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1524:かまくらごはん。

 流石にナスカの地上絵もどき作戦を終えた数時間後に物体Xからの反応はないだろうと、私たち一行はミズガルズ神聖大帝国の大雪原でかまくらを作っていた。小型の竜の方たちや毛玉ちゃんたちが楽しそうにしているし、参加者は酒盛りができると期待に胸を躍らせている。

 深酔いは許可できないけれど、食事中にある程度のお酒を飲んで良い許可は各国のお偉いさん方から降りている。そうして作業の指示を出していたのだが、あっという間にかまくらが出来上がっていた。私は驚きを隠せないまま、大雪原に描いたナスカの地上絵もどきの横で立ちすくんでいた。


 「……か、かまくらが一時間で完成している」


 ほんとうに一瞬だったのだ。本来であればもっと時間が掛かる作業だというのに、一体なにが起こったのだろう。私は侯爵位を持っているからと、かまくら作りには参加できず、ミズガルズの皇太子殿下と共に雑談をしていた。

 自称勇者さまの件は本当に迷惑を掛けたと再度頭を下げてくれたことから始まって、雪合戦ができそうなので国別対抗で行っても楽しそうだとか、今日の慰労会で出る予定の鍋料理が楽しみだとか。


 皇太子殿下は鍋文化に驚きつつも、初めての体験を楽しもうとしているし、美味しければご兄弟や婚約者さまにも食べさせてあげたいとのこと。そういうことならとフソウのナガノブさまから買い取ったレシピを横流しして――もちろんフソウの許可は取ってある――おいたのだ。


 ミズガルズ神聖大帝国という大地で鍋料理がどう進化するのか、期待に胸を膨らませていたのも束の間、かまくらが完成しましたという報告に口をあんぐりと空けていたところである。

 そうして待機場から出てみれば、大きいかまくらが何十個もできており、小型の竜の方たちや毛玉ちゃんたち三頭が胸を張ってこちらを見ている。私がぼそりと呟いた驚きの声をそっくり兄妹は耳聡く拾ったようで、背後で小さく笑っていた。


 「竜の方たちの力添えがあったようだからな」


 「ん。軍事行動に慣れている人が多いしね」


 ジークとリンの声が聞こえると同時に一緒に待機していたソフィーアさまとセレスティアさまが『凄い』と呟いていた。そして更にヴァルトルーデさまとジルケさまは『大きい。あの中に入ってみんなでご飯を食べるんだね』『楽しみだな、姉御』と顔を見合わせているようだ。

 竜の方たちの力添えがあったとはいえ、それでも一時間でかまくらを完成させるのは異様な気がする。でもまあ、深く考えてもしかたないし、魔力を所持している方たちは肉体を強化できる。前世と比較しちゃだめだと小さく息を吐いた私は、もう一度口を開く。


 「塹壕を掘ることと変わりなかったのか……」


 軍事訓練を受けている方たちであれば、スコップを持って塹壕を作ることもあるだろう。かまくらはソレの応用な気もする。これ以上深掘りしても意味はないなと思考を中断して、私は私の影を見下ろす。


 「さて。ロゼさん、お願いします」


 『マスター! ん!!』


 私の声にロゼさんがポーンと影から飛び手てきて、打ち合わせ通りに食材と調理道具を出してくれる。今回、野外調理ということでいろいろとロゼさんには無理をお願いしている。しかし、結構な量を持って欲しいとお願いしたのに、ロゼさん的には貯蔵量にまだ余裕があるそうである。


 「……ス、スライムが……いや、アストライアー侯爵のスライムならば可能なのか?」


 大量の荷物にミズガルズの皇太子殿下が目を丸く見開きながら、一人でぼそぼそと声を上げていた。するとヴァルトルーデさまとジルケさまが『ナイだから』『ナイだからな。しかも飯関係だ』と微妙な表情で私を見ている。

 たしかに大量に荷物を持ってきたかもしれないが、大勢の方たちが極寒の中で働いてくれたのだ。暖かい料理で身体を温めながら、異国の地の方たちと交流するのも悪くはないはず。

 変なことを言ったらご飯抜きですよと私が二柱さまに無言で訴えれば、姉神さまと末妹神さまはふいと視線を逸らす。はあと溜息を吐き、各国の炊き出し部隊に素材をお裾分けしようと足を踏み出せば、いつの間にか小型の竜の方たちと毛玉ちゃんたちがやってきている。どうしたのと私が首を傾げると、集まってきたみんなもこてんと右に首を傾げながらへらりと笑った。


 『聖女さまー! 手伝うー?』


 『人間のご飯、食べられないけれど、美味しいジャーキー貰えるかもって』


 『代表が教えてくれたのー! 僕たち頑張ったよね?』


 小型の竜の方たちは代表さまからいろいろと聞いてきたようだ。小型の竜の方たちではあるけれど、人間の男性より何倍も力が強いから力仕事を任せれば効率が良くなることがある。

 

 「そうだね。いろいろ手伝って貰ってありがとう。あとで渡すね」


 小型の竜の方たちに調理道具や食材を各国の方たちに渡して欲しいとお願いしていれば、毛玉ちゃんたち三頭が私を取り囲んだ。


 『じゅるい!』


 『あたちたちも!!』


 『ちゃべる!!』


 毛玉ちゃんたちが怒りと食欲を滲ませながら私に抗議する。いつも通りだなあと私は苦笑いを浮かべながら、毛玉ちゃんたち三頭と目線を合わせた。


 「ジャーキーもたくさん用意しているから、竜の方たちと一緒に食べようね。今、毛玉ちゃんたちだけで食べるよりも、竜の方たちや他の人たちと食べる方が美味しいよ?」


 毛玉ちゃんたちは目を細めて顔を右へ左へと倒しながら、今食べるか、みんなと一緒にあとで食べるか考えているようだ。熟考の末に彼女たち三頭が出した答えは、みんなで一緒に食べるというものである。今、食べると結論付けなくて良かったと私が安堵していると、毛玉ちゃんたちは小型の竜の方たちを手伝ってくると言い残してぴゅーと走り去っていく。


 「荷物を運んで欲しかったなあ」


 ソリに荷物を載せて運んで貰おうと考えていたのだが、私の言葉を聞く前に毛玉ちゃんたちは走り去ってしまった。私が肩を竦めれば、クロが肩の上でくつくつと笑う。


 『毛玉ちゃんたち、食べることに意識が向いているからねえ』


 クロの言葉に私はたくさんジャーキーを用意しているのだけれどと小言を口にする。小型の竜の方たちであれば美味しいと喜んで食べるだろうと、ディアンさまとベリルさまから聞いていたから、ロゼさんに手作りジャーキーもたくさん持って貰っていたのだ。私とクロが顔を見合わせていれば、ソフィーアさまとセレスティアさまが横で毛玉ちゃんたち三頭と小型の竜の方たちを見ながら口を開いた。


 「ナイと一緒だな」


 「はあ……夢のような光景ですわ……セレスティア、白銀の世界で竜とフェンリルの仔が遊ぶ姿……しかとこの目に刻みました!!」


 小さく笑う公爵令嬢さまと恍惚の表情を浮かべている辺境伯令嬢さまもいつも通りである。本当に濃い面子なのだが、これから先、新たに加わる方がいるのであろうか。

 そうなったらそうなったらで面白そうではある。あるけれどアストライアー侯爵家は大丈夫かと問われそうだ。やっぱり現在の面子で十分だろう。二柱さまが侍女として控えていることもおかしいのだから。さて、そろそろ準備に取り掛からなければと、私たち一行と一緒にきていた侯爵家の料理人さんに顔を向ける。


 「ご、ご当主さま、行って参ります!」


 凄く真剣な眼差しを向けたアストライアー侯爵家料理人である彼が一歩を踏み出すものの、右足と右手が同時に前に出ていた。彼は各国が連れてきている料理人や軍の炊き出し班に鍋の作り方を伝授しにいく。決死行のような顔をしていた気もするのだが、彼の実力をきちんと発揮できるだろうか。壊れた機械のような音が聞こえそうな足取りで彼は前へ前へと進んでいく。


 「セレスティアより重症ではないか? 大丈夫なのか……彼は」


 「わたくしは至って正常ですわ、ソフィーアさん。病人扱いしないでくださいまし。しかしながら……凄い歩き方ですわね。あれでは口も上手く動かないのでは?」


 ご令嬢さま二人が目を細めていると、ヴァルトルーデさまが『大丈夫かな?』と声を上げる。私は『先ずは見守りましょう』と伝え、ジルケさまは『飯が不味くなるのは勘弁してくれ』と口にした。

 そしてヴァルトルーデさまは彼がままならないようであれば『力を使う』と言った。どんな力を使うのですかと私がヴァルトルーデさまに問えば、負の感情を取り除く力を行使するようだ。

 最終手段にしてくださいねと私が口にすれば、ヴァルトルーデさまがもちろんと頷いた。しかしヴァルトルーデさまが誰かに力を行使しようとするのは珍しい。もしかしてご飯が不味くなるのを避けたいのかと私が疑問を抱いていれば、エーリヒさまとユルゲンさまが顔を出した。


 「皆さま、お疲れさまです。地上絵は無事に完成したので、あとは双子星の物体の出方を見守りましょう」


 「なにか動きがあると良いのですが……」


 鼻先を赤く染めたお二人が今日の成果を口にする。すると皇太子殿下が半歩前に踏み出て、エーリヒさまとユルゲンさまに目を伏せた。


 「皆の指揮、ご苦労さまです。さあ、中に入りましょう。茶を用意します」


 いつもならばエーリヒさまは『調理を手伝ってきますね』と言い出しそうだけれど、皇太子殿下に誘われたからには断れないようである。私も寒いから中に入ってお茶を頂きましょうとエーリヒさまとユルゲンさまを誘う。

 私も本当は料理人の方たちの側でいろいろと勉強をしたいけれど、今日は責任者としてミズガルズの大雪原にきている。南の島のようには振舞えないなと苦笑いを浮かべ、我が家の料理人さんが立ち直れていますようにと願い、中に入って食事の時間を待つ。

 

 暫くすれば、ぐつぐつと煮込まれた鍋をアストライアー侯爵家の料理人の方が持ってきてくれた。今度はちゃんと右足が出て左手が出る歩き方になっていたので、緊張は解けたようである。今の様子であれば問題なく料理の伝授は終わったようだと安堵していると、机の上に置かれた鍋の蓋が開かれる。


 「疲れていらっしゃるようですから、味の濃いものを選ばせて頂きました。フソウ国の調味料『ミソ』をベースにした鍋となります」


 料理人の方が今日のメニューを告げた。そうして鍋からお皿へと取り分けてくれる。お皿を受け取った皇太子殿下は不思議そうな顔を浮かべて、お皿から出る湯気の香を鼻腔に捉える。


 「嗅いだことのない不思議な匂いだ。微かに甘い気がする」


 皇太子殿下が仰ったとおり、微かに甘い匂いが私の鼻に通った。きっとお味噌のスープをしみ込んだお野菜やお肉はきっと美味しいし、切り目の入ったしいたけも良い出汁となっているはず。直ぐにお箸を付けたいけれど、ここはアストライアー侯爵家の屋敷ではないと私はぐっと堪える。全員に取り分けたお皿が行き届くのを見て、皇太子殿下に視線を向ければ小さく頷いてくれる。


 「では大地の恵みと神に感謝を捧げて……――」

 

 いただきます、ではないけれどミズガルズ式の言葉を皇太子殿下が口にする。私たちも彼を真似てミズガルズ式のいただきますの言葉を紡いだ。そうしてたっぷりとスープのしみ込んだ葉物野菜を箸で掬い――皇太子殿下はスプーンとフォークを器用に使っている――口に運ぶ。味噌の味と匂いが鼻を通り、葉物野菜の味が舌を通して頭に伝わった。寒いところで食べるお鍋は最高だと、食べている方たちを見渡せば幸せそうな顔を浮かべている。 

 あとは護衛役のジークとリンと側仕えであるソフィーアさまとセレスティアさまも楽しんで貰えば嬉しい。私は先に食べることに罪悪感を抱くけれど、お鍋の具材が超美味しいと箸が止まらないのだった。当然、ヴァルトルーデさまとジルケさまも。

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雪国で味噌を使った鍋とか最高ですね…。これを期にフソウの取引相手に昇格出来れば良いのですけど
鍋は多少の不出来でもたっぷりの材料と調味料入れてあればなんとかなるからな。味噌ベースだけどシメはウドンか米かな。
いざ・・かまくら 「しらす丼」や「けんちん汁」が有名な「鎌倉ごはん」らしいです お菓子では「だいぶつ様焼き」とか
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