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痴漢の理由は?


 さて、自分の意思でなかったにしろ、約束を破ったからには謝罪が必要なわけで。


 漫画とかだとこういうときに気まずくて隠しちゃうっていうパターンをよく見たけれど、あれは悪手だと思う。言いにくいっていう気持ちはよく分かるし、責めるつもりにはなれないけれど、その行動によってより相手を傷付けたりだとか、信頼が損なわれたりするのではないかと、読みながらもどかしく感じたものた。

 うん、だから、素直に自首をしに来た。


「クレイスくん。私は約束を破りました。罰を与えてください」


 図書室でお勉強していたらしいクレイスくんとフォンスくんの視線がこちらに向けられる。二人とも、なんだコイツって顔だ。


「ルル、話が見えない。罰を受けなければならないようなことがあるなら、俺が代わりにその罰を受けよう。何があった」


 私に激甘なクレイスくんだが、そこまでされてしまったら本当に駄目人間になってしまう。それに、今回謝らなければならないのはクレイスくんに対してだ。


「いえ、余所で悪事を働いてきたわけではありません。クレイスくんとの約束を破ったんです。不可抗力ではあったんですが……、なんとか侯爵だかなんとか伯爵だかの小僧と接触してしまいました」


 駄目だ、名前が思い出せない。なんならもう既に顔も思い出せない。二度と会いたくないし、思い出せなくても良いんだけど。


「ルルさん、名前を覚える気ないやつを全部小僧呼びするのはどうかと思うぞ。誰のことだよ」


 元小僧一号であるフォンスくんが指先でペンを回しながら、呆れたように言う。


「なんか、あの……、なんだっけ。妹ちゃんがアイドル志望の、痴漢小僧」


 ル、なんとか。紫っぽい髪をしていたようなそうでもなかったような。


「痴漢って……、おわっ」

「ルル!」


 椅子に座っていたクレイスくんが、立ち上がる。この一角には他に生徒がいないとはいえ、図書室なので控えめな声量で会話していたのだけれど、そんなに大きな声と音を出して動いて大丈夫かな。


「ルクゼにふしだらなことをされたのか! 大丈夫だったか? 傷付けられたりは」


 私の肩辺りを触ろうとしてやめたのは、痴漢被害後では男の子が怖いだろうと思ってのことだろう。でも、そんなに心配されるほどトラウマにはなっていない。


「ユリーシア様が助けてくれましたし、金的は外しましたけど膝に一発は成功したので。直接的な被害は通せんぼされたのとちょっとだけ顎を触られたくらいなんですが、約束を破ってしまったので謝罪にきました。あと、苛ついたんでついでに愚痴を言いたい気分です」


「無事なら良いんだ……いや、ルルの肌を触ったのは許せないな。だが、ルルの意思ではないんだから、謝罪は必要ない。災難だったな」


「おい待て。このご令嬢、金的とか言わなかったか」


「痴漢撃退には金的が効率的です。フォンスくんにはしないので安心してください」


「されてたまるかっ」


 おお、いいツッコミだ。あれからずっとクレイスくんと仲が良いのも頷ける。クレイスくんはボケ属性だからね。


「おいクレイス。恋人の行動を咎めなくて良いのか。そのうちお前にもしてくるんじゃ……」


「ルルが無事なら良い。それに、ルルは意味もなくそんなことはしないし、それでルルの身の安全が得られるならいくらでもして良いだろう」


「そうです。今回は仕方なかったんです」


 一応足を出す前に葛藤はしたし。ああでもしないと逃げられなかった。


「それで、ルクゼは何と言って近付いてきたんだ」


「え、なんだっけ。なんかむかつくこと言ってたのは覚えてるんですが内容が薄すぎて……、仲良くしたいとか、女の子を喜ばすのが得意だとか、なんか痴漢っぽいことを。ああまたイライラしてきたっ。なんであんなもんに触られなきゃいかんのっ」


「どういう喋り方なんだよ」


 あまりにもイライラしすぎて口調に前世のものが混じる。前の人生だとか、その辺りの説明はフォンスくんにはしていないのだけれど、私の様子がおかしいのはいつものことという認識らしい。ちょっぴり複雑ではあるけれど、気は楽だ。


「ルルはこんなにも可憐だからな。興味を持つのは仕方ない。だが、校内といえどあまり一人にはなるなよ。一人の時間が好きなのも分かるが」


「無差別痴漢じゃないの? 私が可愛いのはそうですけど、好みのタイプだって言うなら以前のいざこざの時に声を掛けてきたはずでしょう」


「いろいろツッコみたいところはあるけど、ルルさん、ロイのこと一回振ってるだろ」


「蹴ったけど振ってないよっ」


 まともに話したのだって今日が初めてだ。告白はたまにされるけれど、お断りする時にとっても申し訳ない気持ちになるので、すべてきちんと覚えている。私が恋という感情を知ってからの話だが。


「いや、話があったはずだ」


 え、クレイスくんまで。私本人だけが知らないなんて、そんなことあるわけが。


「入学の何年か前に、侯爵家に話がいっただろー」





 読んでくださってありがとうございます!



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