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異世界真理の探究者  作者: 南乗七史
野盗襲撃
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入学準備①

 少女の荷物が多かったため、馬車が襲撃されていた場所と襲撃した洞窟を何度か往復する必要があった。その運搬作業を終える頃に、魔都メルヘンラークからの救援が到着した。複数の騎士、複数の馬車の中に、アルフレッド達がここまで乗って来た馬車も並んでいる。野盗を捕縛している事を伝えると、騎士達は急いでそちらへ向かっていった。


「無事でよかったです。さすがアルフレッド様ですね」


 諸々を任せていた2人の冒険者が歩み寄ってきて、荷物を馬車に詰め込む作業を手伝う。そこで、ひと心地ついて緊張の糸が切れたらしく、少女がその場にへたれ込みそうになる。だが、アルフレッドがそれを支えた。


「ここよりも、馬車で休む事にしよう。そのほうが落ち着く」


 そのまま自分達の馬車に彼女を誘導して、椅子に座らせた。


 その後、アルフレッドは冒険者の1人に耳打ちした。


「護衛の人はどうなった?」


 この少女の護衛をしていた騎士であり、致命傷を受けていたためアルフレッドが傷を焼いて止血した者だ。冒険者は答える。


「今のところ、一命は取り留めてます」


「……そうか」


 いまのところ、という前置きがある以上、当然油断は出来ない。アルフレッドは少し考えて、護衛がまだ生きている事は伝えない事にした。今はまだ、刺激が少ないほうが良いと判断したためだ。


 こうして、野盗襲撃事件は幕を下ろす。アルフレッド達は少女の名前だけ聞いて、街まで送り届け、騎士達に任せ、解散するのだった。




 ―――――(◇◆◇◆◇)―――――




 叔父が魔法学校へ通っていた頃に使い、別宅としてとっておいた家があると聞いていたため、アルフレッド達はそこに荷物を降ろしてから、冒険者や馬車の依頼を終了とした。さて、では荷ほどきをしよう、となるのが筋だろうが、


「リーシャ、街を回らないか! どうせ夜ごはんをどこかで確保しないといけないんだ、荷ほどきは後にしよう!」


 好奇心を抑えられず、そういう事になった。


 石造りの街が広がる。そこかしこから薬品の匂いが漂う、不思議な街。初めて見る景色と価値観に、アルフレッドの胸は何度も高鳴る。


「ここが魔都・メルヘンラーク。お母さまも叔父上も通った地か」


 恍惚の表情で呟くと、隣を歩く黒髪サングラスの少女、リーシャが指摘した。


「にやつく、変顔。やめたほうが良い」


「うぐっ」


 緩んでいた気を締め直し、表情に気をつけながら観察を再開する。


 行き交う人の数は、アルフレッドの故郷であるパラノメールよりも多い。ファッションもどこかオシャレな気がする。美意識が高いのなら、確かに表情には気を付けたほうが良いだろう。


「おいリーシャ、あんなところに魔法石を打っている屋台があるぞ! 高級品をあんな風に売れるなんて、それほど魔法石が出回っているんだな! 流石は魔都メルヘンラーク!」


 見つけた屋台にテンションを上げるが、リーシャは簡単そうに言った。


「パチモン。こういう場所ではよくある」


「そういうものなのか!」


 素直に納得するアルフレッド。


「おい見ろリーシャ! あの串焼き、もしかして虫じゃないか!?」


「コオロギの串焼き。意外と美味しい」


「食べた事あるのか!?」


「任務で色んな場所回る。コオロギ食べる場所、割と多い」


「そ、そうなのか……パラノメールでは昆虫食の文化は無いな」


「食べてみる?」


「…………まだ覚悟が決まりそうにない。いつか挑戦しよう」


「勿体ない」


 言いながら歩みを進め、ふと見つけた屋台で買った肉の串焼きを2人で食べながら、ふと織物店を見つける。


「しまったな、ベッドの布は流石に取り換えたいんだが、絨毯とかの傷み具合を確認して来なかった。リーシャ、解るか?」


「把握済。絨毯は一通り問題無し。ただしカーテンは取り換えたほうが良い」


「じゃあ買っていくか」


 アルフレッドが呉服屋へ向かおうとするが、リーシャはアルフレッドの袖を摘まんで止めた。


「ここ、拠点から近い。布は荷物になる。後でいい」


「それもそうか」


 素直に納得する。


 そうやって散歩を続けて、ある目的地に到着する。


 剣と盾をモチーフにした柄が刻まれた看板が出入り口に飾ってある建物。冒険者ギルドだ。


 この街まで護衛してもらった冒険者達から場所は教わっていたので、ここにあることは解っていた。2人は早速中へ入る。


 パラノメールの冒険者ギルドも活気があったが、ここはそれ以上だった。あまりの喧噪に、普通の声では喋れそうにない。


 だが、故郷の冒険者ギルドでは列に並ばないと諸々の手続きは出来なかったのだが、ここはカウンターの数が多いおかげで、すぐに手続きに入れそうだった。


「受け入れ態勢の良さは見習うべきだな」


「依頼の数が違う。多分ここ、冒険者不足」


 依頼が張り出されている看板を見ると、その数に驚愕する。冒険者だけで捌き切れないのでは? という不安と、あれなら冒険者になってしまえばくいっぱぐれる事は無さそうだという安心が同時に込み上げた。


 そう、アルフレッドとリーシャは、これから冒険者に登録するのだ。


 貴族の出身とはいえ無限に仕送りがあるわけでもないし、仕送りは最低限の生活費のみだ。ともすれば、贅沢品の調達やその他もろもろのためにも稼ぐ方法が必要になる。


 すぐに順番が回って来たため、アルフレッドは受付嬢に言う。


「冒険者登録をしたい。2人だ」


 受付嬢は「かしこまりました」と返答した後、すぐに羊皮紙を2枚取り出した。


「登録料大銅貨1枚なので、計2枚になります。それと、こちらの誓約書にサインをお願いします。なお、登録料は2日以内でしたら後払いも可能です。その場合は、こちらの蝋板にサインをお願いします」


 仕事をするための冒険者登録なのに金を払うというのもおかしな話ではあるが、これは登録料というよりも誓約書の紙代みたいなものだ。この世界における紙は高級品なので、本当に仕事をするかどうかも解らない人間のために使い捨て出来るものでは無い。


「問題ない。リーシャ、すぐに払おう」


「了解」


 リーシャが麻袋を取り出し、金を払う。その間にアルフレッドがサインをする。


 因みにリーシャが金を出しはしたが、リーシャが払ったわけでは無い。アルフレッドの金をメイドであるリーシャが持ち歩いているのだ。


 支払いとサインを終える。


「ありがとうございます。アルフレッド・オース・ファラン様と、リーシャ・ディーゼル様ですね。……もしかしてパラノメールのファラン子爵家ですか?」


 名前確認の後に、受付嬢は少し驚いた様子で言うので、アルフレッドは頷いた。


「今年から魔法学校へ?」


 続けて聞かれ、少し驚いた。魔法学校へ通い始める事は決まり切っているかのようにきっぱりと言われるので、情報収集能力が高いのかと思ったのだ。


「そうだが……どうして魔法学校へ行く事を知っているんだい?」


 聞くと、受付嬢は朗らかに笑う。


「このギルドは事実上、魔法学校の生徒によって運営されているようなものなんですよ」


「……それもそうか」


 少し考えてみれば、確かにそうなるなと納得する。


 魔法学に進む人間はなにも貴族や金持ちだけではない。学びながら学費や生活費を稼ぐ必要は当然出てくる。そうなると、魔法学校へ進学するために魔都へ来た上で魔法を使える者達が一時的な生業として冒険者を選ぶというのは、至極当然な流れだろう。


 受付嬢はアルフレッド達がサインをした羊皮紙に何かを書き足しながら言った。


「今、ファラン子爵家は有名ですからね。アルメルライトにアルメルグラスを開発したのが、まさかの武闘派で有名な王国の盾ともなれば、話題にもなります。アルメルライトに至ってはもう、多くの研究者達が騒いじゃって、街中大変でしたよ」


「大変? 魔法灯が開発されて、大変になる事があるのか?」


「緊急依頼として冒険者が駆り出されるくらいの暴動でしたね。『先を越された!』『世紀の開発は私が成すはずだったのに!』『ファラン家許さん! 武家の癖に!』って。逆恨みしてる人も居ると思うので、街中ではファランの名前は名乗らないほうが良いかもしれませんね」


「はは……忠告ありがとう、そうするよ」


(俺の弟が天才過ぎてすみません)


 罪悪感は内心だけで済ませ、アルフレッドは苦笑するのだった。

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