第5話〜接客は大変〜
「ブレイメン横町のゴームズだ。先日頼んでいた足のパーツの加工が終わったって聞いたから取りに来たんだが?」
「はい、少々お待ちください!ダチェットさん、ブレアメン横町のゴームズさんの足のパーツどこですか!」
「43番の格納スペースにあるのがそれだ。丁寧に運ぶんだぞ!もし、地面に落としたらまた修理が必要になるからな!」
「はい!」
接客業は大切な仕事だ。人間だったころ、コンビニや売店、百貨店の窓口で働く人々を見てきたが、みんな疲れた顔をしていた。
さぞ、大変な仕事なのだろうと他人事のように考えていたが、実際に働いてみてその厳しさと、そこで働く人々の偉大さを、身をもって実感することになった。
常に丁寧な対応を心がけ、相手に不快感を与えないよう細心の注意を払う。それだけでも大変なのに、中には理不尽な要求をしてきたり、些細なミスで激怒したりする客もいる。
「おい!パーツの形が変わってるじゃねぇか!俺はこんなこと頼んだ覚えはないぞ!」
「す、すいません!ダチェットさーん!」
自分のせいではない客の怒りにも、こちらは決して逆ギレせず、常に笑顔を絶やさず、与えられた仕事を完璧にこなす。全く…とんでもない仕事だ。
仕事というものはストレスが溜まるものだと言うが、俺はこの仕事を一括りにはしてはいけないと思った。
正直、やらなくていいなら今すぐ降りたいのだが、今の俺はダチェットさんの代わりに接客を行うことを求められている。
「やりたくない」という思いを心にしまい、世界最高水準を誇る日本のおもてなしの精神と、前世で見たショップ店員の記憶をら参考に、何とか間を持たせていた。
「ダチェットさん……あれ、見慣れないのがいるな」
「初めまして、今日から働いてます!」
「そうか、チビなのに偉いな。まぁ、良い。ゴミの中から良いパーツ持って来たんだが、買い取ってくんねーか?」
「ダチェットさん、買取をー!」
「受付の横にある機器にスキャンさせて!データから勝手にスキャンしてくれるからぁ!」
そして、ジャンク屋兼修理屋、そして開発を謳うだけあって、客はひっきりなしにやってきた。この店がいつから営業しているのかは知らないが、客の入りを見る限り、リピーターがいるの確かなようだ。
「すいません。息子がそろそろ成長期なので、新しい部品を作ってくださると聞いたんですけど」
「はい、少々お待ちください!では、予約をお入れしますので、お名前と住所、あとコールナンバーをお伝えいただけますか?」
ちなみにだが、オートマンは、一般的な機械と違い、ちゃんと子供がいる。
機械に子供?と疑問に思うかもしれないが、もちろん無機物が性行為などしない。
なんでも、好きになった相手と自身の記憶チップを特殊な機械情報をリンクさせることによって、両親の性格や特徴など、様々な情報を引き継いだ“自我”が作り出され、それが新たな記憶チップにインストールされ、それを元に、親がパーツを組み立てて新しいオートマンが出来上がるというわけだ。
最初に創り出されたオートマンの大きさは人間の赤ん坊位の大きさだが、精神的成長に合わせ、現在の体型より一回り大きな部品を購入し、交換していくことで“成長”していく。子作りと子育てを彼らなりに行っているというわけだ。
「いやぁ、お疲れ。初日なのに大変だったね」
「いや、もう本当ですよ…」
一旦午前の勤務が終わった段階で満身創痍になり、受付カウンターの上でイカの干物のように伸びていた。
この小さな体ですべての作業を一手に引き受けるのにはキツすぎる。
「もしかして、ダチェットさんは俺がやっていた事を全部一人でやっていたんですか?作業をしながら?」
「ああ、そうだよ。何せほら、脚も腕も複数あるし、それに僕の身体の各部位は360度回転するタイプだから、どの方向でもすぐに見られるんだ」
そういうと、ダチェットさんは人間部分の首や胴体から突き出た身体をその場で回転させて見せた。見たこともない動きに、少し背筋がゾゾっとする。
「けど、僕の身体と頭は一つしかないから、別の仕事を同時には出来ないんだね。並列行動が出来るシステムか機構でも作っておけばよかったなぁ…」
「それはまた…」
しかし、俺はダチェットさんの持つ予想以上の処理能力の高さに素直に感心していた。
俺も未経験というハンデがあるものの、一人だけで処理するのも大変だったというのに、俺が対応する前は、状況に合わせて接客も作業もしていたというのだから驚きだ。
時に変な指示を出すこともあるが、この人はなかなか優秀なオートマンのようだ。
そこで、ふと俺は自身も加工作業が出来るようになれば、より負担が減るのではないか、と考えた。
「そうだねェ。職能関連の記録データさえあればすぐにできるだろうね」
オートマンは、人間のように一から技術を覚えていくという事もあるが、その内記憶を司る記録データを売買して新たな技術を簡単に習得することが出来る。
整備士の記憶データや技術データを買えばそれらの作業もすぐにできてしまうのだ、というから人間の職人泣かせだ。改めてオートマンという種族の凄さが分かった。
「でも、簡単な作業ならともかく、難しい作業を含めた記憶データだと効果になって来るよ?物によるけど、ここら辺の相場ではだいたい3000リベットはするよね?」
商売という仕事がある以上、彼らオートマンにも通貨というものが存在する。相場としては、1リベットがだいたい100円と思ってもらえるといい。つまり、およそ30万円相当だ。
元学生の俺から見ても十分高額。自動車免許や実用的な資格を取得する値段と同じくらいなので、この世界において記憶チップを購入することは、資格を取得するのと同じ感覚なのかもしれない。手軽さならこちらが断然上だが。
「だけど、『大枚を叩いて購入したデータチップが偽物だった』なんてこと、ここいらじゃ少なくない。文句を言いに行く頃には売った奴は高跳びしているだろうし、『騙された方が悪い』と皆言うだろうね。それに、データにウイルスでも仕込まれていたりしたら、その時点で記憶チップが丸ごとおじゃんだからね」
「何というか、こういう信頼度というか…」
日本の治安に感謝したくなるような話だ。「信頼はお金では買えない」とも言うが、その「信頼」が保証されていない地域では、そうした他人を騙くらかす連中も少なくないということだろう。
そして、この世界の住民達はある意味データで成り立っている存在であるが故、電子ウイルスを恐れていると同時に、物理的な“人格破壊”を平然と行うことで富を得たり、自尊心を満たす連中が大勢いる。
地球にいた頃、インストールしたファイルにウイルスが入っていて、パソコンがおじゃんになってしまう例はよく見たが、それはオートマンにとって死活問題だ。
だから、ここに住んでいる連中は、購入するものを直接確認し、自身の目利きに頼る。確かな情報がある場合にしか物を買わないらしい。
どこもかしこも、一番の敵は隣人なのか、とふと思っていると、休憩時間だというのに、店のシャッターを開けて入ってくる不届きものがいた。
「すいません、今は休憩時間で…」
そう言おうとした瞬間いかついパーツをつけた相手を見て、言葉を詰まらせる。初対面で、オートマンの人相がわからない俺にもわかる、ガラの悪い連中だった。
「おい、ダチェットはいるか?今月のショバ代取りに来たぞ」
全長が長いタイプのダチェットさんとも違う、成人男性と同じくらいの大きさのオートマンたちだが、全員ボディをまともに整備もされていないのが、揃いも揃って錆だらけ、傷だらけのボディをしていた。
「ショバ代…ですか」
チンピラやヤクザがシマで営業をする人たちの用心棒代として要求するお金のことだろう。
「あ、なんだチビ。見ねぇ顔だな」
どのオートマンも全身から棘のような部位を付けているため、刺々しい雰囲気がある。
だが、彼らはそれをさも自慢げに日光のもとに晒しており、むしろ“傷み”を誇っているように見えた。
俺はその中でもリーダー格らしき男に目を引かれた。錆びが目立つ黒のボディの上に、ボロボロの“コート”を羽織っていたのだ。
機械であるオートマンたちは“服”というものを着ないものだと思っていた。何せ、造られたままの姿であっても誰にも何も言われないからだ。
だが、後から聞いた話によると、彼のように服を着るオートマンもいるにはいるが、ある意味無駄な、贅沢の部類に入るらしい。
「あぁ、君達か。何だ、急に来なくてもこちらから出向いたのに」
「あ?何で俺たちがわざわざお前に居場所を言うんだよ。お前、俺らの居所を知ってどうするつもりだ?あ?」
ダチェットさんがにこやかに告げると、リーダー格の隣にいた小サイズの男が凄んできた。
そんな、野良犬が吠えるような、『俺は強いんだぞ!』と誇示するような声に、俺は思わず逃げ出したくなった。
何せ、俺がアカデミーの生徒だった頃にも、この手の輩は一定数存在したからだ。
正直、彼らのことは嫌いだったので、出来るだけ接点を減らしていたし、彼らが悪ふざけを始めたら、さっさと退散していた。
集団でつるんで周囲に迷惑をかけ、それで周囲が慌てた姿を見て楽しんでいるような連中には虫唾が走る。
「おい、バールやめねぇか。折角の顧客を脅してどうする」
すかさずリーダー格が凄むと、バールと呼ばれたチビは唸り声をあげながらも引き下がった。
「ワリィなダチェット。こっちにも“ご機嫌伺い”の仕事があるからその必要はねぇよ。伺、俺たちの仲は持ちつ持たれつだろ?お前らが金を払う。そして、厄介ごとがあった時には俺たちが出張る。ベストな関係ってわけだ」
そして、何を言い出すかと思えば金の無心だった。外にちらりと目をやれば、眉毛のパーツがある者は露骨に眉を寄せ、ある者は見ないふりをして子供を家の中に入れていた。
つまりは、彼らは地域公認の“厄介者”というわけだ。
「あー、お金ね。分かりました。今取りに行くから少し待ってて」
ダチェットさんはそんなチンピラたちの傍若無人な態度にも、特に気にする様子もなく裏に引っ込んでしまった。
おそらく、お金を取りに戻ったのだろう。だが、俺という存在がいる事を忘れないでほしかった。せめて、一緒に連れて行ってほしかった。
「おい」
「え?は、はひ」
唐突に話しかけられたものだから、変な声が出てしまった。心なしか、身体が震えているような気がする。
「ダチェットがくるまで暇だからよ。ちょっと遊ぼうぜ」
「いや、えっと、その…」
チンピラ達がいつの間にか円陣を組むように、カウンターを取り囲んでいた。今まで関わってこなかったタイプの奴に絡まれて俺は何も言うことが出来ない。
「コイツってば、ブルってやがるぜ」
「いいねェ、ますますブッ壊したくなるな」
すると、チンピラ達は悪戯心を出したのか、デカイのが不意に俺の頭を鷲掴みにしてきた。
「あ、ちょ、やめて、やめて下さい」
そのままリフトアップされて、視界が一気に急上昇する。向こうがどれ程の力で握っているかは分からないが、頭がミシリと音を立てているくらいには、力が込められているらしい。痛みという物を感じない身体なのが幸いだった。
「手前ンとこの店長はよお、今日みたいにショバ代の支払いが遅れる時があるんだよ。脅しがてら、お前をぶっ壊しても良いよな?」
「おいおい、バッグ!程々にしておいてやれよ」
リーダー格はそれを止めるどころか、面白がっている始末だ。やばい、何をされるか分からない、と焦る。喧嘩もしたこともないし、何よりこんな小さな体格じゃ、どうやったって立ち居打ちできないに決まっている。
「や、やめて下さいよ」
思わず懇願の声を上げるが、それを聞いたチンピラ達は、馬鹿にしたような笑い声をあげるだけだった。そして、錆びて汚らしい手が俺の顔に触れてきた。
「彼は1から作って今日出来たばかりなんだよ。少しパーツが足りなかったけど、これから稼いで少しずつ大きくしていくつもりさ。だから、それ以上はいじめないでほしいんだけどね?」
その時、ダチェットさんがお金を取ってバックヤードから出て来た。巾着袋ほどの包みを握ったまま、その声には「何かあればただではおかない」という覚悟が含まれていた。
チンピラは俺の頭を掴んだままダチェットさんに振り返ると、『チッ』と舌打ちし、俺をダチェットさんに投げつけた。
「そうか、まぁそんな事どうでも良いけどよ。また来月来るからそれまでにまた金を用意しておけや」
チンピラは袋を乱暴な手つきで奪い取ると、中身を確認する。袋から出てきたのは、軍隊のドックタグだった。チンピラたちはそのまま別の店へと歩き出した。
自分から質問しておいて、そっけなく会話の流れを切る態度に思わずムッとした。あんな連中とも関わらないといけないと考えると、段々気が滅入ってきた。




