアルティアさまが呆然とし、肩の上に乗って手紙を覗いていたクロが声を上げる。
『創星神さまを呼び出すことができるのはナイくらいだよ』
「そうかな? 魔力が多ければ感知してくれそうだけれど。創星神さまだし、グイーさま」
クロが呆れているけれど、案外簡単にグイーさまと繋がれるのではないだろうか。でなければ私が魔力ドパーしてグイーさまと繋がることなんてできやしないのだから。
あ、まあ、私の場合は南の島で『魔力を寄越せ』と言われるまま、渡したことがあるからグイーさまと繋がりやすくなっているのかもしれないが。だから、個人の魔力波長をグイーさまが知っていれば繋がりやすそうだけれど。
『そういうところだよ、ナイ?』
「どういうところだろう?」
クロと私が首を捻っていると、首筋に違和感が走る。
――もう少し敬ってくれても良いんだぞ?
グイーさまの声が聞こえた気がするけれど、グイーさまのことをクロと話していたから空耳だろう。しかしグイーさまをお誘いするなら、彼のお方もお誘いしなければ失礼に当たるのではないだろうか。
「シェクトさまにも、南の島に行かないか聞いてみようか」
私の声にクロが『そうだねえ』と口にして、話を聞いていたセシリアさまとアルティアさまが顔を引き攣らせていた。シェクトさまの圧は凄いけれど、話すととても穏やかな方である。
ヴォイドさまとプライムさまの私に対する接し方はおかしいが、態度は凄く丁寧だからなにも問題はないはず。神さま方より、人間の方がヤバい方が多い気がする。シェクトさまにはお手紙を出すより、通信でお知らせすれば良いだろう。流石に星を超える通信は無理な気がする。まだ枯れていない七色に光る花のお礼もしなければならないし、シェクトさまと話すことが結構溜まっている。
――我を無視しないで!?
グイーさまの声がはっきりと私の耳に届く。
「グイーさま、話を聞いていたのですか?」
私が顔を上げて天井を見上げてもグイーさまの姿は見えないが、きっと神さまの島から覗いているのだろう。セシリアさまとアルティアさまは私が『グイーさま』と声を上げたことにより、席から勢い良く立ち上がり礼を執る。
――聞いとるもなにも、ナイは儂に手紙を出そうか、直接繋がるか迷っていたではないか。なんとなく分かって覗いてみれば酷い扱いだ!
どうやらグイーさまは私が頭の中で考え始めたあたりから、様子を神さまの島で伺っていたようである。声を掛けたものの私が気のせいだと処理して、ほんの少し怒っているようだ。
「申し訳ありません。グイーさまの声が届くとは思っておらず、空耳かと」
――まあ、良いが。前の時も楽しかったからな。儂も行くし、テラも行くだろう。北と東の娘たちも行っても良いか?
ふふん、とグイーさまの楽し気な雰囲気が伝わってくる。テラさまはゲームの発売時期が重ならなければという感じだろう。ナターリエさまとエーリカさまは南の島行きに参加してくださるだろうか。外での活動を苦手としている女神さま方だから、グイーさまに無理矢理連れてこられるのは違うはずと私は口を開く。
「もちろんです。ナターリエさまとエーリカさまに参加の是非を聞いてくださると助かります。あ、強制は駄目ですよ」
私が声を上げれば、グイーさまの雰囲気が少し遠のいた。
――もちろん、向かいますわ、ナイ。
――楽しみにしております。
グイーさまの声の代わりに今度はナターリエさまとエーリカさまの声が聞こえる。どうやら二柱さまはグイーさまの側で話を聞いていたようだ。そして招待状を受けてみたいから、末妹であるジルケさまに預けて届けさせれば良いとも語る。
「では、ジルケさまに招待状をお預けしますね。大したものではないですが」
本当に私が書いた招待状は至って普通のものである。テンプレートのお誘い文句があり、それを少しアレンジしているだけのものだ。喜ばれるようなものではないけれど、ナターリエさまとエーリカさまは一度貰ってみたかったとか。なんだかミーハーな女神さまだなと私が小さく笑っていると、遠のいていたグイーさまの雰囲気が強くなる。
――ナイ、ナイ! 儂にも!!
グイーさまも招待状を見てみたいようだ。まあ一通増えたところで手間ではないかと私は『承知しました』と告げれば、凄くご機嫌そうな雰囲気が伝わってきた。果たしてグイーさまは創星神さまなのだろうか。本当に愉快な近所の小父さまとしか思えない。私がグイーさまを疑っていると『あ』と彼の声が届く。どうしたのかと私が首を傾げると、ナターリエさまとエーリカさまの不思議そうな気配が届く。
――そういえば、ナイ。お前さん、南の島に向かっ……――痛い! 急になにをする!? あ、うぇ、ちょぉ……!?
ボコンという筋肉質な人を殴ったような音が聞こえると、グイーさまの声が遠ざかった。大丈夫かとクロと顔を見合わせると、エーリカさまの『招待状、待っていますわ』と声が聞こえ、首筋に感じていた圧が完全に消える。
「なにか言いかけてたけれど……グイーさまだから、お酒たくさん用意して欲しいってお願いだったのかな?」
それならグイーさまの気配が二柱さまの手によって消えたと納得できる。クロは私の声にくるんと顔を動かした。
『分からないねえ。でも、グイーさまたちもきてくれるみたいだから、気合を入れて用意しないとねえ』
「うん。あとはシェクトさまにも聞いてみるね」
なににせよ、今年も楽しい夏休みになりそうだと私は笑い招待状を認める。あとは皆さまに送って返事を待つだけだ。シェクトさまも参加してくださると良いなと願いながら、執務室で今日の仕事を捌いていくのだった。




