5-36 山田友蔵の死と再生
松下飛影が煌鬼連の結成を宣言し、マーラは雑用を済ませる為に再び羅鋼兵団の拠点へと舞い戻った。
惨敗後という事もあり兵士達は全員目が血走っており、猟犬の様に目を光らせ徘徊している。
しかしその瞳はひどく怯えていたので手負いの草食動物という表現の方が正しいかもしれない。
もうここにはまともな兵器も無いので消化試合になるだろう。
「お邪魔しま~す。素敵なお兄さん達、私と遊びましょう?」
「ふごぉ!?」
いつもの様に弄んで殺しても良かったが、時間を短縮するため龍王マーラは愛用のギャラクティックドラゴンブレードで子供のごっこ遊びの様に兵士達を屠った。
「そぉれ! すんごいビーム!」
「敵襲ッ! てきっ、がふぅ!?」
しかし同じ殺し方ではつまらないのでたまには飛び道具を使ってみよう。
指先から放たれた黒いレーザーは兵士の胴体を射抜いて丸い穴を穿ち、ドスンと倒れて血肉の詰まった革袋に変わってしまった。
「すーぱーぽふぽふ~!」
「あ、ひぇっ、なにほれぇ」
「うぼぉお? しぁわせ~」
触手で縛り上げ無傷で捕らえた敵はキノコ胞子を振りかけて苗床に変えて。
この殺し方のネックはどんなに屈強な男でも見るに堪えないイキ顔に変わってしまう事だろうか。
「ウホッ、きぃのこ~、おおきなきのこぉ、たべてぇ~」
「アッーーー!?」
マイコニドの強さは普通のゾンビより少し強い程度だが、胞子を吸い込めばマイコニドになってしまうのでこれだけでも制圧出来る。
ちなみにマイコニドは普通に兵士をゾンビにしているだけだが、その際誤解を招きかねない言動をするのも難点である。
「うーん、つまらないわねー。何か面白いものは無いかしら」
マイコニドに雑魚を任せ、戦いに飽きたマーラはお土産を探すため玩具箱を漁る様にコンテナを調べた。
物資の中には毎度お馴染み千羽鶴が詰まっていたが、それは本来の使い道とは違っており中には拳銃が隠されていた。
「へえ、千羽鶴ってこういう使い方があるんだ。ひかげちゃんが支援物資の仕分け作業をしていた時文句を言ってたけど」
彼女は緩衝材代わりの千羽鶴をしばらく観察した後ぽいっ、と放り投げ、拳銃を手に取って眺めた。
だが自分には必要のないものなのでこれも適当に捨ててしまう。
目ぼしいものは無さそうだな、とマーラは諦めかけたがあるものを発見した。
「あっ! いいものめっけ! 金華サバの缶詰だあ!」
それは日本から届けられた支援物資の様だが、中には食糧が入っており大量の缶詰を発見した彼女は思わず頬ずりをしてしまった。
缶詰を見たら興奮するのは仕方がない。
こういう時には魔王の姿になってもやはり自分はマタンゴさんなのだとしみじみと実感してしまう。
「大収穫~、はっ! じゃない!」
戦利品を手にし、ほくほくとした笑顔で帰ろうとしたマーラは首をぶんぶんと振って我に返った。
これでも十分過ぎる戦果だが自分は缶詰を回収しにわざわざ大陸に来たのではない。
マーラは胸に缶詰を抱きかかえ鼻歌交じりに拠点の奥にある牢屋区画へと進んだ。
彼女は血のニオイを頼りに目的地へと向かう。牢屋には至る所に血痕が飛び散っているので、おそらく日常的にそういう事が行われていたのだろう。
「ここかしら? みぃつけた!」
彼を見つけた時、マーラはかくれんぼで隠れている子供を見つけた様に喜んだ。
全裸で椅子に拘束され印象がだいぶ変わっているが、おそらく彼は葉瀬帆高校特別国際支援科の山田友蔵だろう。
「誰」
山田友蔵は短く問いかけ、声を出すと血がぼたぼたと落ちてしまう。
しかしどのような表情をしているのかマーラにはわからなかった。
「ほへー、よく生きてるわね。こんな事をされて」
何故なら彼にはもう顔が存在しなかったからだ。
「こんな事が出来るだなんてやっぱり人間の方が普通に悪魔よねぇ。ゾンビよりもよっぽど人間のほうが怖いわ」
マーラは血まみれの金属のトレイに乗せられた山田友蔵の肉体の一部であった物をつんつんと突き、本来ある場所から切り離された眼球をビー玉の様に転がした。
「僕は何も知らないからぁッ! 本当に何も知らないからぁあッ! もうひどい事しないでぇえッ! ママァアア、だずげでぇえええッッ!!」
精神が崩壊した山田友蔵は泣き喚き無意味な助けを請う。
彼にとっては最早助けを求める相手が外宇宙の魔王であろうと関係ないのだろう。
「うふふ、助けてあげるわよ。その代わり人間じゃなくなるけどね」
「ふぉごお!?」
マーラは触手を伸ばして口腔内部に侵入させ山田の肉体を内部から犯していく。
彼の表皮からは黒い泥が湧き出て傷だらけの肉体を包み込み、人ならざる存在へと作り変えていった。
「ううん、人間の皮を失うだけか。あなたはもうとっくに人間じゃなくなっていたんだから」
「う、ぅおぅお、オッ……!?」
肉体を侵食された山田は次第に恐怖という感情を失い、得も言われぬ多幸感に包まれる。
(ヒカリ……)
けれど最後にほのかに恋心を抱いていた親友の顔を思い浮かべてしまい、山田友蔵は空虚な眼孔から静かに血の涙を流してしまった。
こんなにも死が幸せならば抗う必要などなかった。
たとえこの想いが失われたとしてもどうでもいいだろう。




