5-29 魔王マーラとこの世の物ならざる怪異達
遊撃部隊として戦場を飛び回っていた俺っちはもぐら叩きの様に敵を見つけ次第開幕ブッパで叩き潰していく。
「よっほっはー」
基本ヌルゲーではあるけれど時々対空砲とかで撃たれるので、そういう時は背面飛行で回避してぽーい、とクラスター爆弾を投下してと。
「はい綺麗にゴミが片付きましたー」
地上の敵は無数の小型爆弾により一掃され綺麗に空白地帯が出来てしまう。
この辺りには羅鋼兵団がうじゃうじゃいるししばらくここで粘ってみようかな。
ズゥン……ズゥン……。
「んー?」
だけどもう一度爆撃をしようとした時地鳴りが聞こえてくる。
地上の連中はまたどこかに爆弾が落ちたのではないかとパニックになっていたが、俺っちにはマップ機能があったのですぐに正体がわかってしまった。
『機動戦車ヴィイ……? そうか、援軍が来てくれたのか!』
羅鋼兵団は黒鉄の象の様なフォルムを見てすぐによく似たゴルイニシチェの決戦兵器だと認識した。
もしかしたら同盟を組んでいる彼等が助けに来てくれたと安堵してしまった奴もいるかもしれない。
だがそれは機動戦車ヴィイと酷似していたが似て非なる存在だった。
『うぎゃあああ?!』
肉と機械で作られた異形の怪物は八本の脚で矮小な人間をアリの様に踏み潰し、無尽蔵の弾薬やミサイルで戦場を瞬く間に蹂躙していった。
『これはヴィイなんてポンコツなガラクタじゃないわ。魔王マーラの眷族である邪神ギリメカラよ』
邪神ギリメカラへと生まれ変わった魔獣を駆るのはもちろん色欲の魔王マーラだ。
おそらくちょうどいい感じに神話の怪物ギリメカラに似ていた玩具を発見したので、それを素材にして原初の泥を混ぜ込んだのだろう。
もう一人、黒塗りの高級車が戦場に現れたので俺は運転手が誰であるのか確認する。
『さあ行くわよ、皆ぁ。このヴァルコフ大佐様が一人残らず殺してあげるわよッ!』
吸血鬼の様な風貌の青白い肌の男は巧みなハンドルさばきで銃弾の雨を掻い潜り、本来この世界に存在するはずがなかった虚構の悪魔もまた憎たらしい笑みを浮かべて宣戦布告をした。
『醜いあなた達を美しく殺してあげるわねぇ!』
黒いヴォルガは機神兵に変形し、ハルバードを振り回し戦場を華麗に駆け抜ける。
オネエだから殺し方も美に拘るとかなんともコテコテでテンプレな設定だ。
『ヴァルコフ大佐だと!? そんな馬鹿なッ!? あいつは実在しないはずだッ!』
『とにかく敵である事は間違いない! 急いで撃破しろ!』
虚構の存在であるヴァルコフ大佐の出現は羅鋼兵団を違う意味で混乱させてしまったが、シンプルに優秀なパイロットだったのでそのまま戦っても普通に強かった。
『はぁい!』
『がああ!?』
ベースになった怪異は『黒いヴォルガ』なのでやはりスピードタイプらしく、カリスマ的なヴァルコフ大佐のイメージも戦闘スタイルに反映されているのだろう。
端的に言えばまるでフィギュアスケートのショーをしている様で、無駄な動きが多く魅せる戦い方をしている。
それでいて華麗に回避してノーダメで次々に撃破しているからまあまあな化け物なんだけど。
ヴァルコフ大佐にとってこの戦いは美しい自分を魅せる為のパフォーマンスでしかないのだろう。
彼は急接近した後機神兵を切り裂き吸血鬼が血を吸い取る様に、あるいは『黒いヴォルガ』に乗って現れる謎の組織が臓器を抜き取る様に全てのエネルギーを奪い去った。
『おい、どうした!?』
仲間が呼びかけても応答せず、斬られた機神兵のコックピットの中を見ると羅鋼兵団の兵士は見事にカラカラのミイラになっていた。
『どうした、応答しろ!』
ミイラ化した兵士は口を動かそうとしたが、そのわずかな衝撃によって塵になり崩れ去ってしまう。
まさか仲間もこんなわけのわからない死に方をしているとは夢にも思うまい。
『んふぅ、イイ男ごちそうさまぁ~』
またヴァルコフ大佐は心なしか唇と肌がツヤツヤしていたのでこれはドレイン系の攻撃らしい。だけどこいつがこんなセリフを言うと違う意味に聞こえちゃうねぇ。
歪な平和が保たれていた冷戦時代、常に秘密警察から監視されていた人々は直接政府を批判する事が出来なかった。
なので『黒いヴォルガ』に乗って現れる犯人は吸血鬼だの臓器売買組織だのそういう類の何かになっていたけど、その設定が特殊能力にも反映されている様だ。
言うまでもなくこの怪異は秘密警察への恐怖から生まれたものであり、『黒いヴォルガ』は暗に政府を批判する為に作られた都市伝説である。
智樹ちゃんやヒカリもそのうちヴァルコフ大佐と戦う事になるんだろうけど要注意だねぇ。なかなか厄介な怪異が爆誕しちゃったものだ。
『私の見つけた掘り出し物はどうかしら? 希典、そこから見ているんでしょう?』
「ん? うん、いいんじゃないの?」
マーラは上空にいる俺っちに向かって玩具を自慢する様に微笑んだ。流石に監視しているって気付いていたか。
「でも折角来たのに仕事を取らないでよぉ」
そんな事より一番の問題は俺っちの見せ場が無くなってしまった事だ。
折角今回は俺っちが主役なんだからパイセンの顔を立ててほしいものである。
『うふふ、残念だけどこれは前菜。とっておきのメインディッシュは別にあるわ』
「メインディッシュ……やっぱアレ?」
『うふふ、アレよ』
深く言葉を交わさずとも俺っちとマーラは『アレ』が何であるかすぐにわかってしまった。
「そっかあ、アレがねぇ。ついに顕現しちゃったかあ」
確かにギリメカラやヴァルコフ大佐も脅威だが、『アレ』に比べれば取りに足らない存在だ。
「ついにあいつと出会えるのか。まったく嬉しいやら恐ろしいやら。だけど真打が顔見世興行をするなら顔を出さないわけにはいかないだろうねぇ」
だけど俺っちはあいつと出会えるのをどこか心待ちにしていた。
飾らない幼稚な言葉で言えばドキドキワクワク――そう、気になる終わり方から一週間待って特撮アニメを見る気持ちにも似ていた。
「それじゃあ特等席で見学させてもらうよ」
『ええ、そうするといいわ』
最早俺っちの瞳にマーラ達なんて端役は眼中になかった。
この終末の世界で奴がどういう役割を演じるのかはわからないけれど、あいつは俺っちの物語にとって必要不可欠な存在だ。
せいぜい一緒に滅びの物語を楽しませてもらうとしよう。




