02:巣立ちの予言
また時は過ぎ、私は中学から高校生になった。
私の通っていた学校――私立科戸学園は、中学は女子校だが高校からは共学になる。
まわりの友人達は彼氏を作るんだ!⋯⋯と浮足立っていたけれど、私は正直男子に全然興味がなかった。
ゆーくんのお世話で心が満たされるので、他はどうでも良かったのだ。
ゆーくんは小学5年生。
体は大きくなってきたけど、まだまだ幼さがあふれ出ていてたまらないものがありました。
でも、このころにはもうハグさせてくれなくなっていたけど⋯⋯。
高校では休み時間に屋上でスマートフォンのゆーくんアルバムをチェックするのが日課だった。
あまり学校は楽しいと感じてはいなかったので、これが至福の時間。
そんなある日、
「お前か? 子育てしてる女子高生って」
唐突に男子から声をかけられる。
ちょっとイラッとして声の方向をみると、そこには1人の男子生徒が立っていた。
よく見れば同学年じゃなかった。
うちの学校は制服のネクタイの色で学年を区別していて1年は紺。
そしてこの男子生徒のネクタイは赤、つまり2年だった。
「センパイ⋯⋯ですか?でもちょっと失礼ですよ?」
「ああ、悪かった。バカにするつもりじゃねぇんだ。
俺、将来ライターになろうと思っててさ、いろんな事に興味を持っちゃうんだよ。
で、お前のことが噂になっててさ」
見ればこの先輩、校内でも有名な人だった。
コミュ能力が低いわけではないのに、群れるのは嫌い。
だから割と1人でいることが多いらしい。
でも、なんていうんだろう、一度見たら目が離せなくなる。
不思議な存在感を感じる人だった。
そんな人なのに、私にはすごく興味をもったらしく、学校で私が1人のときは大抵話しかけてくるようになっていた。
もちろんいつも屋上だった。
「瀬島さ、弟のことばっか考えてないでさ、高校生として今この瞬間を楽しんだら?」
「いーんです! 正直言えば男子興味ないんで! 私にはゆーくんだけいればいーんです!」
あまりに先輩が私にからんでくるので、どうも校内では噂になっていたようだ⋯⋯。
そう、私と先輩がつきあっている、と。
「桜華ちゃん、ズバリきくね!? リョウ先輩とつきあってるんでしょ?」
友人の女子からストレートに聞かれたこともある。
「違うよ―。私、男の人って良くわからないし」
「えーそうなのー?すごく仲良さそうなのにー!」
いまいちピンと来なかった。
ハッキリしているのは嫌いじゃない、というだけ。
それに先輩も、なんというか、私のことを異性としては見ていなかった気がする。
お互いにどこか「浮いた存在」だったからシンパシーを感じていたのかもしれない。
私は先輩のように周りに対して壁を作っていたわけではない。
親しく接してくる友人がいれば、同じようなテンションで接することはできていた。
でも本当はそれは表面だけだったのかもしれない。
私にとってはゆーくんを守りたい、ということが全てであって、それ以外のことというのはついででしかなかったから。
そういうところを先輩には見抜かれていたのかもしれない。
正直に言えば、先輩との軽口の叩きあいを楽しんでいる自分もいたのも確か。
先輩がからんでこない日はちょっと調子が狂う感じもあった。
しかし、高校時代は短いもので、先輩が卒業するときが来た。
私はもしかして、と思い屋上に行ってみるとそこにはいつものように先輩がいた。
「よう」
いつもと変わらない感じの先輩だった。
「先輩、卒業おめでとうございます。」
「ああ、ありがとう。
といっても俺にとっては卒業したからどうってことはねぇけどな」
「先輩とお話するのもこれで最後ですかね」
「そうかもしれねぇな。」
「ちょっとシャクだけど、すこし寂しいなと思う私もいるので連絡先を教えて下さい」
そう、実は私は先輩の携帯番号すら知らない。
学校でのやり取りだけで十分だと思っていたからだ。
「携帯か。教えるけど、連絡取れないかもしれないぜ?」
「なんでですか?」
「俺さ、来月にでも日本を発つ予定なんだ」
「!」
外国に行く?
いきなりの展開に戸惑っていると先輩は続けてこういった。
「この年で何を⋯⋯と思うかもしれないけどさ、ちょっとしたライフワークのようなものがあってな。それをやらないといけなんだ。」
「ライフワーク⋯⋯」
18歳の男子がライフワークという言葉を口にするととても似つかわしくないんだけど、先輩の場合はなんだか納得できてしまうような雰囲気がある。
「で、だ」
「お前との軽口の叩きあいもこれで最後⋯⋯かどうかはわからんけど、少なくともそうそう会えないのは確かなんでね。伝えておきたいことがあってさ」
えっ⋯⋯。
先輩はそういう感情を持ち合わせていないと思っていたけど、ま、まさか?
考えたら急に顔が火照ってきてしまった。
「お前さ、弟から卒業したら?」
「⋯⋯はい?」
ぜんぜん違う方向のことだった。
「弟ってか、本当は従弟だっけ。ソイツはいつかお前から巣立っていくよ。それも遠くない未来にね。そのときお前はどうするの?
従弟に彼女なり、嫁さんできたら? さすがに干渉できないだろ?」
「⋯⋯」
ゆーくんに、お嫁さん⋯⋯!
想像したこともなかった。想像したくもないことだったけど。
「従弟が自分から巣立っていって、若いままボケるわけにもいかないだろ(笑)
若いなら若いなりの生き方をしたほうがいいよ」
なんだか久しぶりに先輩にイラッとしてきた。
私のイラつきを無視して先輩は続ける。
「思えば、お前はずっと従弟を守るために頑張り続けてきたわけなんだけど、お前を守ってくれるヤツはいないよな。」
自分の人生はゆーくんのためにあるように思っていたから、考えたこともなかった。
「だからさ⋯⋯」
「だから?」
「俺みたいなメンドクサイやつと仲良くしてくれたよしみだ。
お前に本当に困ったことが起きたら、助けに行くよ」
フェイントをかけられたようになったため、再び顔が火照ってしまった。
先輩、こういう言葉の意味ってわかって言ってるのかな?
「せ、先輩は、連絡とれないかもって言ってたじゃない!」
動揺してしまい精一杯の反論がこれだった。
「行くよ。本当に困ったときは絶対に。お前、意外と危なっかしいんだぜ?」
「危ないことなんて、しませんよ……」
と言いかけて、ズキリとこめかみに軽い痛みを感じる。
そういえば、お節介が高じて危ない目に遭いそうになった……前にそんな『《《夢》》』を見たことを思い出したのだ。
暗い森の中で、私を守ってくれる誰かの背中を見ていたような――具体的な内容はもう思い出せないのだけど。
「ま、そういうことだ」
そう言いながら頭をポンポンされ、さらに動揺していると、
「じゃあな」
と声をかけられ、気がつくと先輩はいなくなっていた。
こうしてゆーくん以外に、私に強い感情と記憶を残した男の人、
リョウ先輩は学校を去った。
そのあと本当に一切連絡が取れなくなり今日に至る。
本当はリョウ先輩をどう思ってたか?
考えたくもないです。
それからは、私も高校を卒業して大学に進学したけど、特に思い出深い記憶はあまりない。
高校生になったゆーくんのお弁当を毎日作っていたのはもちろん覚えてますとも!
かわいく作ったので写真はフォトブックにして保管してあります!




