1545:関わらない方が良いはず。
どこぞの創星神さまは創造神さまから力を託され『試しに星系ひとつ管理してみ?』と命を下されたそうである。本来、創星神さまが管理する星は一柱さまにつき一つとなっているのだが、創造神さまはどこぞの創星神さまに新たな試みとして託したようである。
一つの星の行く末を見守ることが使命だというのに、星系一つ任せられたどこぞの創星神さまは一先ず主星を生み出してしばらく管理していたのだが、まだ増やさなければならないことに対して『面倒』という気持ちが湧いたようである。まだ未熟な主星に生命が誕生するには時間が掛かるから、少し離れて他の創星神さまが管理する星を見学してみようとなったようである。
新人だったどこぞの創星神さまはこっそりと他の星への侵入を試みたそうな。
で。たまたま侵入した星がテラさまの星であり、世界を見て回って面白そうなことを見つけたのが日本だったとか。少し落ち着いたどこぞの創星神さまがご自身の管理星について語ってくれたのだ。相変わらずグイーさまとテラさまにどこぞの創星神さまは挟まれているのだが、語り終えたあと紅茶のお茶請けを美味しそうに頬張っている。
テラさまはご自身の管理している星の文化……というかゲームが模倣されたことに、微妙な顔を浮かべていた。管理している創星神さまが『問題ない』と判断していれば、創造神さまからなにも言われることはないけれど微妙な心境らしい。
「あまり良い気はしないし、ゲームを模した世界にしちゃったんでしょう?」
「おう。設定が都合の良いものだったからな。けどよ、ゲームの設定をそのまま模倣したけどシナリオ通りになんてなってないし問題ねえだろ? あいつが星の外に逃げる話なんて存在しねえしな」
テラさまの声にどこぞの創星神さまが軽い態度で答えている。ゲームの話や世界観に似るようにとどこぞの創星神さまは『設定』したそうである。なんだか大切なはずの星造りがゲーム感覚に見えてしまうのは気のせいだろうか。
「問題ないけれど、こうして迷惑を掛けているじゃない。なにも思わないの?」
テラさまは片眉を上げ珍しく困り顔になっていた。創星神さまとしてルール上は問題ないようである。ただテラさまが言いたいことはマナー等の領域なのだろう。そしてどこぞの創星神さまに知って貰い、次からは実行して欲しいようだ。
「思わねーよ。そもそもあたしらは星を生み出して見守るだけの存在だからな」
でも、どこぞの創星神さまはあっけらかんとしていて、テラさまの言葉を流している。そしてテラさまもグイーさまもルール違反ではないからどこぞの創星神さまを強く咎められないでいるようだ。さっきからテラさまが喋るだけでグイーさまは黙り込んでいる。お酒の飲み過ぎで腹でも壊しているのかと私が首を傾げていれば、テラさまが再度口を開いた。
「それはそうだけれど。はあ。日本で最近の若者の感覚が理解できないってニュースが流れていたけれど……私が感じるようになるなんて……世も末ねえ」
テラさまが深々と溜息を吐く。そういえば世代が違うと価値観が理解できないとか、新しい流行やルールについていけなくなるとテレビで流れていた。
私も三十代手前まで生きていたから、若い子の流行りに追い付けずよく分からないなあと苦笑いをすることもあった。新しく入ったアルバイトの子やパートの人と話が合わずに『あれ?』となったこともある。テラさまは今、世代間のギャップを身に染みて感じているようだ。
「グイーもナイも黙っていないで、この子になんとか言ってあげてよー」
声を上げたテラさまがどこぞの創星神さまの頭をぐりぐりと強く撫でている。どこぞの創星神さまは痛くないようだが、髪が乱れるとテラさまの手を払おうと奮起していた。ただテラさまの方が体格が優れているため、頭から伸ばされた手が離れることはない。さきほどから黙り込んでいたグイーさまがはっとした表情になり、テラさまの方へと視線を向ける。
「おお、すまん、すまん! ちと他の者たちと連絡とっておった」
どうやらグイーさまは他の創星神さまたちと話をしていたようである。念話のようなもので『ふんす!』と神力を使えば会話ができるそうだ。グイーさまはテラさまに謝りつつ、どこぞの創星神さまの方へ意味深な視線を向けている。そんな姿を見ながら私もテラさまの声に答えなければと口を開いた。
「私は神さま方のお話に割り込む権利はないので」
「ちょっとー! グイーもナイも当事者でしょー!? 私は巻き込まれた側だからねー?」
私が言い終えれば、テラさまがむっと頬を膨らませて怒っている。とはいえ本気ではなく、冗談というか軽く咎めている程度だ。巻き込まれたのはグイーさまもテラさまも私ものような気がするけれど……テラさまに助力を願った手前、なにも言えない。するとテラさまが一瞬で雰囲気を変えグイーさまへと顔を向けた。
「で、グイーはなにを話していたの?」
「大したことではないのだが」
そう告げたグイーさまは他の創星神さまと話していたことを教えてくれた。曰く、新任の創星神がいて、ルールは守っているが礼儀やマナーがなっていないことをどうしたものかと相談したらしい。どこぞの創星神さまの行動を伝えると『それは教育やら躾が必要だな』となったそうである。どこか皆さまで集まって、どこぞの創星神さまと対話の時間を設けるそうだ。
「素直にごめんなさいができるまで、儂ら創星神からの話を聞くのだな!」
「げっ!? なんで余計なことすんだよ、おっさん!」
「お前さんから見れば、たしかにただのおっさんであろうなあ。しかし創星神としては儂や他の者たちの方が歴は長い。良い機会だから、他の者からいろいろと学ぶべきだ」
「げえ……!」
どうやらどこぞの創星神さまは先達の皆さまからの教育を受けるようである。なんだか壮観な光景だなあと私が目を細めていると、テラさまも『妥当かしらね』と小さく息を吐いた。
どこぞの創星神さまはゲンナリとしているが、まあ創星神さま同士のマナーを知らないなら実地で学ぶしかないだろう。グイーさまとテラさまがどこぞの創星神さまをどちらが連れていくのかと話し合いを終えると、テラさまがパンと一度手を叩く。
「はいはい! じゃあ、面倒な話はお終いっ! せっかくお菓子たくさん出して貰ったんだから、食べましょ、食べましょー!」
笑みを深めたテラさまは色とりどりの軽食とデザートが置かれている三段トレイに手を伸ばす。ルールを知っているようで一番下にあるサンドイッチを取っていた。グイーさまは少し首を傾げながら『酒の肴になりそうなものはないかのう』と声を上げるも、テラさまと同じ品を手に取って口に運んでいる。
「飯食うなんて、酔狂だよなあ。あたしら創星神は栄養取らなくても死なねえのに」
「長い時間を生きているから、楽しみがないと気落ちしちゃうじゃない。貴女にはまだ分からないかあ……って、さっきまで焼き菓子つまんでいたじゃない!」
どこぞの創星神さまが呆れた声を上げ、テラさまは肩を竦めたあとすぐに突っ込みを入れていた。たしかにどこぞの創星神さまはお菓子に手を伸ばして、美味しそうに食べていたと私は目を細める。どこぞの創星神さまは『うっせーよ』と口にしてぷいと顔を逸らしていた。その視線の先にはグイーさまがいて、ふうと小さく息を吐いていた。
「だなあ。お前さんもなにか楽しみを見つけられると良いな」
「あたしがなにも持ってねえみたいな言い方すんな!」
どこぞの創星神さまが猫が逆毛を立てるように怒っている。でも、なんだか嬉しそうなのは何故だろう。テラさまがどこぞの創星神さまをボッチと称していたから、誰かと話すことは心のどこかで嬉しいとか楽しいと感じているのかもしれない。それも、ご本神さまの気付かないところで。
まあ、私が深く考えても仕方ない。創星神さまには創星神さまたちの都合やなにかがあるのだから、たかが人間が手や口を出せるわけではないと、私も三段トレイに手を伸ばした。
料理長さまが焼いてくれたであろうスコーンを手にとってジャムを塗っていると、ジルケさまがなにやら私に視線を向けていた。どうやら側にある羊羹が鎮座しているお皿を取って欲しいようだ。ジルケさま用にと出された羊羹だと、私は目的のお皿に手を伸ばした。するとどこぞの創星神さまが懐疑な顔をして、私が持ったお皿を覗き込んでいる。
「なんだ、それ?」
「羊羹と呼ばれる食べ物ですね」
どこぞの創星神さまは日本にいたというのに羊羹を知らないようだ。何故だろうと不思議に思うものの、出会う機会がなければ口にはしないだろう。そもそもどこぞの創星神さまは食事は摂らないようだし。
「栄養ブロックみてえだな」
片眉を上げながらどこぞの創星神さまが呟く。たしかに四角い形だから栄養ブロックに見えなくもない。口にすれば甘く美味しいものと分かるけれど、未知のモノなら懐疑な顔をしても仕方ないのだろう。私はジルケさまにお皿を渡せば、大事そうに受け取った末女神さまがどこぞの創星神さまと視線を合わせた。
「渡しませんよ……」
ジルケさまは凄く嫌そうな顔をしてどこぞの創星神さまに言葉を放つ。どうやら他の星の創星神さまということで、ジルケさまのいつもの言葉使いは鳴りを潜めたようである。ジルケさまは敬語を扱えるのかあと感心していると、どこぞの創星神さまが片眉を上げた。
「うっせえよ、チビ」
どこぞの創星神さまはジルケさまにピシャリと言い放つ。ぶっちゃけるとどこぞの創星神さまよりジルケさまの方が背が高い。チビと言われる筋合いはないだろうが、神格的にジルケさまはなにも言えないようだ。すると押し黙ったジルケさまが私に視線を向ける。
「…………ナイ、なにか言ってやってくれ!」
「ご自分でどうぞ」
何故かジルケさまに助けを求められるものの、私は神さま同士の争いに巻き込まれてはたまらないと、末女神さまから視線を逸らすのだった。




