5-32 異形の怪物が見せた優しさ
羅鋼兵団が壊滅したとはいえ今回のミッションはあくまでも元連合軍の脱出なので、雑魚を片付けた俺っちは撤退する江九龍一行を護衛する為彼の下へ帰還した。
「ちょりーっす。皆生きてる?」
「おお、戻って来たか。見ての通りさ」
つっても昔のダチのおかげでもうする事はそんなにないから消化試合だけども。人数は若干減ったけど概ね及第点だろう。
民間人もほぼ死んでおらず敵の損害を考えれば最高の結果だけど、浮かない顔をしている江九龍にとってはそうではなかったようだ。
「ところで君は彼を助けられるかい?」
「およ、當間。こりゃまた派手にやられたねぇ」
江九龍は困った様に部下が運んでいた當間を見つめる。
しかし彼は既に死んでおり、現代医療ではどうにも出来ない状態なのは明らかだった。
「見捨てなかったの? 頭が半分くらい吹っ飛んでるけど」
「子供なのに頑張って戦ってくれたからやっぱりね。こうやって死んだ兵士の骨を拾うのも大事な仕事だよ」
「そっか。出来ない事はないけど助けたら人間じゃない別の何かになるから、大人しく地面に埋めてお経でも唱えてあげるのが一番だろうねぇ」
「やっぱりそうだよね」
俺は助けられない旨を冷淡に告げたけど、向こうも駄目で元々のつもりだったらしくさほど落胆する事は無かった。
けれどこうやってちゃんと下々の兵の死を悼んでくれる程度に人格者なので、部下も彼のために命を張れたのだろう。
「ありがとうね。せめて骨だけでも故郷に帰らせてあげよう。ただ埋めるのは葉瀬帆と沖縄どっちがいいのかなあ」
俺っちからすればほぼ他人の當間アレンとの想い出は特にないけれど、だからといって見捨てて野ざらしにするのも後味が悪い。
死後も丁重に扱われるというのは常に死と隣り合わせで戦う兵士にとって最大の安心材料となる。
利用する様で悪いけど覚えをよくするために首を突っ込まない理由はない。
元連合軍や葉瀬帆高校の面々との信頼関係を築くためにも後できちっと対応しておこう。
「まるでゾンビの様だけどあの鬼は君の差し金かい?」
「うんにゃ、俺っちじゃなくて旧希典派のツレが呼んできた感じ。でもまあ攻撃はしてこないとは思うけど……およ?」
「「ッ!?」」
江九龍に軽くゾンビについて説明しようとすると、暴れ終えた白いガブリガルグが地面を踏みしめながら接近してくる。
「撃つな!」
元連合軍の兵士達は慌てて攻撃をしようとしたが、江九龍は彼等に攻撃をしない様に指示を出した。
「グルルルル」
「ひっ……」
唸り声をあげる白いガブリガルグは江九龍に接近し、銃口を向ける兵士や民間人はひどく怯えていた。
変異ゾンビの中でもガブリガルグは特にグロテスクで恐ろしい見た目をしているし、巨大な怪物がその気になればすぐにでも命が奪われるのでそれも当然だ。
白いガブリガルグは江九龍に手を伸ばしたので一気に緊張が走るも、異形の怪物は一切手出しをする事無く彼の足元にそっと何かを置いた。
「これは」
そこには一人の弱った幼い少女が横たわっていた。
おそらくこの白いガブリガルグはどこかで逃げ遅れた少女を見つけ連れてきてくれたのだろう。
「グルルルル」
「ふむ、この子を助けてほしいのかい。もちろんだよ」
言葉は通じるはずもなかったが江九龍は怪物が伝えたかった事を理解し、その答えに満足した白いガブリガルグは何かをつまんで彼に手渡した。
「ん? お礼のつもりかい?」
それは瑞々しいビワであり、怪物から受け取るという状況は昔話の一ページの様だったがだが、江九龍は依頼料だと解釈したらしい。
「わかった、責任を持ってこの子を護ろう。私達だけではなくこの子の命までも助けてくれてありがとうね」
「グルルルル」
彼は丁寧に怪物の歪な手から新鮮なビワを受け取ると、白いガブリガルグは口をもぞもぞと動かして喜ぶ仕草をした。
少女の命を信頼出来る人間に託した白いガブリガルグは再び廃墟と化した戦場に戻っていき、烏合の衆となった羅鋼兵団の敗残兵を踏み潰していく。
「ちょっと強面だけど意外と可愛いね」
「そんなブルドッグみたいな感じじゃないと思うけどねぇ」
泰然自若とした江九龍は最初から白いガブリガルグを恐れていなかった様だ。
曇りのない眼を持つ偉丈夫の彼には、邪悪な見た目に隠された清らかな魂が見えていたのかもしれない。
白いガブリガルグの雄姿と優しさに感服した江九龍は幼い少女を抱きかかえて進軍を再開する。
もう特に厄介な敵はいないけど、怪物にこんな立派な事をされて人間が適当な仕事をするわけにはいかないよねえ。




