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003


「さて、まずは食料の調達じゃ」


 翌朝、スグリは外に出るなりそう言った。


 そういえば、僕はあの後、何も食べずに寝てしまった。生まれて初めて腹と背中がくっつきそうな気分になった。


「食料って言って、どこに行っているんですか?どう考えても、そこには畑とかそんなものがないような気がするのですが」

「畑? 何を言っておる。ここの土は作物がまったく育たんわい。だから、アテルマのやつらがばら撒いた泥みたいなものしか食料と呼べる食料は無いわい。──それとも、そこら辺にいる蠅や蟻でも食うか? 少ないかもしれんが、誰も食わぬからなんとか生きていけるかもしれんのう」

「いや、虫はあんまり好きじゃないです。見るのも無理なもので」


 僕が嫌そうな顔をして断ると、スグリは狐につままれたような顔をした。

 

「お前って本当に強くなったのか弱くなったのか分からんのう。以前は虫なんて喜んで食っておったのに」

「──嘘でしょ?」

「嘘じゃないわい。みんなアテルマのばら撒く餌の方が美味しいから虫なんて食うのもばからしいのじゃよ。なのに、あいつは昔、アテルマ反対派に唆されて食っておった時期があったのじゃよ。そいつらは軒並アテルマの餌食になったがのう。──お主、いったいどうしたのじゃ? 急に顔を青くして」

「──いや、虫を食っていたのかと思うとショックで」

「まぁ、そのことくらいいいじゃろう。お主は記憶がなかったのだからな」

「それでも口の中に虫の脚を入れていたと思うとなんか……」

「まぁ、気にするな」


 スグリは僕の肩に手を置いて、優しい目を向けてきた。──いや、そういう顔はやめてほしい。


 ******


「着いたぞ」


 しばらく迷路の中を歩いていくと、僕たちは開けた場所に出た。そこは今までここに来てから最も明るかった。


「ここって、上とつながっているんですか?」


 僕がそう尋ねると、スグリは短く頷いた。


「そうじゃ。ここからなら、日の光も見える。畑も作ろうと思えば、作れるかもしれんな。──まぁ、ここに住むなど自殺行為じゃから住むのは薦められんわい。日の光が近ければ、近いほどアテルマが手を伸ばしやすいからのう」

「そういえば、どうしてあの部屋は日の光もないのに明るかったのですか?」

「それは蛍光石という白い石があっての」


 スグリはズボンのポケットの中に手を入れて白い石を取り出した。すると、その石は瞬く間に光り輝き始めた。


「こういうものじゃが、これに日の光を当てると、その光を吸収するのじゃ。きれいじゃろう」

「きれいですね」

「ただし、日光がある程度貯まったら、強い光を発するから見るのもほどほどにするのじゃぞ。たかが石ころで失明などしたくないじゃろ」

「そ、そうですね」

「分かったなら、さっさと食料を手に入れるぞい」


 スグリは蛍光石をポケットの中に戻すとまた歩き始めた。


 僕は彼の後を追った。


 ******


 しばらく歩いていくと、恰幅のいい男がスコップを持ちながら、若い男たちに指示をしていた。


 モグリは男に話しかけた。


「ベルトス! 久しぶりじゃのう」

「おう! モグリのじいさん、久しぶりって言っても、まだ昨日しか経っていないぜ」 


 モグリの言葉に反応して恰幅のいい男が笑顔を見せながらモグリの挨拶に答えたが、俺を見るなりげんなりとした顔をして、

「──なんだ。リョウのやつ生きていたのか。つまんねえな。──まさか、じいさん。このバカを拾ったとか言わないだろうな?」

「ベルトス。こやつはリョウであって、リョウじゃないのじゃ」

「こんな間抜け面、リョウしかいねぇよ!」

「こやつには記憶が無いのじゃ。隣に住んでおったわしの顔はおろか、──ミルエットの顔も覚えてなかったのじゃ」


 ──いきなり、隣に住んでいたという新情報が出てきたぞ。


 おい、スグリ! 僕はあんたの名前も知らなかったし、あんたの顔に、ミヌエットの顔ってなんだよ。


 そもそも、ミヌエットって何者か知らないし、僕があんたの隣に住んでいたことも知らなかったよ!


 そう思いながら、スグリを睨みつけたが、彼は僕の視線に気づかず、ベルトスという男の方を向いていた。


「おい、マジかよ。ミルエットの顔までか? いったいどんだけおめでたい頭しているんだよ」

「──スグリ、ミルエットって誰なんですか?」

「知らぬのならいいわい。むしろ、それでよい。──ところで、餌の方はどうじゃ?」


 おいおい、餌って言い方は何だ? 僕は犬か何かか?


「あんまり。──ここ最近、アテルマのやつらもだいぶケチっているみたいでよ。このままじゃ、また誰かを生贄にしなくちゃいけないかもな」

「あまりしたくないがのう。──それで、この袋一杯の餌を12オムットで買いたいのじゃが、売ってくれるかのう?」

「無理だ。20オムットじゃないと売れねぇ。俺たちは餌を拾うのに命を懸けているんだ。いくら、ここの大先輩のあんたといえど、安くはできねえよ」

「なら、15」

「18」

「16オムットに50ビレット」

「いいだろう。しかし、あんた昨日買ったばかりじゃねえか。ひょっとして、そこのろくでなしのために買ったのか?」

「そんなのはいいじゃろう。客がこの後どうこうするのにケチつけるでない。──あぁ、そうそう。亮のやつをここで働かせてはくれぬか?」


 おい! 初耳だぞ! あんたは俺に何一つも話さず色々勝手に決めるんだよ!


「こいつを働かせる?こんなに弱っちい腕のどこにそんな力があるって言うんだ?」


 たしかにあんたに比べたら、細いけどいくら何でもひどいんじゃないか?


「いつまで経ってもこの老骨の痩せこけた脛を齧られてもいい気がせぬからのう」

「まぁ、そりゃそうだが……。このぷにぷにの腕で何ができるんだ?」


 ぷにぷにってひどいな。いくら何でもそんなに柔らかいわけでも……。


 触られて分かったんだけど、確かにあんたの手よりはぷにぷにした二の腕だな!


「まぁ、働かせてやってくれ。別に餌を運ぶことくらできないわけじゃなかろう」

「──なら、いいさ。元々、この仕事は人気がねぇからな。働いてもらえるのには構わねぇよ」

「そうか。ありがとのう。おい、礼はせぬか!」

「よろしくお願いします」


 一応、仕事をしなくちゃいけないとは思っていたから、簡単に仕事が手に入ったことに俺は感謝した。


「へぇ、前とは違うじゃねぇか。なら、明日から来い!扱き使ってやる」


 男はにこやかな笑みを浮かべた。


 その何か企んでいるような笑みを見ると、なんだかいやな予感がしてきた。


1オムットはだいたい1000円、1ビレットはだいたい10円と考えてもらって良いです。


あと、餌の名前は思いつきませんでした。


さて、次回は明日の6時更新予定です。

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