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妖怪令嬢の強さ



「あの時のきみ、可愛かったからね。大人たちからの嘲笑にも気付いていただろうに、必死に取り繕って最後まで笑顔で」


「あの、ありがとうございます。でも、」


 なんでだろう。クレイスくんと同じ、あの日の私を可愛いと伝えてくれている。そのはずなのに、私という存在を否定されているような気すらする。



「クレイスもあの日のきみに惹かれたんだって? 僕だって、同じ日に見つけたのに。先に想いを伝えたのに。酷いなあ。……可哀想なきみを、僕が救ってあげるはずだったのに」



「…………かわい、そう?」



 背中に氷の粒が這ったような寒気がする。


「ああ、無様だった。滑稽だった。()()()()、助()()()()()()()()()()()()



 無計画で実力と情熱不足。足りないものだらけの中でステージに立った私は、嘲笑われてしまっても仕方なかった。

 確かに、あの日の私は哀れに見えたかもしれない。


 毎日呑気に過ごしていたって、耳にこびりつく嘲笑は、刺さる冷ややかな視線は、記憶から完全に消え去ったわけではない。


「可哀想だったね。舞台から降りる前にはもう、向けられる嘲笑や憐れみの目に気付いていたんだよね。バカな子だね、わけのわからないことをして、我儘娘に付き合わされる侯爵夫妻も可哀想だねって」



 大事に縁取られたはずの一ページが、また、じわじわと黒く塗り潰されていくような感覚。せっかく、せっかく、キラキラした宝物に変えてもらったのに。



 ……いや、駄目。気を強く持て。あの日は、黒歴史なんかじゃない。物の怪パーティと呼ばれたあの日は、あの時間は、大事な人達と出会うための道標だったんだ。


 可哀想な私なんて、居ない。

 

 令嬢らしからぬ、なんて、知ったことか。


 大股を開いて、力強く地面を踏みしめてやれ!


 私は、妖怪令嬢だ。


 痴漢小僧如きに負けはしない!!




「同情なら、結構です。あの日の私は、可哀想なんかじゃないですし。……至らないことばかりで、後悔があったのは、認めます。でも、クレイスくんの想いが、ユリーシア様のステージが、そんな私を救ってくれたから。貴方に慰めてもらう必要はありません」


 それに、両親だって可哀想なんかじゃない。私の我儘をある程度許容してくれるのは、私を愛してくれているから。その優しさに報いるためにも、淑女らしくあるべき時と場所は弁えて、それなりに振る舞ってきた。

 最近は、私のやりたいことを公爵様に認められたことと将来の貰い手が見つかったことで、もう好きにしなさいと言われているので前より好きにしている部分はあるけれど。



「一瞬すごく可愛い顔になったのに。残念。どうしたら、もっと可愛いきみに戻ってくれるかな。ねえ、シュシュが可愛くなくなったのもきみたちのせいでしょう? 愚かで可哀想で、すごく可愛かったのに。……ああ、いや。あれはユリーシア嬢のせいかな。でも、引き合わせることになったきっかけがきみの存在なら。やっぱりきみのせいだよ。ルルちゃん。責任取ってよ」


「可哀想で可愛いとかなんとかなに言ってんの。あとシュシュちゃんはずっと可愛いし痴漢になんかやらないから! このサイコ野郎がっ!!」


 ……あ。やば、本音が出た。我ながら口が悪い。いや、だって、気持ち悪いんだってば! なんか顔くっつけてくるしっ。


「あはっ、なにそれ。それが本性? みんな知ってるの?」


「知ってますよ。クレイスくんは特にね。別に告げ口したって良いです。口の悪い私も可愛いって言うだけですよ」


 だから、弱みを握ったなんて勘違いされては困る。せいぜい、ユリーシア様に知られたら少しは取り繕いなさいと苦言を呈されるだけだ。いや、ユリーシア様だって、状況を説明すれば怖かったでしょうと慰めてくれる。


 だというのに、ルクなんとか……、ああもう名前を覚えて損したっ。痴漢小僧は、不適に笑った。



「……へえ。なるほどね」





 読んでくださってありがとうございます!


 一部の44話〜46話あたりと対比になるようにいたしました。

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