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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~【第一部完結】  作者: 高山路麒
第五章 鬼となりし見えざる者達【幕間1】

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5-24 上海脱出作戦のブリーフィング

 一仕事終えた俺っちはブリーフィングルームに移動し、江将軍を含めた幹部と今後の事について話し合いをしていた。


 この場にいるのは全員歴戦の猛者ばかりだが、葉瀬帆高校の生徒など少しばかり不釣り合いな面々もいた。


 明らかにおどおどして実に頼りなく本人達も場違いだと理解しているのか気まずそうだ。TS幼女の俺っちが言えた義理じゃないけどねぇ。


「さーて、取り敢えず俺っちのおかげで補給は出来たけどどうすんの? 大まかに分けて徹底抗戦、降伏、撤退って感じだけど」

「感情論を抜きにしても降伏だけはあり得ません、絶対に。その先にあるのは死のみです。ここには民間人も多くいますのでその様な選択肢は存在しません」

「まあ、だろうね。相手はあの羅一星率いる羅鋼兵団だからねぇ。ゴルイニシチェもまあまあヤヴァイけど、羅鋼兵団もどっこいどっこいだからねぇ」


 羅鋼兵団がいかに残虐なのかを知っていた自衛隊の士官は強い口調で告げた。


 悲劇のヒロインという設定も相まってテレビ映りだけはいいから羅一星は人気があるけど、宴会場で見せたあいつの素顔を見てしまったら誰もが幻滅してしまうだろう。


 昔の羅一星は確かに虐げられる弱者だったかもしれない。けれど今や羅一星は搾取する側に変わってしまった。


 救いの手を差し伸べた人間ですら、弱者の仮面を投げ捨てたあいつにとっては飽くなき飢えを満たすためのエサでしかないのだろう。


「そんなクソヤバい羅鋼兵団を束ねる人間が実質的に中国と連合軍のトップになったわけだからねぇ。皆そりゃ嫌だよねぇ」

「その様な次元ではありません。不当な手段で国家元首になった政治家気取りのタレントに従う道理はありません」


 軍人は国家の命令に従わなければならない。


 それはどのような国家であろうと当然の事だ。たとえ暗君であろうと国家に命令された以上は従うのが軍人の使命なのだから。


「我々の国も臨時政府が全てを決める様になりました。クーデター紛いの方法で権力を奪い取り、国家元首を自称している人間達が」

「私達は自分達の国を滅ぼした売国奴や羅一星のために命を懸けるつもりはありません。そして集団で離反して……こうなったわけです」


 しかし彼等に命令を下した組織は国家ではなく勝手に支配者を名乗っている人間だ。


 無論その中には暴力や姦計によって権力を奪い取った者も数多く存在する。


 元連合軍が今現在行っている行為も事実上のクーデターと解釈出来るが、そもそも国家が崩壊している以上どちらの勢力にも正当性は存在しないだろう。


「羅一星は他国と共謀して権力を奪い取り、大衆を扇動して戦争に加担させ、従わない人間はことごとく排除した。あいつの作ろうとする世界には羅一星と側近以外の人間はいない。羅一星が天下を取ればアジアは、いや世界は地獄と化すだろう」


 歴史の生き証人である江九龍には見えていた。羅一星が作り出す絶望と混沌の世界が。


 現状日本から自衛隊以外に兵隊として駆り出されているのは復興支援という名目で集められた貧しい人間だ。


 完全な徴兵ではなく自由意志が存在し、なんだかんだで首の皮一枚で繋がっている日本は幸せな部類に入るだろう。


「我々軍人は強さを見せつけて戦争を抑止するのが最大の使命だ。だが結局の所軍事や経済等による抑止力は相手がまともでなければ成立しない」

「でも羅一星にはそんなややこしい事情は全然関係ないんだろうねぇ。金! 土地! 権力! イイ男! 目立ちたい! あいつの行動原理はそれくらいだろうねぇ」

「全くもってその通りだ。馬鹿馬鹿しい事この上ないがね」


 けれど飽くなき欲望を持つ羅一星の渇きが満たされる事は決してない。


 欲望のままに生きるあの女狐は世界に天地に存在する万物を全て手にするために戦争を望むはずだ。


 それこそ核兵器の様な禁断の兵器を使ってでも。


 政治の知識が一切ない人間が経済や外交といったあらゆる道理を無視して自らの都合だけで政治を行い、自らの都合だけで戦争を行う。


 本来ならばそんな愚かにも程がある人間が支配者になるはずなどなかったが、羅一星は愚者によって始まった終末戦争に相応しい独裁者だと言えるだろう。


 それを言葉で表現するのならば進化論ならぬ退化論だ。


 愚かな人間達はより愚かな人間を生み出す。


 しかし原始的な欲求を求める生物としてはむしろそちらの方が正しいとは言える。結局人間はただの獣なのだ。


「ただ補給をして食い繋ぐ事は出来たけど陥落は時間の問題だろう。逃げたほうがいいんじゃないかなあ」

「周囲を取り囲まれ四面楚歌の状態で出来るはずもない。それに逃げると言ってもどこに逃げる。我々は今や民衆の敵だ。世界中どこにもそんな場所は存在しない」


 江九龍はやや呆れながら尋ねた。


 今までそうしなかったという事はそれが無理難題である事は百も承知なのだろう。


「当てがあるから言っているんだよぉ」

「ふむ?」


 けれど笑みを浮かべてそう切り返すと江九龍は食いついた。


 俺っちには国家主席を亡命させ、つい先ほど包囲を掻い潜って大量の補給物資を持って来たという実績があるので耳を傾ける価値があると判断したのだろう。


「それにどの道この世界は人が住めなくなって全てが死に絶える。貴賤や人種の区別なく今度こそ全人類に対して平等に終末が訪れるだろうさ。地球に住む人間は誰もそんな事を考えずに戦争をしているけどね」

「おかしな事を言う。君はまさか地球を脱出するとでも言いたいのかい? 君ならばあながち絵空事でもないが」

「半分は正解かなあ。やろうと思えば出来るけどもっとシンプルな方法だよぉ」


 俺っちの正体をある程度知っている江九龍は突飛な可能性に思い至ったが生憎今回はそういうのではない。スペースオペラもそれはそれで楽しいけどねぇ。


「もうすぐ羅鋼兵団は一斉攻撃を仕掛けてくる。だけどそれに合わせて羅鋼兵団に対して別の勢力が総攻撃を仕掛ける。んで、そのどさくさに紛れて上海を脱出するって感じね」

「別の勢力とは。君はその勢力の仲間ではないという事か」

「昔のダチ。ちょっと喧嘩してる感じだからその辺が微妙だけど、ナシを付けておいたからこっちを積極的に襲う事はないから。ただ巻き添えにはなるかもしれないからそこは気を付けて」

「その勢力は旧希典派と呼ばれる武装勢力かね」

「察しがいいねぇ」

「旧希典派、って」


 江九龍は割り込む予定の勢力が旧希典派だとすぐに思い至り、世界でも屈指の悪名高きテロ組織に幹部はどよめいてしまう。


「ちなみに旧希典派も兵隊の大部分はお前さん方と似た感じで反乱を起こした軍人崩れだけど、フツーに民間人も巻き添えにするタイプの武装勢力だ」


 旧希典派の成り立ちを教えると他の士官も信じるべきかどうかを熟考した。


 ゴルイニシチェや羅鋼兵団程悪逆非道ではなくとも奴らも結局テロリストであり、決して正義の味方ではないのだ。


「ただその辺もナシはちゃんとつけている。あくまでも連中の目的は羅鋼兵団でこっちを助けに来たわけじゃないからそれ以上関わる事もない。戦いが終わった後に合流したいなら止めはしないけどねぇ」

「あくまでも一時的に協力するだけなのだな」


 江九龍は鋭い眼光でその事実を入念に確認する。


 結局虐げる存在が羅鋼兵団から旧希典派に変わるだけではないか――彼はそんな可能性を危惧しているのだろう。


「ああ、約束するよ。もしも連中が俺っちとの取り決めを反故にしたら、あいつらを硫酸で溶かしてゲロと一緒に下水に流すからさぁ」


 だから俺っちも負けじと不敵な笑みを浮かべて睨み返す。


 龍虎の睨み合いに周囲の人間は息が出来なくなり、固唾を飲んで行く末を見守った。


「わかった、その提案に乗ろう。どの道君が来なければ我々は終わっていた。一度ならず二度も我々を助けてくれた朋友を信じない道理などなかろう」

「そう言ってくれると思ったよぉ」


 笑みを浮かべた江九龍は将としてさほど葛藤せずに決断を下した。


 ぶっちゃけ国家主席を亡命させた時も旧希典派のメンツが手を貸してくれたし、別に向こうからすれば敵じゃないからね。


「では早速脱出作戦の準備に取り掛かろう。最早一刻の猶予もないが、武器も弾薬も十分にある。共にこの死地を乗り越えようぞ!」

「「はいッ!」」


 江九龍は部下を激励して士気を高める。


 俺っちだけでも何とかはなるけど、あまり干渉したくないから出来る限り彼等にも頑張ってもらうとするかね。

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