5-26 上海脱出作戦の決行
脱出作戦決行の時は刻一刻と迫り、俺っちは大学の屋上からマップ機能や軍事衛星も使いつつ敵の様子を探った。
敵の監視システムは全てハッキングしており、その気になれば現代戦の要でもある通信網を完膚なきまでに破壊する事も出来る。
ただ旧希典派もそのつもりだし、二度手間になる上にややこしくなるのであえて複雑な何かをする必要はないだろう。
「動いたか」
どこからかき集めたのか遠方から機神兵やロボット兵器が集結し、羅鋼兵団は着々と一斉攻撃の準備を始めた。
兵器は中国製のものだけではなく、アメリカ、日本、欧州、ロシア、中東等々武器の見本市が開ける程より取り見取りだ。
統一感はないが消耗が激しい終末戦争では最強の戦力と言えるだろう。
それもそのはず、対戦相手は今現在世界で最大最強の軍事勢力なのだから。
死にかけの反乱軍を潰すにはいささか過剰ではあるが、軍事力を見せつける事も目的にしているはずだ。
旧希典派が動き出すのはもう少し後になる。
戦いに巻き込まれるのも嫌だし今のうちに行動すべきだね。全力が出せない以上、死人は確実に出るが致し方ないだろう。
「こちら希典、羅鋼兵団が動き出した。作戦決行の時だ」
『了解。劣勢だが決して諦めるな。各自死力を尽くして戦え!』
『『了解ッ!』』
予定より少し早いが俺っちは作戦決行の合図を出し、江九龍の指示で元連合軍は脱出作戦を決行した。
一方羅一星も珍しく戦場の近くに顔を出していた。
もちろん最前線ではなく割と安全な後方だったけど、あいつも勝利が待ち遠しかったのか警戒心より名誉欲が勝った様だ。
『羅総統、反乱軍が一斉に動き始めました』
『は? 包囲してるのに馬鹿じゃないの? まあいいわ、手間が省けたってものね!』
こっそり仕掛けた小型監視カメラの映像にはうざったい笑みを浮かべる羅一星がバッチリくっきり映っていた。
どこに羅鋼兵団の兵隊がいてどのような兵器がありどうやって行動しようとしているのか、こっちには全部筒抜けなのに連中は全く気付いていない。
連中の様子を探っていた俺っちはマップ越しにサタナエルを発見し、操縦していた瀬田ちゃんに無線で挨拶をする。
「じゃヨロー。俺っちは元連合軍を連れて逃げるから。出来るだけこっちには攻撃しないでね」
『ああ、わかってるさ!』
瀬田直子はにっこりと笑って指で合図を送り、のんきに進む羅鋼兵団に精密ドローン爆撃の雨を降らせて先制攻撃を放った。
得物は爆弾オンリーだけど馬鹿の一つ覚え、急所を的確に破壊する無数のドローンは数億単位の金を投じて作られた兵器を次々と鉄くずに変えていく。
『伝令ッ! ドローン爆撃ですッ! なんでこんな……オギョアア!?』
『あん? ちょい、何が起こったの?』
前線は死屍累々となり秘蔵の兵器は何も出来ずに壊滅してしまったけど、被害を伝える兵士が死んでしまった結果情報が何も伝わらなかったらしい。
『通信が途絶えました! 各地で激しい抵抗に遭っています!』
『(何でこんなに武器があるんだよ!? 何であんな武器があるんだよ!?)』
『(敵を発見ッ! 攻撃を開始します!)』
『待て撃つな! 俺達は味方だッ!? ここは制圧済みだッ!』
『話が違うじゃないかァ!?』
『オイコラ英語で話せ! わかんねぇんだよ!』
『弾が違うだろ! 5.56ミリなんかいらない、7.62ミリだッ!!』
羅鋼兵団は最初の一撃で崩壊してしまい、様々な言語で喚き散らす様には規律などというものは存在せず最早軍隊という体裁を為していなかった。
正直まだ何もしていないけどいくら何でもグダグダ過ぎる。
寄せ集めの軍隊という事もあり言語もバラバラで連携が全く取れていない。
『ふーむ、私はまだほとんど何もしていないのだが。何だこれは?』
「まあ、軍事の素人が何となくで兵隊を動かしたらこうなっちゃうんだろうね」
しかしこれは彼等が悪いわけじゃない。むしろ個々人の性能は優秀だ。
だが作戦決行のために無理矢理様々な言語の兵隊を同じ場所に集めた事で混乱が起きてしまったらしい。
「もっと言えば諸々のシステムとかはあのハマグリンク製だしねぇ」
『流石は『時限爆弾と書いてハマグリンクと読む』だの『大丈夫? ハマグリンク製だよ』と揶揄されるだけの事はある。いつも期待を裏切らない安定のクオリティだな』
「時限爆弾のほうが爆発するタイミングがわかるだけ遥かにマシだよ」
更には本来用いるべきではない弾薬を使った事で暴発し、適切ではない整備をしたせいで暴発し、システムの設定ミスで味方を誤爆してしまい――正直瀬田直子の先制攻撃よりも自滅で死んだ人間の方が多いかもしれない。
東京婦女子見守り隊の時に戦地での韓国軍の誤爆がダルマオンナ事件の遠因の一つとなったけど、ぶっちゃけ指揮系統がよくわからない多国籍軍ではよくある事だ。
最高の軍隊は最高の兵士ではなく、最高の規律によって作られる。
一流の軍事組織ですら避けられないのに、タレント上がりの軍事のド素人がにわか齧りの知識で兵隊を動かせばそれこうなってしまうだろう。
「ちなみに一応確認するけど諸々のアレコレはハッキング済みだよね」
『ああ。もちろん連中の作戦も無線のやり取りはこちらに筒抜けだ。もっと言えば作戦立案の段階から仕込んでるぞ』
「あらそう。つまり連中はわざわざ死ぬためにやって来たってわけね。それを加味してもゴミ過ぎるけどねぇ」
今まではプロがいろいろやってくれたから何とかなったんだろうけど彼女は自ら粛清して追放してしまった。それがこの惨状の原因だろう。
全くもって虚しく無意味な戦いだ。これでは戦うまでもなくそのうち内紛が起こって自滅するだろうねぇ。
魔王というにはあまりにも無能でポンコツ過ぎる。
結局羅一星はただの扇動者であり魔王と呼べる存在ではなかった様だ。




