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痴漢対策


 さて、拠点となる劇場の把握も出来たし、今回はもう解散という流れだ。


「ルル。今日は怖い思いをしたでしょう。我が家に泊まって、わたくしの横で眠っても良いのよ? もちろんシュシュさんもね」


「私もまたお泊りに行って良いんですかっ、ユリーシアしゃまっ。ねっ、ルルちゃん。流石にお家までは痴漢も押し掛けてこないだろうけど、こういう時に一人で過ごすのも良くないよ? どうせお家の人には相談しないんでしょ」


 相談するつもりがないというか、必要性を感じていないというか。不快だったのは間違いがないが、直接的な被害は無かったしこちらも応戦してしまっている。


「賛成だ。実家の方が安心というなら仕方ないが、俺達としては近くに居てほしい。コゴイは俺の部屋で寝るか?」

「おいやめろ。真顔だから冗談かわかんねー。まあ、ルルさんは気分転換に良いんじゃないか」


「痴漢に腹は立ちましたが思い返して恐怖に震えるほどではないですよ」


 みんな心配してくれて有難いが、そこまでトラウマにはなっていない。それにしても、やっぱり追い回される理由には心当たりがないので、何故このようなことになったのか疑問だけが残る。


「しっかし、いくらルルさんのこと狙ってたって言っても、クレイスと付き合いだした時点で諦めりゃいいのに。敵対してた時期だって俺たちと一緒にルルさんのこと睨んだりしてただろ? よくわかんねえよな、ロイのやつ」

「痴漢って、ロイのことなの?」


 あっ。シュシュちゃんにはまだ言ってなかった。あの痴漢小僧がシュシュちゃんの元お友達だって。


「うん、まあ……そんな感じ」

「ええ……」


 その反応になるよね。だって、行動に一貫性が無さすぎる。


「彼が昔家同士を通して婚約を申し込んだのは把握していてよ。当時それを知ったクレイスが泣いていたもの。他の男に先を越されたけれど、まだ彼女に相応しい人間になれていないから迎えにいけない、どうしようって」

「その時は本当に泣いた。ルルが恋愛に興味が無かったから、自分を磨く時間が出来て良かった」


「……ほんとに泣いた時は素直に申告するんですね」


 言わなくてもいいのに。別に泣きべそかいてても嫌ったりはしないけれど。クレイスくんは変なところで素直だ。そこが可愛い。


「ねぇ、初出の情報が多すぎるよ。ちゃんと説明してっ」


 ぷりぷりするシュシュちゃんに今日あったことをなるべく詳細に説明すると、頭を抱えてしまった。



「……兄妹揃って迷惑すぎる」


 だそうだ。



 宣言通り、翌日から授業以外の時間は誰かしらがお迎えに来てくれるようになったので、それに甘えることにした。クレイスくんやシュシュちゃん、時折はユリーシア様もお迎えに来てくれたし、そうでない時もなるべくクラスの子と過ごすようにした。


 度々お迎えに来てくれるクレイスくんを見て、『愛されてますわね、素敵』なんて言われて、頷くと色めき立った悲鳴が起こった。もしかしたら、『そんなことはないです』なんて返すのが一般的なのかもしれないけれど、実際にとんでもなく愛されているのを自覚しているので、否定するのも違う気がした。

 いろいろと今更かな、と、最近はエスコートらしきものも校内だろうが素直に受け取っていたんだけれど、しゃがんでいた私を起こそうと差し伸べてくれた手を掴んで、どっこら〜とか言った時だけは珍しく何か言いたそうな顔をしていた。まあ、やめろと言われるまではやめないけど。



「ルル、今日も無事に過ごせたか」

「おかげさまで。あの、ありがとうございます。いつもお迎えに来てくれて」

「いや。良いんだ。可愛いな」


 頼み事をしたりお礼を言う度に可愛いと言われるので、むずむずしてしまう。まだ校内なので、通りすがりの人たちが甘い雰囲気を察してか興味深そうにちらちらとこちらを見てくる。


「いつも何かを頂いたりしてもらってばかりなので、そのうちお返ししますね」

「……いや。俺は、世界で一番貴重なものをもらっているだろう。ルルとの時間を」


 その甘い言葉と甘い微笑みに、耳聡い女子たちのきゃーっという悲鳴が響き渡る。それはどういった感情なのだろう。クレイス様素敵、羨ましい、なのか、妖怪令嬢如きが許さんぞ、なのか。いくら私が可愛くても、クレイスくんの隣を掻っ攫われたことに納得いかない人は居るだろうからね。

 ついでに、貴公子スマイルを向けられたので私も溶けそうだ。なんていったって一番近くで喰らっている。


「やめましょうよ、激甘スマイルを外で放つの。自分のお顔が良いの分かってやってますよね?」

「? 俺の顔、好きだろう。ルルもあまり他人の目があるところで可愛い仕草をするな。狙われてしまうだろう」


 いや、好きだけど! 攻撃力が高すぎるのでちょっととぼけてるくらいがちょうど良いのに。ついでに私は可愛い仕草なんかしたつもりはない。まあ、クレイスくんにかかったら私の言動すべてが世界一可愛らしく見えてしまうらしいので仕方がないかな。……これは私の驕りなどではなく、実際にそう見えているらしい。クレイスくんから見た私は、世界一可愛い。


「私は確かに可愛いですけどね。クレイスくんは心配しすぎです」


 私が可愛いのは、認める。でも、他にも可愛い子は、たくさん居るのだ。


「実際に被害に合っているだろう」

「それはそうなんですけど……」


 やっぱり、どうにもあの痴漢小僧が私に恋愛感情を持っているようには思えない。本当に私のことが好きだったら、こんな風に甘い熱を宿した瞳で見つめてくるのではないだろうか。

 もっと優しく接してくれるはず、なんていうのはクレイスくんに慣れすぎてしまっているからだとしても。





 読んでくださってありがとうございます!


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