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やっと去りゆく痴漢小僧


 隣に立つシュシュちゃんの指先は、震えている。


「シュシュちゃん」


 確かにシュシュちゃんは、負い目に感じるだけのことをしてしまった。人の心を操作するなんて、簡単に使ってはいけない能力だったと思う。けれど、人の好感度をちょっぴり上げる能力なんて、髪型や服装を意中の人の好みに変えるとか、その程度のものとそう変わらない。使用を推奨はしないけれど、罪悪感に苛まれてずっと辛い思いをしなくたって良い。私のこの考えは前にも伝えたし、これからは意図して使うことはないと決意しているのだから。

 本人が償いたいと言うのなら止めたりなんかしたくないけれど、でも、この変態の魔の手にお友達を渡せはしない。


「ごめんねするのは良いよ。でも、言う通りにするなんて言っちゃ駄目だよ。こいつ変態だよ、何するか分かんないよっ。ていうか、まずこいつが私に痴漢行為を償ってほしいんだけど!」


「でも、」

「ルルへの猥褻行為は絶対に許せない。今殴れなくても、いつか絶対に制裁してやる。それと、今の口ぶりからシュシュ嬢の能力はこいつには効いてなどいなかっただろう。なのに償う必要があるのか?」


 小僧の手首を離したクレイスくんが、シュシュちゃんの方を振り向いて問いかけた。

 敵対していた頃は纏めて仕方のない小僧どもだと認識していたので個々がとうだったかなど覚えてもいないけれど、先程からの言い分からシュシュちゃんに傾倒していた時期があったようには思えない。

 むしろ、すべてを見透かして、能力を使うシュシュちゃんとその能力に掛かった男子たちを眺めて楽しんでいたようだった。


「あーあ。せっかく面白くなりそうだったのに。いいところで勘の良さを発揮しないでよ。普段はとぼけてるくせに。……ま、いいけどね。きみたちの言う痴漢行為が露呈したら、僕も多少は困るし」


 じゃあすんな。マジで犯行理由がわからない。性欲を抑えきれなかった、とかそういうのはニュースでよく聞いたけれど。もしそういうタイプなら然るべきところで治療してほしい。


「人として生まれてきたなら欲望を抑える術くらい身に着けたらどうですか? 理性に打ち勝てないなら人間向いてませんよ」


 隣でクレイスくんがビクッとしたけど、何でだ。まあ、クレイスくんが怖がりなのはいつものことだから後でフォローしておこう。

 そして、悲しいことに言葉を向けた痴漢小僧本人にはあまり効いていないようだった。


「あははっ。理性なんて言葉でつまらない秩序を守ろうとする人間社会はだいっきらいだったから、ちょうど良いや。きみたちの言うところの痴漢行為も失敗したし、シュシュで遊ぶのも出来ないみたいだし、僕は帰るよ。じゃ、また。……エリスのことも宜しくね」


「ルクゼ!」


 飄々とした態度で向けられた背中をクレイスくんが引き留めようとする。当然だが、怒り心頭といった風だ。



「クレイスくん、とりあえずは良いよ。ちょっと、落ち着きたいかも」


 私だって痴漢小僧は許せないが、落ち着きたいのも本当だ。シュシュちゃんも心配だし、何より疲れてしまった。

 





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