004
「たっく、相変わらずてめぇは体力ねぇんだな」
へこたれている僕に、ベルトスはため息をついた。
「そりゃ、これまで50キロくらいの荷物を持ってぬかるんだ地面を裸足で何度も往復したことなんて一度もありませんよ!」
「キロとかそんなのまったく知らねぇが、さすがにこれくらいの荷物を運べないっていうのはおかしいんじゃないか? これくらいはお前の頭一つ分下の背丈のガキでも平気な顔して運べるぜ」
「うそでしょ? ありえないでしょ。こんなものを運べるなんてここのガキは化け物かなんかか!?」
「そもそも、お前は曲がりなりにもここで十数年は生きてきたんだろ? なのに、どうしてこれくらいの餌を何回も持てないんだ?」
曲がりなりにも……って、この体の持ち主はそんなにひねくれていたのですか?
「いや、普通、そんなに重たいものを持てますか? 普通。今の時点で僕は持って数十秒が限界です。到底遠くまで運べません」
「まぁ、いいさ。それなら、お前の給料を減らすだけだ」
「待ってください。それだけは。それだけはやめてください! 僕はスグリのじいさんに金を払って飯食っているんですよ。ただでさえ、お金が少ないのに、どうすればいいって言うんですか?」
「そもそも、休みもねぇし、買うものといってもせいぜいこの甘ったるい泥みたいな何かだけなのに、どうしてそこまで金が要るんだ? 前、スグリのじいさんに会ったとき言っていたぜ。あまり飯を食わずに、もらった給料のほとんどを貯金しているって」
言われてみれば、そうだ。別にお金を貰っても使うところはない。
そもそも、この町にはお金を使うところなんてせいぜい水か蛍光石か、今、僕が運ばされている食料くらいだ。貯金する必要はない。ないけど……。
「そりゃ、なんかお金が無いと不安になってしまうんですよ」
僕が苦し紛れに答えると、ベルトスはまた、深くため息をついた。
「ったく、記憶をなくしてもお前は相変わらず変なやつだな。──まぁ、いい。それなら、つべこべ言わずにさっさと運べ」
「はい」
僕はベルトスの言いつけ通りに運ぼうとしたが、あることを思い出して、ベルトスの方を向いてこう尋ねた。
「そういえば、この食料って「食料って言うんじゃねぇ。こんなものただの餌だ。そう家畜の餌だよ」
まぁ、言われてみれば家畜の餌だけど、それはあんまりじゃないか?
そう言いたくなる気持ちを抑える。
「──この餌ってなにでできているんですかね?」
「急に変なこと聞くなよ」
「茶色なのに、甘いし。だからと言って砂糖とかチョコレートの甘さじゃないんですよね。しかも、焼いたらそれなりに美味しいんですよね」
「んなものしるかよ。気づいたら、その辺に泥みたいに落ちているんだ。それを俺たちは焼いて食べるだけ。まぁ、砂っぽい時もあるし、クソみたいな色しているからあんまり食いたくはねぇが、食わなくちゃ死ぬからな」
「それなら、どうして虫は食べないんですか? どう考えても、この泥みたいな餌よりはまだ食べれそうに見えるんですが……」
「あんなもの食って腹下さねぇやつがいるかよ。──あぁ、そういや、お前って食ったことあるんだよな。虫を。どんな味だったんだ?」
「すみません。覚えていないんですよ」
「──ったく、おめえの頭はいったい何でできているんだよ。普通、そんくらい覚えているだろ? それに、ミルエットのことも忘れるなんてほんとおかしい奴だよ」
また、ミヌエットだ。
僕はたまに、仕事の合間によくその人について訊かれる。
けれど、僕はその人のことを知らなくていつもわからない、としか言えなかった。すると、みんなして怪訝そうな顔をして仕事に戻っていくのだ。
「ずっと気になっていたんですが、ミルエットって誰ですか?」
「あぁ……。それはなんだ。忘れてくれ。スグリのじいさんから教えるなって言われているんだ」
「そんなの言われたら気になりますよ」
「それなら、ぺちゃくちゃ喋っていないで、さっさと運びやがれ!」
ベルトスは僕の頭に拳骨を喰らわせた。
「いてぇ!」
「そんなこと言える余裕があるならまだ持てるだろ。ほれ」
すると、ベルトスは僕が抱えた大きな袋の上にさらに大きな袋を載せた。
「うわ! ずっしり来た! あぁ、今、腰がピキって言った! ピキって!」
「ホントに大げさなやつだな。おい、そんな軽口叩けるなら、まだ持てるだろ」
「えっ、もうこれ以上は持てませんよ! ほら、僕の膝が笑っていますよ」
「んなもの知るか。さっさと運べ!」
ベルトスに背中を押されると、僕は倒れて袋の下敷きになってしまった。
「おい。立てるか?」
「無理です。立てません」
「これくらいで根をあげたんじゃねぇよ。しょうがねぇな。少し待ってろ! 後でスグリのじいさんのところまで運んでやるよ」
ベルトスは動かない僕にため息を三度つくのであった。
次回は14時更新予定です。




