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『格好良い』の条件


 入学前。お父様を通して婚約のお申し出は何件か来ていた。あの頃は人の気持ちにあまりにも疎くて、釣書を見ることすらせず、随分と適当な返事でお断りをしていた。だから、あの頃の私に興味を持ってくれていた人については把握していないんだけれど。あの頃のお申し出といえば、殆どが。


「物の怪パーティーを見て私のファンになった子だったってこと? ええ……?」


 私の元・黒歴史。通称物の怪パーティー。私に甘い両親が、一度やらせれば満足するだろうとアイドルライブを開催させてくれた。

 あの時は、誰でも気軽にいらしてねといった感じで、お母様のお友達のお友達なんかもお招きしていたから、未だに面識のない人も居る。クレイスくんやユリーシア様だって、学園に入ってから知り合ったのだ。


「その妖怪パーティーとやらに参加したかは知らんけど。もともとルルさんに興味があったのは間違いないんじゃないか。諦めてたけど、ユリーシア様の件で見かけるようになって気持ちが復活したとか」

「ルルが疑問に思うのも分かる。好きな子にはもっと優しくしたいものじゃないのかと、その辺りは俺も不可解に感じているから」

「いや、クレイスくんは過剰というか。あっ、とっても嬉しいし、幸せですし、大好きですけどねっ」


「お前ら、少しは人目を憚れよ」


 ちゃんと憚っている。私もクレイスくんも言葉遊びをする方ではないから、気持ちの伝え方が直接的なものになるだけで、人前でキスしたりだとかそんなことはしない。必要があればハグくらいはすることもあるけれど。今だって、嫌なことがあったのでぎゅーっとしてほしいが、我慢している。


「窮屈に感じるだろうが、休み時間や帰りはなるべく迎えに行く。俺が顔を出せない時もなるべく誰かと一緒に居てくれ。ルルが信用しているなら男子でも良いから」

「んんん……」


 ずっと誰かと一緒に居るというのは、ちょっとストレスだ。お友達と過ごすのも好きだけれど、一人の時間もほしい。でも、私のそんな気持ちも承知で、心苦しいというように切り出したクレイスくんに嫌ですなんて言えない。約束を破ってしまったし、何よりも心配させてしまっているのだから。

「まあ、あいつとは友達だし。俺からも言っとくよ。お前の入る隙はないし、そもそも女子に乱暴な真似すんなって」

 仲良くなってから知ったが、フォンスくんは意外にも友達想いである。口が悪くて皮肉屋なのは変わらないが、義理堅い。これで、もう付き纏われないと良いけれど。



「ルルちゃん、帰ろー」


 授業が終わって、お迎えに来てくれたのはシュシュちゃんだ。甘い顔立ちに低い声のギャップが今日も可愛い。でも、約束はしてなかったはずなんだけれど。なんだろう。


「さっきフォンスとクレイス様から頼まれたんだ。なるべく一緒に居てやってくれって。ね。それに、今日は新しいアイドル志望の子が来るって聞いたよ。私も見に行きたい! いいかな?」


 シュシュちゃんがこの話を誰から聞いたのかは知らないが、そうなのだ。昨日、クレイスくんが先方のお家に連絡を取ってくれて、この後は初の顔合わせがある。それから、大事な用件がもうひとつ。


「良いよ。その子の話がある前から、この後の予定にシュシュちゃんも誘いたいなって思ってたから。今日はうちの馬車で送り迎えするよ。シュシュちゃん、教室までお迎えに来てくれてありがとうね」

「やったっ。こちらこそありがとう! ねえ、ルルちゃんを一人にしないでほしいって言われたんだけど、なにかあったの?」


「……痴漢にあいましてね」

「えっ、大丈夫だったの?」


 口に出してから気付いたが、そういえばあの痴漢小僧はシュシュちゃんの元お友達だ。今回のことは以前までのいざこざとは関係ないんだけれど、シュシュちゃんは良い子だから、あれの名前を出すことで気に病んだりはしないだろうか。いや、名前は覚えていないんだけれど。


「なんか……大丈夫ではあったんだけど。ユリーシア様が撃退してくれて、格好良かったよ」

「えええ、しゅてきぃ……」


「ねぇシュシュちゃん。シュシュちゃんって壁ドンとかが流行った時にされたいって思った?」

「唐突だね? 私が格好良いって思うのはねー、採石場の跡地で発火爆発を背後にポーズ決めポーズ! 燃えるよねーっ」

「おー、いいねっ。私もそう思う」


 あんまりそっち方面は詳しくないけれど、痴漢行為とは比べるまでもなく格好良い。そういえば、好きだったキャラの中の人に、そちら出身の方も居たな、なんて思い出す。


「ルルちゃん、そういうのされたいの? 意外なんだけど。クレイス様もそういうタイプじゃないでしょ」

「されたらむかつくよ? いや、好きな人にならまだしも、痴漢がしてきたから」


 この世界が乙女ゲーム基準で成り立っているのだとしたら、あれは一般的な行為で痴漢には当たらないのだろうか。だとしたら、私が過剰に反応してしまっているだけ? それなら、もう二度とあんなことされたくないが、蹴りはやりすぎたのかもしれない。いや、でもツッコミ役のフォンスくんがそれくらい許してやれとか言わなかったということは、多分一般的な行為ではない。


「よっぽど自分に自信のある痴漢だったんだね。……うん、でも分かった。なるべく一緒に居よう。危ないからねっ」


「優しい。好きぃ……」

「はいはい、私も好きだよ」


 痴漢は許し難いけれど、大好きなお友達に励まされて、沈んだ気分は回復したのだった。






 読んでくださってありがとうございます!


 壁ドンだろうがなんだろうが、スマートに出来る格好良いキャラは痴漢なんて呼ばれるはずがないんですが、この作品の子たちはみんな変人なんです。される側もする側もですが。


 宜しければ次回も読んでくださったら嬉しいです!

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