痴漢小僧再び
一度きちんと話さなければ、とは思っていたけれど。まさか翌日に遭遇するとは思わなかった。
クレイスくんには、次に出くわすことがあれば私への好意は受け入れられませんというお断りだけはしたい、と伝えてある。 だから、痴漢小僧と会話すること自体は裏切りではないのだけれど。相手はセクハラ野郎だから、二人きりで話すつもりはなかったのだ。
だというのに、提出物の件がどうとかでシュシュちゃんがクラスのお友達に呼び出されてしまった一瞬の隙に腕を引かれて校舎裏に連れ込まれてしまった。
クレイスくんもそうだけど、なんで皆私の手や腕を引っ張るかな。そのうち左に比べて右の腕だけ長い、なんてことになってしまう。そんなことになってもならなくても、クレイスくんが責任を取ってくれるから良いんだが。
「意外とエリスと仲良くやってるみたいだね」
私を壁際に追いやって、当然のように腕で逃げ道を塞ぐ。ドンすりゃ良いってもんじゃない。このドンドン野郎が。某打楽器の達人か。もう一回遊べるドン、じゃないんだってば。
「あの、離してください。こういうの、巷ではなんて言うか知ってます? 痴漢行為ですよ」
冷静な対処を心掛けて、改めてその好意らしきものへのお断りを入れようとしていたのだけれど、どうしてもこういうことをされるとイライラしてしまう。前世で推していた子たちや現世の想い人のことを考えると、やっぱり私の好みは優しい人で、こういうタイプは苦手な部類に入るようだ。
痴漢、と呼ばれた痴漢小僧は目を丸くしている。
「あはっ。痴漢かあ。ねえ、きみ。今も可愛いけどさ、昔はもっともっと可愛かったのにね」
「今の私は昔よりもずっと可愛いです。恋を知りましたからね。……以前、婚約のお申込みをしてくれたのに、きちんと自分でお返事をしなかったのはごめんなさい」
お父様に確認したら、数年前に、この痴漢小僧──、ロイ・ルクゼ侯爵令息が、私に求婚したことがあるというのは事実だった。
学園入学前に我が家へ婚約のお申し出をしてくれた子たちには、真摯にお返事をしなかったことを申し訳ないと思いつつも、既に婚約者や交際相手が居て幸せに過ごしているかもしれない、今更謝罪をしたところで自己満足になってしまうのではないか、と個人名を調べることはしなかったのだけれど。今回だけは、確認させてもらった。
もしかしたら、このような迷惑行為に走ってしまった原因は、きちんとお返事をしなかった私にあるのかもしれないと思ったから。
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