拠点のリフォーム
「さあ、今日はこの拠点の整理をするということね」
ユリーシア様がわくわくした様子で制服の裾を捲る。
そう、本日の放課後は元劇場である拠点のお片付けと、リフォームなのだ。シュシュちゃんは次の試験で平均点を取れるか怪しいということで、学園に残ってお勉強している。フォンスくんもそれに付き合うようだった。
だから、今日のリフォームは三人だけ。初期メン、というやつだ。ちょっぴり懐かしい。
リフォーム、とはいっても専門の方に頼むほど大掛かりなものではなく、ホールの古びた椅子を取り替えたり、空き部屋を会議室として使えるように机を運び込んだりする程度だ。外注しても良かったが、折角だし自らの手で整えたかった。
でも、前世持ちの私はともかくユリーシア様とクレイスくんは貴族育ちだ。このような労働をお願いしてしまって良いのか悩んだが、最初から二人ともやる気満々だった。曰く、「こんなに楽しそうなことをやらないわけがない」そうだ。私に気を遣っているという風でもなく、実際に楽しんでいる様子である。二人とも、体力はあるしね。
「では。まずは、ホールの椅子を運び出しましょう。後日我が家で回収して、地方の孤児院や学校に寄付致しますね」
田舎の孤児院には、平民も通える教育施設が併設されている場合がある。教えているのは文字くらいだが、おかげでこの国の識字率はかなり高い。識字率が高いというのは、つまり平民でも職の選択肢が広いということで。優秀な人材の取り零しが少ないということだ。そのあたりも、私たちが豊かに暮らせているひとつの要因なのだろう。
まあ、それだけではなく、前世で学んだ歴史に当て嵌めると存在しているものやインフラがちぐはぐなので、以前にも転生者が居たのか、もしくは乙女ゲーム特有のご都合設定なのかもしれないが。
「無駄が無くて良いな」
ユリーシア様と同じく腕捲りをしたクレイスくんが、早速椅子を持ち上げる。身体が大きいだけあって、一度に四脚を担いでも運べることが出来るらしい。一脚ずつが限界な私からすれば少々妬ましいが、リーチの差があるのでこればかりは仕方が無い。
ユリーシア様も一脚ずつが限界のようだったが、それぞれ同年代の貴族たちよりは膂力を有しているため、休憩も必要なく直ぐに運び出しは終わった。
空き部屋その一は事務室にするべく長机と椅子を置いて、舞台袖と空き部屋その二には、それぞれピアノも運び込んだ。クレイスくんはそれも手伝おうとしてくれたが、我が家から派遣してきた本職護衛の騎士たちが顔を真っ青にして首を振っていたので私とユリーシア様で止めた。彼等からしたら、椅子程度ならまだしもピアノのような重いものを持たせて公爵令息に怪我なんかさせたらとんでもないことだからね。鍛えているみたいだし、そんなことは無いとは思うが。
「いずれ此処でライブを行う予定です。椅子も新調したいところですが、軌道に乗るまでは観客の皆様には立ち見でお願いしましょう」
「そうね。立ち見の方がたくさんの観客に入ってもらえるでしょうし」
想像するだけで楽しい。私たちの箱で、お客さんを呼ぶ。たくさんの笑顔が増えると良いな。
「楽しそうだな」
クレイスくんが、私の顔を覗き込む。ちょっぴり涙が滲みそうなのも、多分気付かれているだろう。
「うん。嬉しいんです。これから、たくさんたくさん素敵なことが出来るなあって」
第一目標は、半年後までにこの場所で三回ライブを開催すること。そして、そのどれもを満員で終えることだ。
それが、今回公爵様に課せられた課題。二人にもきちんと伝えてある。
「今回は無茶な取引はしていないのよね?」
「んぐっ……、あの、政略結婚の話は、反省してますので。今回は大丈夫ですよっ。いわばクエストですからっ。達成すれば予算アップですが、出来なくてもお咎めはないです。あっ、もちろん達成はするんですけどね!」
「クエスト……。まあ、変なことをしていないなら良い」
あ、伝わらなかったか。クエスト。剣と魔法の世界って感じじゃないもんね。それっぽいものを見たことはあるけれど。
「安心していただけたところでっ。詳細を決めましょうっ。ちょうど三回ですから、それぞれの回ごとに、格好良い・可愛い・美しい・で、路線を変えていくのはどうですか? 初回は格好良いユリーシア様で。学園でのライブとコンセプトが一緒なので、生徒経由でご家族や学外のご友人も呼び込んでもらっちゃいましょうっ」
「一度のステージですべてを披露するのでは駄目なの?」
「駄目ではないです。でも、今回は学園外の方もターゲットですから。それぞれの癖に刺さる……えっと、好みに合わせて来場してもらえるようにしたいんです。それに一度のステージで全部見せるのは大変でしょう。回ごとに変えるっていうのも十分大変ですけど……、やってもらえますか?」
人それぞれ嗜好は異なるから、開催ごとにピンポイントで狙ってファンを取り込んでいく。毎回毎回パフォーマンスの方向性が変わるというのはユリーシア様の負担が大きいから、例えばエリスさんが舞台に立てるくらい成長してくれたりして、他にもアイドルが増えたら良いんだけれど。
「問題なくってよ。いつも通りルルがサポートしてくれるのでしょう?」
「それはもちろん」
力の限り支援していくつもりだ。ユリーシア様の魅力を頭でっかちな大人たちの心に刻みつけるのだ。
あの日の私には出来なかったことだけれど、ユリーシア様ならきっと叶えてくれるだろう。
「ユリーシアは美しいし格好良いからな。成功するはずだ」
「……クレイス。貴方ね。いくら姉とはいえルルの前で」
「あっ、大丈夫です。いつものことですし。……愛されている自信はあるので。……えへ」
クレイスくんはシスコンだからね。美しいお姉様を見て素敵と思うのは当然だ。私だって、ユリーシア様の存在には脳を焼かれている。
それはそれとして、きちんと私への愛も伝えてくれているので、おかしな嫉妬や不安に駆られたりはしない。本当は従姉弟なのだとしても、二人の関係は間違いなく血を分けた姉弟と同じものだし。
愛されてる、なんて自分の口から言うのはやっぱりちょっぴり恥ずかしいけどね。
「可愛い」
「連れ帰りたいわ」
いや、なんでユリーシア様まで。ツッコミを口にしようとした瞬間、ホールの扉が開いた。
「私なら連れ帰り放題ですわよ!!」




