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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~【第一部完結】  作者: 高山路麒
第五章 鬼となりし見えざる者達【幕間1】

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5-23 負傷兵當間アレンの戦う理由

 大量の物資が届けられた元連合軍の拠点は歓喜に咽び泣き、飢えた人々は腹を満たし兵士達も士気を取り戻し始めた。


「はい終わりー。ホレ次」

「す、すごい! こんな一瞬で終わらせるなんて!」


 その間俺っちは持ち前のゴッドハンドでテキパキと外科手術を終わらせて負傷者を救助していく。俺っちの本業はマッドサイエンティストで医者じゃないんだけどねぇ。


「だからホレ次。ホレ。とっとと終わらせて酒飲みたいんだからはよはよ」

「いえ、おかげ様で今治療をしただいている兵士で最後です。軽傷者はいますがそちらは我々だけで事足りるので」

「あらそう」


 流れ作業が滞ったので軍人に促すも、どうやら早すぎたせいで重傷者がいなくなってしまった様だ。ならこいつをとっとと助けるかねぇ。


「んじゃあちょいとチクッとするけど我慢してねぇ。すぐに痛みを感じなくなるから」

「平気だ。地雷を踏んで足が吹っ飛んだ時に比べれば何てことない。だが外科手術でもそう言うんだな」

「様式美って奴?」


 最後の怪我人は當間アレンだった。


 彼の順番が最後になったのは半ば助けるのを諦めていたからだけど、その事を伝える必要はないだろう。


「うひゃー、先っちょのほう腐ってるじゃん。よく生きてたね。溶かしていい? 痛みはないから」

「痛みがないなら構わない」

「うぃ。ちょいグロい事するから目ぇ閉じてね」


 この怪我では死ぬのも時間の問題だ。


 俺っちは普通の治療を諦め、右腕を泥の蛇に変えて欠損した右足を膝のあたりを食んだ。


 腐敗した部位を溶かしつつ酸で固める治療は傍から見れば食われている様に見えるけど、荒木の一族のトンデモ医学的には理に適った治療法だ。


 その気になれば足を修復する事も出来るけどそこまではまだ早い。せめて後で義足を作ってやろう。


「俺なんかも助けてくれるんだな。何の役に立たない俺でも」

「成り行きで。後は知り合いに恩も売っておきたいし」

「そうか。あの人には迷惑をかけてばかりだけどな……」


 もしかしたら當間は恩を売りたい相手を江将軍と勘違いしたのかもしれない。


 実際は智樹ちゃんやヒカリちゃんだけど、ややこしくなるし別に説明する必要もないか。


「元々死ぬつもりで兵隊になったわけだし、いっそ死なせてくれた方が良かったんだが。怪我が治ればどうせまた殺し合うだけだ」

「……………」


 しかし當間本人は余計な事を、とひどく不愉快そうだった。


 彼にとっては死ぬ事こそが最終目的だったので、絶望する事なく死ねたならばそのほうが幸せだったのだろう。


「自殺志願者、ってわけでもなさそうだね。遺族補償金目的かい?」

「ああ。俺が死ねば家族がその金で少しだけ幸せに暮らせる。だから兵隊になった。生きて帰るつもりなんてさらさらなかった。俺が求めたのは金だけだった」

「そうかい」


 兵士の遺族に支払われる補償金はそれなりの金額であり、それを目当てに兵隊になる人間も少なくない。


 だけどその辺にまつわる裏事情は何も知らないんだろう。真実を知れば絶望するだろうから言わないけどねぇ。


「この戦争に正義は存在しない。ただ無意味に戦って無意味に死ぬだけだ」


 當間の絶望は次第に憤怒へと変わり、世界に対して怨嗟の呪詛を呟き始めた。


「どうして連合軍は敵だったはずのゴルイニシチェと一緒に戦っているんだ。どうして俺たちは同じ連合軍と戦っているんだ。どうして俺たちは同じ日本人同士で殺し合っているんだ。どうして俺たちは同じ人間同士で殺し合っているんだ」


 グダグダなベロヴォーディエ紛争に始まり、落としどころを見つけられないまま続いている終末戦争には大義名分なんてものは何一つとして無い。


 いくら都合の悪い現実を見えなくしたところで、実際に戦場で戦っている彼等は醜悪な全ての真実を知っていたのだ。


「この戦いには意味があるのか。俺たちは何のために戦っているんだ」


 それはこの場にいる誰しもが思っていたけれど誰も言えなかった言葉だった。


 こんな戦争ではとても命を賭ける事なんて出来ないだろう。


「終わったよ。もう目を開けていいから」

「何をしたんだ?」


 當間アレンは綺麗に整えられた右膝を見て目を丸くしてしまう。


 まだ皮膚は出来たばかりだし包帯くらいは巻いておこう。


「取りあえずこの戦いを生き延びるんだ。そうすれば道は開ける。後は戦うなり逃げるなり好きにすればいい」


 無責任な事を言うつもりはないし、正直な所彼の生き死ににあまり興味はない。


 けれどこんな世界にしてしまったのは他ならぬ俺っちの責任だ。ならば進むべき道程は示さなければなるまい。


「……フン。馬鹿馬鹿しい。なら俺は死ぬ事を選ぶ。俺には後がない。先もねぇけどな」


 鼻で笑う當間には目指すべき道は見えなかったらしい。


 元々救済するつもりはなかったけど、やっぱり少しばかり寂しくはある。


 やれやれ、山田もどうする事も出来なかったし、これじゃあ智樹ちゃんとヒカリちゃんに合わせる顔がないねぇ。

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