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01:守るべき光、生まれし闇


 エターナル・イマジン・オンラインというVRMMOのゲームがある。


 ゲーム内で、私と従弟の悠斗が一緒に結成したクラン――それが『カーマインスピリット』だ。

 このクランは、魔法学園都市ルーンヴァルトに『紅蓮の獅子亭』という拠点を構えている。


 そのラウンジで、私は仲間たちが集まるのを待っていた。

 これから私は、みんなに頭を下げなければならない。みんなを傷つけた。その、あまりにも重い罪を謝罪するために。


「みんなを傷つけてしまったのは、私の心に闇があったからだよね⋯⋯」


 私はただ、ゆーくんを守りたいだけだったのに。それが利用されて、あんなモノを生み出してしまうなんて⋯⋯。


 どうして、こんなことになってしまったのだろう。私の心にあったという『闇』。

 その正体を知るためには、時計の針を巻き戻さなければならない。


 そう。全ての始まりは、あの陽だまりのように暖かかった日。

 私の人生に、ゆーくんという守るべき光が生まれたその瞬間まで。


「桜華ちゃん、この子は悠斗っていうの。まだ赤ちゃんだけど仲良くしてあげてね」


 私が初めて悠斗⋯⋯ゆーくんに会ったのは、幼稚園の頃だったらしい。


 ゆーくんが赤ちゃんだった時のことはおぼろげに覚えているけれど、具体的にどうだったかまではさすがに覚えていない。


 とてもちっちゃくて壊れそう、そんなイメージだけは覚えている。


 その後ゆーくんが1歳になるころ、叔父さまが海外赴任でカナダに移住することになる。

 そのため2年ほどゆーくんとは会っていないので、その間の思い出はない。


 ゆーくんが3歳になったころ。

 叔父さまが赴任先で事故にあい、帰らぬ人となってしまった。


 美悠紀叔母さまはゆーくんと一緒に日本に戻り、ゆーくんを育てるために復職することになったのだけど、ファッションデザイナーという仕事は時間が不規則で、3歳、しかも当時のゆーくんは喘息持ちだったため面倒を見ることが難しかったそうだ。


 そこで叔母さまの実家、つまり我が家でもある瀬島家に戻ってきて、一緒に暮らすことになった。


 叔母さまが留守にしがちなときは、私とお母さんとでゆーくんの面倒を見ていた。

 お世話をしているうちに、8歳の私の中に保護欲なのか、使命感なのか、よくわからないけれども、気づけば「この子は私が面倒をみなければならない」という意識が芽生えていた。


 ゆーくんも良く懐いてくれた。

 小さい時のゆーくんは病弱ではあったものの、良く笑う天使みたいな子で、とてもかわいらしかった。


 周りからも姉弟と思われることが多かったこともあるだろう。

 ゆーくんは、しばらくの間私のことを本当の姉だと思っていたらしい。


 とにかくどこに行くのも一緒だったので、私の人生の2/3はゆーくんと共にあったということになる。


 私が小学校6年生になったとき、ゆーくんも同じ小学校に通うことになった。

 入学式で子どもスーツを着たゆーくんは尋常でないかわいらしさで⋯⋯あ、思い出したら鼻血がでそう⋯⋯。


 ともかく「うちの子が一番かわいい」のは間違いない(断言)。


 その時は毎日ゆーくんと手をつないで小学校に通えるのがうれしくて仕方なかった。ゆーくんも私と学校に通えるということがうれしかったようだ。


 しかし、ある時からゆーくんの顔から笑顔が消え、手をつなごうとすると避けるようになってしまった。


 この世の終わりかと思った。

 ついに姉離れの日が来てしまったのかと、絶望するところだった。


 そうではなかった。


 毎日手をつないで登校していたことをクラスメートに見られていて、最初はからかわれるだけだったようだ。


 しかし、それがいつしかエスカレートし、病気のせいで体力がなく、必然的に無抵抗状態になるゆーくんに対し数名で一方的な暴力を振るっていたのだ。


 ――絶対に許さない。


 私は首謀者を見つけることにした。


 私は下級生からの人気が高かったし、特に6年生は入学したての1年生の面倒を見ることが多かったのでまずは1年生の女子のネットワークを使い首謀者の特定をした。


 男子も全員がゆーくんのいじめに加担していたわけでもなく、実質的には3人だった。


 この子たちを力で制してもよかったが、それで済ましても解決しないだろうと思った。


 決定的な証拠を取るために、これまで使わずに貯めてきたお年玉を使って、24時間録音ができて感度の高いボイスレコーダーを用意して、ゆーくんのランドセルに仕込んでおいた。


 ゆーくんの挙動で何かがあるとヤツラに勘ぐられてしまっても困るので、もちろん本人にも内緒だ。


 いじめられているのが判っていながら、あえて証拠を取るために気付かれないように監視するのはとても辛かったけれど、連中は簡単に証拠を残してくれた。


 また、ゆーくんの体にもいくつか痣ができていたので、写真を撮っておく。


 病院にも行って、診断書も書いてもらった。

 病院の先生には警察へ相談することを進言されたが、それは最後の手段。


 次はヤツラ3人以外の1年生への根回しだ。

 説教部屋(体育館)に連れ出してもらわないといけないからね。


 私は女子にはもともと好意を持たれていたので協力体制にあったし、男子も少し可愛がってあげたら割と早く協力してくれる形になったようだ。


 さて、いよいよお説教だ。


 1年生の女子たちに手伝ってもらい、「話がある」ということにして体育館に誘導してもらった。


「げっ!ゆーとのねーちゃん!?」


 別のことを期待していたらしいいじめっ子たちは、私をみて驚き即座に逃げ出そうとした。


 しかし、


「ハイハーイ!桜華ちゃんが話があるっていうからちゃんと聞こうね?!」


 私の『お友達』の6年生の男子に退路は塞いでもらっていたので脱出は許さない。


 もちろん彼らには「何があっても絶対に手をだすな」と言及してあった。

 ヤツラの暴力は許せなかったが、ここで上級生が下級生に暴力をふるってしまったら悪いのはこちらになってしまうからだ。


 あくまでも『お友達』は威圧感という演出をしてくれれば良いのだ。


「話があるってうそだったのかよー!」


 いじめっ子のリーダー格の男子が、誘導してくれた女子たちに食ってかかっていたが、


「話があるのは本当だよ。ただし、私から、だけどね?」


 と微笑みながら答え、連れてきてくれた女子たちにはこの場から離れてもらった。


「なんだよー!なんのようだってんだよ!」


 逃げることを諦めたのか、私にいじめっ子たちはつっかかってきた。


「うん、ずっと悠斗のことを、君たちがいじめている件でね」

「!⋯⋯しょ、しょーこがあんのかよー!」


 と粋がっているので、


「証拠ね。証拠はねえ⋯⋯」


 と、いじめている様子を隠し撮りした写真やあざの写真、ボイスレコーダーの音声、その他壊された物品などを体育館の床にぶちまける。


「これが、証拠の数々だよ?」

「⋯⋯!」


 強がっていたいじめっ子たちの顔が青くなる。


「さあ、お話ししましょうか⋯⋯?」


 お説教を受ける身にも関わらず、ぼうっとたっている子たちを正座させ、様子に気づいた先生たちが止めにくるまで2時間ほどだろうか。


 気づいたらいじめっ子たちはワンワン泣いていた。


 暴力も振るわれていないのに軟弱な子たちだ。

 あんたたちに暴力を受けていたゆーくんは黙って耐えていたというのに。


 その後、いじめっ子のリーダー格の親、特にモンスターペアレントとして有名な親が学校に乗り込んできたため、校長室に呼び出されることになった。


「アンタが2時間も正座させるから!家に帰ってきたら足が痛いって大泣きしたのよ!どうしてくれんの?!」

「それを言ったらそちらのお子さんが、うちの悠斗に暴力を振るったのがそもそもの原因ですよね?それを棚にあげて何をおっしゃっているんですか?」


「うちの子はいじめなんてやってないって言ってんのよ!!!」

「まだ、そんなこと言ってるんですか?」


 ということで、再度証拠の数々を提出する。

 モンペのママはかなり青ざめたが、まだ粘る気のようで、


「だから何よ!これが何の証拠になるってのよ!!!」


 と頑張るので、


「そうですか、じゃあ、これ全部警察に提出しますので、警察に判断してもらいましょう。子どものやったことだと、この場合は親御さんの責任問題になりますかね?」


「せ、瀬島さん、何もそこまで⋯⋯」


 校長先生も慌てて話に入ってきた。

 加害者側に譲歩したら解決しませんよ?


「な、何よ!子どものくせに脅迫する気?!う、訴えてやるわ!」


 とまあ、モンペママは的外れなことを言ってきたので、


「そうですか、判りました。

 何でしたらうちの父は弁護士ですが、ご相談に乗りましょうか?」


 と返したところ、モンペママは絶句した。


 私は加害児童になにか賠償させるとか、謝罪しろとか、そういう要求があるわけでない。


『ゆーくんに一切かまうな、近づくな』


 というのが本音なので、それを徹底させるということを条件とし、これ以上の追求はしないということで手を打つことにした。


 それ以降『ユートをいじめると鬼ねーちゃんがやってくる』と噂になって、ゆーくんがちょっかいをかけられることは無くなった。


 まあ、『鬼ねーちゃん』とか一部で呼ばれたのは不本意だったけど、私自身が抑止力になるならそれでも良いかなとも思った。


 それからしばらくして、私は中学に上がることになった。

 学校内でゆーくんの面倒が見られなくなるのがとても心配だった。


 せめて登下校だけでも一緒に⋯⋯!


 とも思ったが、父から私立の女子中学校に通うことを厳命され、それはかなわなかった。


 地元の公立中学に通うのは許されなかったのだ(荒れていたからね)。


 いずれにせよ、登校は一緒に通えても、下校時に迎えに行くのは無理だったけどね。


 まあ、私が用意したスパイたt⋯⋯もとい、私のファンになったらしい女子クラスメートがつねに報告してくれて、ゆーくんの状況は把握できていたのでさほど問題はなかったかな。


 ゆーくん自身も、体が大きくなり体力が増していったことで喘息も克服。


 そして、いじめられなくなったことで本来の明るさを見せるようになって、クラスの人気者になっていったらしい。


 結構ラブレターをもらっていたとか。


 ふふ。

 まあ私の目の黒いうちは、カンタンにはゆーくんの彼女とは認めませんけどね♪


 ⋯⋯さて、


 ファンの女子たちからの報告は随時確認して、少なくとも、いじめの心配は無くなったので、徐々に介入することは減らしていったのは確かだ。


 でもかならず写真は撮らせてもらっていたので、月イチくらいでスマホの待ち受けに切り替えていたけどね。


 大きくなるに連れて、少しずつ嫌がるようになってきたけど⋯⋯。くっ⋯⋯。


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