毒舌娘
可愛らしいお口から飛び出した、あまりにも毒のある言葉にシュシュちゃんがわなわなと震えてしまっている。けれど、それを隣で見ていた私はといえば、既に冷静さを取り戻していた。
「えっ? それはないよ」
あ、でも、声に出てしまった。何度かこれで失敗してるから、脊髄反射で心の声を漏らさないように気を付けていたのに。
でも、クレイスくんが私以外の女の子を好きになることは、無い。これは、自惚れなどではなく確信だ。
けれど、目の前の女の子はすっごい形相でこちらを睨んできている。どうしよう。これが男子なら睨み返してもいいんだけど、女の子だし、ましてや歳下だ。
シュシュちゃんは、未だ隣でぷるぷると震えながら言葉を探しているようだった。
「随分と自信がおありなのですね。妖怪令嬢だなんて不名誉な蔑称をお持ちですのに」
いや、それ一部界隈では褒め言葉なんだけど。っていうか、この子、アイドル活動しに来たんじゃないのかな。本気でアイドル活動したいなら応援したいけど、今のところ話が脱線しまくっている。クレイスくんは怯えちゃってるし、シュシュちゃんは今にも噴火しそうだ。
「ルクゼ侯爵令嬢。ルルシアは、人類の枠に収まりきらないほど可愛らしいから妖怪令嬢と呼ばれている。妖怪令嬢という通り名は、決して蔑称ではない」
いつの間にか通り名になっている。いや、良いんだけど。次から名乗れば良いのかな。我こそ妖怪令嬢ルルシア・グラシュー! てやんでい待たせたな! って? なんかダサくないか。台詞が悪いのかな。後でシュシュちゃんに相談だ。
「そういう場合、普通は女神とか天使とか称するものではありませんの? 交際相手を庇って、クレイス様は心まで美しいんですのね」
クレイスくんが素敵な人なのは同意だが、やはり彼の言い分は通らなかったらしい。いや、まあ、妖怪令嬢にそんな意味が含まれてるとかそんなわけないって思うよね。
「……っ、ねえ! アイドルしに来たんじゃないのっ? ここはアイドルになる人とそれをサポートする人の場所なのっ。クレイス様に尻尾振りたいだけなら帰りなよ。あなたよりルルちゃんの方が可愛いし女の子として魅力的だし! それに、私のこと尻軽扱いしてくれたけどあなたもびっ」
「わぁ、シュシュちゃん、だめだめだめっ」
慌ててそのお口を塞ぐ。だって、そうしないとご令嬢のお口から出てきちゃいけない単語が飛び出てきてしまいそうだった。半分出てきていた気もする。
こんな場面だからか、シュシュちゃんの地声、圧マシマシ低音ボイスにもクレイスくんが怯えた様子がないのが幸いだ。隠れる気もなくなったらしく、私たちの背後から歩み出た。
「シュシュ嬢の言う通りだ。真面目に活動する気がないのなら、アメリア義姉上に伝えてこの件は無かったことにしてもらう。それから、俺の大切な恋人と友人への侮辱も不愉快だ。俺は、きみに特別な感情を抱いたりはしない」
毅然とした態度で庇ってくれる、その姿だけ見れば格好良いのだが、この子は先程まで私達の後ろに身を隠して怯えていた。
「……無礼は謝罪いたしますわ。どうぞ、私にアイドルというものをご教授くださいませ。ユリーシア様のあの日のステージ、私もあのようにたくさんの人々を魅了したいものですわ」
「……良いの? ああいう動機で」
「ごく一般的じゃない? アイドルの志望動機としては」
観客を喜ばせたいというその気持ちは、尊いものだ。
シュシュちゃんが不服そうなのは、先程までの発言があるからだろう。今にもそのお口から、び……、ナントカとか、聞いてはいけない単語が飛び出してきそうではらはらしてしまう。けれど、かくいう私も、この子とのこれからの関係に不安がないと言えば嘘になる。
「ルル。どうする? 俺はルルに従う」
「え、アイドルに興味を持ってくれたのは嬉しいですし、真面目にやってくれるなら?」
「わかった。後は俺達で話し合うということで良いな。エリス嬢はもう帰ってもらって大丈夫だ」
「はぁい。クレイス様、これから宜しくお願いいたしますわ」
見事に私とシュシュちゃんのことは無視して、エリスさんは劇場を後にしたのだった。
読んでくださってありがとうございます!
書き上がっているものを推敲しながらの投稿なので短期間で完結になると思います。




