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偉大なる打楽器の神


 こいつ、つくづく話を聞かないタイプである。私のお口が悪いことなんかみんな知ってるってば。


「ああ、その口の悪さじゃないよ。きみ、周りのことを本当に信頼していて、大好きなんだなあって」


「当たり前です。大好きなお友達と、恋人ですからね」


 恋人、という響きは未だに少し照れてしまう。そんな私を見て、痴漢小僧は笑みを深くした。


「いいね。きみが、周りを、クレイスを。好きであればあるほど、その信頼を裏切れないよね。僕がきみを汚せばクレイスや周りを裏切ってしまったと気に病む。たとえきみ自身の意思で裏切ったのではないとしてもね」


「…………!」



 そう告げて、逃げ場を遮っているのとは反対の腕が私の太腿に伸びてきた。これはもう痴漢どころではない。此処は学園だっていうのに。人通りが少ないからって、全く誰も来ないなんてわけでもないのに。本気で私を、私の体を弄ぼうとでも言うのか。

 ほぼ反射で、蹴りの為に力を込めたけれど、持ち上げるように制止されてしまう。


「何すんのこのちか、」

「痴漢って言う? 叫ぶ? 良くも悪くもきみたちって目立つからね。真偽がどうあれ、こんな人気のない場所で僕と逢引して戯れてたとか、そんな噂を立てられたりなんてこともあるかもね。クレイスにも、浮気を疑われて捨てられちゃうかもしれないね。可哀想だね、可愛いね」


「……っんだ、コイツ」


 心の底から湧き出た言葉は、思わず零してしまったものではない。本当になんだお前は、と告げるつもりで口に出してやった。気持ち悪い、とは言わなかっただけ感謝してほしい。


「焦ってるみたいだね。可愛いね、本当に可愛い」

「良いから脚離してっ。痛いんだけど。洒落になんないし! つまんないことすんなこの痴漢っ」



 スカートの丈的に見えてはいないと思うけれど、痴漢対策として下に短パンを仕込んでおいて良かった。いや、でも、掴まれたままなのでやっぱり良くない。脚を上げ続けてちょっと痛いし、何より触られて気持ちが悪い。金的を封じられた今、殴りか頭突きくらいしか攻撃手段は無いけれど、私の力で男子一人倒せるだろうか。下手に反撃したら事態が悪化するかもしれない。でも、こいつを倒さないとどうしようもない。勝率を計算し始めた、その時だった。



「おかしいな。ルルちゃん、此処に居たはずなんだけど」


 シュシュちゃんだ! 叫んだら、きっと助けてくれる。その名を呼ぼうと、口を開こうとしたのに。


「良いの?」

「え、」



 ほくそ笑む痴漢小僧の言葉の真意を計りかねて、よくよく耳を澄ませてみる。どうやら、壁の向こう側に居るのはシュシュちゃん一人だけではないらしかった。



「ごめんなさい、クレイス様。ルルちゃんを一人にするなって言われていたのに」


「いや、シュシュ嬢にも自分の用事があるだろう。いつも協力してくれて、感謝している」



 クレイスくんだ。どうやら、此処に戻るまでに出会って合流したらしい。

 この状況を見られたら、浮気を疑われてしまうとかそんなことを言いたいのだろうか。


「クレイスくんは、私のことを疑ったりはしません。むしろ、こんな光景を見てしまったなら助けてくれます。好都合です」


 だから、クレイスくんの存在に気付いたところで助けを呼ぶのを躊躇なんて、しない。けれど。


「あああああのっクレイス様のためならわたくしたちもグラシュー侯爵令嬢探しを手伝いますわっ」


「すまない。助かる」


「ひぇっ……、お、お安い御用ですわっ!!」


 知らない女の子たちの声も聞こえる。しかも、どうやらクレイスくんに好意を持っていそうだ。


 これは、まずいかもしれない。


 悔しいけれど、先程の小僧の言葉は、半分当たりなのだ。クレイスくんにこの現場を見られて困ることはないけれど、知らない人に見られて、噂を立てられるのは困る。

 クレイスくんに好意を持っていても、私との仲を応援してくれる子は居る。そういう子なら事情を話せば聞いてくれるだろうが、今向こう側に居る子たちがどういう子なのかは分からない。これ幸いとばかりに、私の不貞の噂を流してクレイスくんの隣から引きずり下ろし、後釜を狙うという子だって中には居るかもしれないのだ。


「流石に知らない子には見られたら困るみたいだねうん、いいね。でも、きみが叫ばなくても、僕が呼ぶんだけどね。これで皆が駆け付けてこの現場を目撃したら、不貞の疑惑の噂が流れるよね。そうしたら、僕がルルちゃんを手に入れ易く」

「…………もう一回遊べるドン!!!」



 持論と性癖を絶賛垂れ流し中の痴漢小僧の鼓膜を破く勢いで、叫びきってやった。驚いた様子のくせに拘束を緩めはしてくれなかったけれど、動揺して言葉が出ないらしい。

 確かに知らない女の子の存在には困ったが、それも一瞬だ。要は、クレイスくんかシュシュちゃんにだけこの状況を察してもらえれば良い。そして、そんなことは簡単だ。だって、私とシュシュちゃんにしか分からない言葉なんていくらでもある。

 だから、後はシュシュちゃんが気付いてくれるのを待つだけ。


 でも、簡単、とは言ったけれど少しだけ不安はある。こいつが人を呼ぶ前に、きちんと伝わるだろうか。



「今の、グラシュー侯爵令嬢の声ですの?」

「ルルの声だ。が……」


 ああ、駄目かな。見知らぬ女の子たちまでこちらに来ちゃうかな。冷や汗が止まらない。

 でも、でも。お願い、シュシュちゃん。



「もう一回……、あっ、わ、わたし! ごめんなさい、ルルちゃんとかくれんぼしてたんでした!」


「え、ウィゼル男爵令嬢?」


「わあー、ごめんなさいごめんなさいっ。ちょっと疲れてたみたいです! ついさっきのことを忘れちゃうなんてっ。一緒に探してくれて助かりました。ね、クレイス様っ」

「え? あ、ああ。……助かった。ありがとう。では、また」


「は、はいっ。では、またっ……」


 シュシュちゃんが、気付いてくれた! クレイスくんも察しが良い。お礼を言われて浮足立つ女の子たちの様子が目に浮かぶようだ。


 女の子たちが教室に戻る足音と、二人がこちらに駆けて来る音が聞こえる。



「……なに、今の。暗号?」


「偉大なる打楽器の神のお言葉です。ドンドンやってれば女の子が落ちるなんて偏った思考が仇になりましたね」


「多分それは神じゃないよっ!!」



 冴え渡るツッコミだ。私の助けを正しく受け取ってくれた親友も、また神である。




 読んでくださってありがとうございます!


 ちなみに私はこれど下手くそでした。


 悪役令嬢要素がまだないからサブタイトル変えようかなとか思ってます。


 何はともあれまた読んでくださったら嬉しいです!

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