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16:真なる騎士の覚醒


 狂乱した黒いサクラが、憎悪に歪む顔でエリスに大鎌の切っ先を突きつけていた。


「あんただけは、絶対に、八つ裂きにしてやるッ!!!!」


 絶叫と共に、大鎌には再び破滅的な黒紫色の魔力が渦巻き始める。

 その力は、先ほど悠斗を消滅させた一撃をも上回るかのように凝縮され、周囲の空間を不気味に歪ませていた。


 残されたカーマインスピリットのメンバーたちは、あまりの絶望的な状況に言葉を失い、ただ立ち尽くすことしかできない。

 カイやアスマも負傷し動けず、回復役であるエリス自身が絶体絶命の危機に瀕している。

 もはや万策尽きたかと思われた、その時―。


 天から、一条の閃光が刺し貫いた。


 白を基調としつつも、各所に水色やマゼンタカラーの光るラインが走り、EIOの一般的なファンタジー装備とは明らかに一線を画す、世界観にそぐわぬ未来的でメカニカルな装甲を纏った未知の騎士。


 彼は狂気の黒いサクラと絶望するエリスたちの間に、まるで天からの使いのように颯爽と着地した。音もなく、しかし確かな存在感を放って。


「な⋯⋯誰だ?!」

「今の⋯どこから?!」


 突然の闖入者に、メンバーたちが驚愕の声を上げる。


 黒いサクラも、新たな邪魔者の出現に一瞬動きを止め、忌々しげにその白い騎士を睨みつける。


「また邪魔者が⋯⋯いいわ、まとめて消し去ってあげる!」


 黒いサクラは標的を白い騎士へと変更し、凝縮した魔力を一気に解き放つ!破滅の黒紫色の奔流が、全てを飲み込まんと白い騎士へと殺到した!


 だが、白い騎士は微動だにしない。

 彼は冷静に左拳を上げ、手首に装着したデバイスに右手をかざした。


 すると合成音声が鳴り響く


〈Materialize! Alba Aegis!〉


 刹那、デバイスから眩い光が放たれ、半透明の光の盾―アルバイージスが彼の前方に瞬時に展開される!


 ズガァァァン!!!


 黒紫色のエネルギー奔流がアルバイージスに激突し、凄まじい衝撃波と閃光を撒き散らす。その表面に六角形のハニカム模様の光が走り、衝撃を完全に拡散させた。

 黒いサクラの渾身の一撃は、完全に防がれてしまったのだ。


「なっ⋯!私の攻撃を、防いだ⋯!?」


 黒いサクラが信じられないといった表情で目を見開く。

 メンバーたちも、目の前の光景に言葉を失っていた。


「す、すげえ⋯!なんだ、今の⋯⋯盾?っていうか、あんた一体何者なんすか?!」


 カイが負傷した体で叫ぶ。


 誰もが、この正体不明の白い騎士の登場に困惑し、そしてその圧倒的な防御力に驚愕していた。


(キャー!すごい!動いてる!ボクの調整した通りに変身してる!しかも超カッコいい!見て、あのフォルム、あの輝き!録画しなきゃ!あ、いや、今はそれどころじゃ⋯でも最高!!)


 ただ一人、エリスだけが、内心で歓喜の絶叫を上げていた。

 ――光の粒子となって消えたはずのユートは、広場を見下ろす巨大な石柱の頂上に立っていた。

 眼下に広がるのは、先ほどまで死闘を繰り広げていた聖域の広場。

 エリスやカーマインスピリットの仲間たちが、狂乱する黒いサクラの猛攻に晒されているのが見える。


 ユートは光の粒子と化したかに見えたが、実際にはエリスのルールブレイクによって転送されていた。


 石柱の高さに慄いている場合ではない、仲間たちが危ない。

 早く戦線に戻らなければ。



 しかし神聖騎士のままでは先ほどの二の舞だ。もっと強い力がいる。


 その時、エリスからのプライベート通信が思考を遮った。

 切迫した、しかし凛とした彼女の念話が脳内に直接響く。


『ユート、聞こえる!?今から言う通りにして!あなたならできる!』


 エリスは、悠斗が以前マクミラン教授から託されていた特殊なガジェット―左手首のスマートウォッチ型のデバイス―の使用方法を簡潔に伝えてきた。


 それは、EIOのシステムに強制介入する禁断の機能「ルールブレイク」を発動させる、特別なガジェットの使い方だった。


『デバイスに向かって「ルールブレイク」と唱えて!』


 ユートは迷いを断ち切って左手首のデバイスを口元へ運ぶ。


「ルールブレイク!」


 彼の声紋が認識され、デバイスから合成音声が響く。


〈Rule Breaker Standing by〉


 直後、悠斗の腰に輝くベルト――ライザーリアクターが出現する。

 エリスの指示は続く。


『次はポーズ!』


 ⋯⋯ポーズ?


 何のことかさっぱり分からなかったが、今は彼女の言葉に従うしかない。


 悠斗はエリスに指示された奇妙なポーズ―右手をやや左斜め上方に突き出し少し腰を落とすような―を、戸惑いつつも必死に再現した。


『最後にデバイスをベルトにかざして「ナイトライズ」と唱えて!』


 そして、左手首のガジェット――ライザーデバイスを、ベルト中央のバックルにかざす。


「ナイトライズ!」


 ユートの叫びと共にデバイスが眩い光を放つ。


〈Awakening! Knight Riser!〉


 力強い承認音声。

 光がユートの全身を包み込み、姿を変える。


 それはこの仮想世界『エテルナ』のどの鎧とも違う。

 それは、一般的な西洋の甲冑とは一線を画していた。金とプラチナがあしらわれたセラミックのような質感の強化装甲には、シアンやマゼンタにきらめくパーツが随所に施され、未来的でメカニカルな印象を与えていた。


 ナイトライザー・アルバ。


 ユートは未知の力が身体の隅々まで満ちていくのを確かに感じていた。

 そして、不思議なほどに恐怖心がない。それは、彼の弱点である高所恐怖症すらも感じさせないほどだった。これなら戦える、いや、圧倒できると確信に近い予感を抱いた。


 変身を完了したナイトライザーは眼下の戦場を睨み据え、仲間たちを救うべく石柱の頂上から飛び立った――


 間に合った。そして、自分の調整が完璧に機能し、想像以上のヒーローが目の前に顕現した事実に、研究者としての興奮と、一人の少女としての熱狂がないまぜになった感情を爆発させていた。


 込み上げてくるものを必死に抑え、エリスはナイトライザーの背中を熱い視線で見つめている。


 アルバイージスを解除したナイトライザーは、無言のまま再び左手のライザーデバイスに右手をかざす。


 デバイスから眩い光と共に剣のグリップ部分が出現し、ナイトライザーはそれを右手で掴むと、光の刃を引き抜くようにして白金に輝く剣――アルバカリバーを実体化させる。


〈Materialize! Alba Calibur!〉


「⋯⋯邪魔」


 黒いサクラは吐き捨てるように呟くと、再び大鎌を構え、ナイトライザーへと襲い掛かる。その動きは、神聖騎士であった悠斗を翻弄した時よりも、さらに鋭く、速い。


 しかし、ナイトライザーは黒いサクラの動きを完全に見切っていた。

 神聖騎士の時には目で追うことすら困難だった大鎌の斬撃を、最小限の動きで紙一重で躱し、時にはアルバカリバーで弾き返す。


 その反応速度、身体能力は、明らかに神聖騎士のレベルを、いや、EIOのあらゆるクラスをはるかに凌駕していた。


「な⋯速い⋯!」


 黒いサクラの表情に、初めて焦りの色が浮かぶ。


 白い騎士は、防御だけではない。回避と同時に繰り出されるアルバカリバーの斬撃は、的確に黒いサクラの隙を突いてくる。

 黒いサクラは、その鋭い剣閃を大鎌で受け止めざるを得ない。


 キィィン!!


 剣と鎌が交差するたびに、甲高い金属音と激しい火花が散る。

 パワーも互角、いや、それ以上かもしれない。黒いサクラは、その白い装甲から放たれる圧倒的なパワーに押され、わずかに後退を強いられていた。


 攻守が逆転した。

 先ほどまで一方的に蹂躙されていたカーマインスピリットのメンバーたちは、呆然とその光景を見守る。


 正体不明の白い騎士が、あの絶望的な強さを持つ黒いサクラと、互角以上に渡り合っている。


 それは、到底信じられないような、希望そのものだった。


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