回顧、そしてある人物の強襲
一部の回想といちゃいちゃ回です。
さて、思い出に浸るのはこのくらいにして。
そろそろクレイスくんを構ってあげないと、泣いてしまうかもしれない。
クレイスくんの隣に座って、寄り掛かってみる。六歳の時に前世を思い出してからは、両親にすら幼児らしい素直さで甘えられたりしなかったと思う。ろくに詳細も記憶していないくせに、変なところで大人ぶっていたから。
けれど、クレイスくんは前世があるのも承知の上で、今此処に居る私をただの十六歳として、同い年の女の子として扱ってくれる。それがなんとも心地よい。
「このまま寝たらどうだ。白昼夢を見るくらいなんだろう」
「別に眠くはないんですよ。それより、私のお部屋、つまんなくないですか?」
「何の話だ」
「特に面白いものとか置いてないですし」
要領を得ない、といった様子のクレイスくんだが、事実私の部屋はクレイスくんのお部屋に比べて面白みに掛ける。あんまり口に出したくないが、クレイスくんのお部屋にはルルシア・グラシュー祭壇コーナーがある。所謂『推し壇』というやつだ。
彼の部屋に案内されると必ず大量の自分の顔から視線を感じることになってちょっぴり微妙な気持ちになるのだが、十年前から想い続けてくれた証しでもあるので、嬉しいような、でもやっぱりやめてほしいような、なんともジレンマなのである。
「部屋にあるものも大切だが、こうしてルル本人が近くに居ることが一番嬉しい」
クレイスくんの面白ルームに言及したつもりが、予期せず甘い雰囲気が流れ始めてしまった。自分で言うのも何だが、クレイスくんは私のことが好きすぎるので油断をするとすぐこうなってしまう。
銀交じりの金髪が私の額を擽る。頬擦りされているせいで表情は分からないけれど、窓から入る陽の光で、白銀の毛先が透き通って、儚く輝いている。
「クレイスくん、擽ったいです」
「可愛いな、ルル。……可愛い。夢のようだ、十年後しに会えたのも、想いが通じたのも。このまま家に連れ帰りたい、離れたくない」
つい最近恋を知った私には、十年という時間の重さはどんなものか、私には分からない。けれど、共に有る時間を大切に想ってくれるのが嬉しい。
「よしよし、お家には今度泊まりに行きますからね」
「それまでに更なる研鑽を積もう。ルルの好みの優しくて王子のような振る舞いの出来る男になれるように」
「王子様はもう良いんですって」
何度言ってもクレイスくんが王子様に拘るのは、私の前世の推しがとびきり優しい王子様キャラだったと知っているからだ。王子様キャラとはいえ女の子だし、可愛いもの好きだったし、なんてうっかり口に出すと女装を始めようとするのでこの話題になったらなるべ早く話を変えるように努めている。
「優しい人が好き、は、そうですね。クレイスくんは誰より優しいですから。私の好みです」
だから、女装はやめていただきたい。いくら美貌の公爵令息とはいえ、ガタイが良いので女性物の服を身に纏った時にどうなってしまうか、ありありと想像が出来てしまう。こんなに優しくしてもらえるだけで充分なんだから。実際、前世について告げた際も、前回の人生の終わりをただ悲しんでくれた。痛かったろう、寂しかったろうと。
だから、理想の人という意味ならばクレイスくんそのものなのだけれど。
何故か本人は少しダメージを受けたとでも言うように苦しそうな顔をしている。
「…………学園で初めて会話をした時のあの態度は、なかった。すまなかった」
「えっ? ああ……あれのこと?」
妖怪令嬢と呼ばれてなんだかとんでも理論でヒロイン──、これまた紆余曲折を経て今は親友なのだが、シュシュちゃんとその周りの男の子たちを何とかしろと依頼されたときだ。当時こそ失礼な小僧だとは思ったけれど、今となってはあの出会いも大事な思い出だ。
『妖怪令嬢』という呼び名は、軽口のようでいて大事な想いも含まれている。
「当時はなんて失礼な小僧だって思いましたけどね、あれが無ければ今の幸せはないですし」
「……これからはあの時の分まで優しくする」
「詫び石補填みたいなことしなくても良いですよ」
詫び石、とはちょっと違うのかもしれないが、以前の分を埋めたりなんてしなくても、普段から全力で優しくしてもらっている。
「石か……、翡翠、エメラルド。赤や銀だと派手なものが多いからな、下品にならないようなものを」
「えっと、その石じゃないです」
異世界系イケメンがやたら石を贈りたがるのはなんなのか。そもそも、詫び石補填で本物の宝石を贈られるなんてことがあってたまるか。
「詫びじゃなくて、ただ贈りたい」
「……世の中にはギブアンドテイクって言葉があってですね」
いつかと同じやりとりだ。クレイスくんも思い出したのか、ちょっと恥ずかしそうに顔を赤くして、でも緩く微笑んでいる。
「何かをもらえるなら、ルルからしてもらいたい」
主語がない。でも、同じ時を振り返っているのだから、何を指しているのかは分かる。キスのことだろう。
「可愛いことを言って、あまり沼らせるのはやめましょう」
「本当に沼が好きだな。これから行くか?」
つい出てしまう前世言葉のせいで、クレイスくんには沼偏愛者だと思われてしまっているが、違う。いや、クレイスくんとの思い出がある場所はどこも好きだけど。
「…………よし! 行きますからねっ」
深呼吸して、気持ちを整えてから。気合を入れた瞬間──、扉が勢い良く明け放たれた。
「ルルシア! ねえ、公爵家の坊っちゃんが来てるってほんと!?」
なるべく二部からでも読めるように回想を入れていますが、きちんと出来ているか不安です。
回想を入れたらいちゃいちゃ回になってしまいましたが、次第にちゃんと(?)ギャグ風味が強くなっていきます。
ちなみにルルの推しは実在する素敵な作品の可愛らしい女の子です。
そして、ルルとクレイスの名前の一部はあるアスリートの方々からもじっています。人間ではないんですが走ることに生涯を賭けているのだからアスリートですよね。




