5-27 死を恐れないゾンビの様な兵士達
第一陣がほぼほぼ何も出来ずに壊滅し前線が阿鼻叫喚の地獄絵図と化している中、現場の様子を何もわかっていない羅一星は痺れを切らして次なる指令を下した。
『ったく、使えないわねー。まあいいわ、ママチャリ部隊を特攻みなさい!』
無能な独裁者である羅一星が採用した策は物量によるゴリ押しだった。
彼女はもう一つの切り札であり羅鋼兵団の主力でもあるママチャリ部隊を突入させる。
『来たぞッ!』
市街地で迎え撃っていた元連合軍もまた最大の脅威であるママチャリ部隊の姿を視認し緊張が走った。
ギィコ、ギィコ、ギィコ。
土埃にシルエットが浮かぶ何百台もの自転車は、戦場には似つかわしくない聞き馴染みのある音を奏でた。
「We Die As One! We Are All Heroes!」
ママチャリを漕ぐ人間は連合軍のスローガンを一斉に叫ぶ。
『私達は死んで一つになる、私達は英雄だ』――誰しもが当たり前の様に叫んでいるが、考えてみれば他者に洗脳され死を強要されるなんてかなり狂っている。
「「We Die As One! We Are All Heroes!」」
土埃が晴れ、壊れかけのママチャリに乗って歪な笑みを浮かべる兵士達の姿がはっきりとわかる様になった。
クスリを用いて恐怖の感情を消し去った兵士達と、鋭い刃物や釘が仕込まれた爆弾が積まれた前かごを見ればこの兵器の運用方法は大体わかるだろう。
見栄えが悪くアナログにも程があるが最新鋭のセンサーに感知されず、燃料も使わず静かに接近出来るホーミング付きの兵器ではあるので確かに近代戦には適している。
原料はママチャリと爆弾、そして人の命さえあればいい。
人命が最も安価になった終末戦争において魔改造ママチャリ兵器は、コスパが最高で戦略的にも理に適っている究極の兵器だと言えるだろう。
「「「We Die As One! We Are All Heroes!」」」
『撃てッ! バリケードに近付けるなッ!』
兵士達は狂った様に笑いながらギィコギィコと猛烈な勢いで自転車を漕ぎ、連合軍の兵士たちは速やかに射殺して排除していく。
ママチャリ特攻部隊は見た目の通り耐久性は皆無であり、転倒した衝撃で一人、また一人と爆散していく。
「ひぃろおお、いぇーい」
「かぁみさまがいるよぉお」
「もうかえりたぁあい」
それでも彼等は死を恐れずに自転車を漕ぎ続け、そして肉片となって無意味に死んでいった。
「おれたちはぁ、くにをまもるえいゆぅうう」
「こっかにしょうりぃ、しょうりぃい」
「おかぁさあーん」
薬漬けにされた彼らに最早人間としての意志は存在せず、恍惚とした笑みを浮かべて躊躇わずに死を選ぶ姿はゾンビにしか見えなかった。
国家のため、名誉のため、神様のため、家族や故郷を護るため――。
彼等は様々な理由で戦う事を選んだようだが、共通している事は全員死を望んでいるという事だった。
きっと兵士達はそれが正しいと洗脳されているのだろう。
しかし実際は独裁者羅一星が権力を掌握するために無意味な攻撃をさせられているだけだ。
連合軍はゾンビのデマを戦争に利用したが、自我を失い人ならざる怪物へと成り果てた彼等こそがゾンビだと言えるかもしれない。
「さあ勇者様ぁ! ともにチートでハーレムな異世界に参りましょうッ! 異世界では望む物が全て手に入りますよぉ!」
さらには攻撃の最中上空に天使が顕現し、ネメシアは天使とは思えない様な俗っぽい言葉で兵士を煽り突撃させていった。
『天使だと……!?』
『構うな! とにかく撃つんだッ! ぐああああ!?』
元連合軍はそのあり得ない光景に恐怖し攻撃の手がわずかに緩んでしまい、その隙にママチャリ特攻部隊が前線に到達して爆散しかなりの被害が出てしまう。
(出来れば戦いたくないけど……やるしかないのかねぇ)
おそらく俺っちが力を行使すれば局面はすぐにでも変わるだろうけど、それには大きな代償を伴う。
外側の存在である俺っちが介入すれば因果を乱し、痕跡を残せば荒木希典を救世主と信じる連中は歓喜するだろう。
それが世界にどのような結果をもたらすか。少なくともいい変化ではない。
しばしの逡巡の後俺っちはようやく重い腰を上げる決断をし、光の翼を展開して戦場に舞い降りる選択をした。




