5-21 孤立無援の『龍帝』江九龍
大暴れして連合軍の拠点を脱出した後、俺っちは飛行形態になり最前線の上海へと向かった。
攻めろだの攻めるなだのすぐに意見を変える羅一星の我がままに振り回されていた事もあり、上海では現在戦闘行為を一時的に中断しているらしい。
けれどその気になればすぐにでもドンパチが始まる。
兵力を見た感じどちらも微妙だけど、羅鋼兵団の方が質も量も上っぽい。
それでも未だに陥落していないのはこの地を連合軍の軍神が守護しているからだろう。
ステルス迷彩を纏っていた俺っちはこっそり拠点となっている大学に侵入した。
学問の府である大学には幾重にもバリケードが張り巡らされ、ライフルを持った連合軍の兵士が小窓から観測手と共に戦場を覗きいつでも反撃出来る様に目を光らせていた。
俺っちが観察していると観測手は何故かこちらを睨みつける。
姿を見えなくしているはずなのに長年の経験で違和感に気付いてしまった様だ。
「お邪魔しまーす」
けれど反撃される事はなく、俺っちは無事に敷地内に着陸して光学迷彩を解除する。
うん、なんとかなったね。
――カチャリ。
「あらん」
「そのまま腹ばいになり手を後ろ手にして組むんだ」
けれど油断していた俺っちを老年の軍人が厳しい口調で警告する。
どうやら後頭部に銃口が突きつけられているらしい。
「腹ばいになって手を組むのはいいけど、不定形タイプだからあまり意味はないと思うけどねぇ」
「む」
俺っちはごぷごぷと姿を変化させ、老年の軍人は異様な光景に一瞬怯むも、普通のオッサンに戻った姿を見て目を丸くしてしまう。
「おひさー、江九龍」
「希典君?」
軍神江九龍は侵入者の正体が俺っちだと知り驚愕するも、そこは年の功ですぐに平常心に戻ってしまった。
「今回は随分と変わった登場だね。君がヘンテコなのはいつもの事だけどついに少女に変身する様になってしまったか」
「最近TSモノが流行ってるからね、流行に乗っかったのさ。あ、元に戻っていい? こっちにも都合があるから」
「構わないよ」
江九龍は警戒を解いて銃を下ろし、俺っちは不定形の肉体を蠢かせ再度TSモードに変化する。
幸いにして他に気付いている奴はいないみたいだけど一人だけ侵入に気付くなんて相変わらずの化け物だ。
「だけど出来れば早めに教えてくれないかな。白湯の代わりに銃弾でおもてなしをする羽目になるから」
「ごめんごめん、次からは気を付けるよ」
「次があるかどうかはわからないけどね。大統領選挙も終わっちゃったから」
江九龍はボロボロのバリケードを眺め嘆息しながら言った。
羅一星も宴会場でギャンギャン喚いていたし、わかりやすい成果をアピールする為直に一斉攻撃が行われ上海は陥落するはずだ。
「君と最後に会ったのはいつだったっけ」
「ベロヴォーディエ紛争からちょっと後くらいかな。亡命させてあげた袁の爺さんはまだ生きてる?」
「国家主席ならカリブ海を眺めながら今も再興のために尽力しておられるよ」
江将軍とはちょっと前に絡みがあったけれど、本が一冊書けるくらいの大長編なのでここでは端折らせてもらおう。
「本当はあのクーデターで私も国家主席も死ぬはずだったのにおかげさまでこうして生き永らえている。君には感謝してもしきれないよ」
もっとも当時のクーデターを簡単に言うと追い詰められた馬鹿が破れかぶれのクーデターをして、頼んでもいないのにいろんな所が首を突っ込んで毎度お馴染みグダグダな感じで共倒れになっただけから語る程の事でもないんだけどねぇ。
「感謝される筋合いはないよ。俺っちは俺っちの目的のために行動しているだけだから。別に中国の為だけに行動しているわけじゃないし、展開次第では敵になる事だってあり得るだろうし」
「それでもだよ。中国が、いや人類がまだ滅亡していないのは君のおかげだ。我々が不甲斐ないばかりに義侠心溢れる君に国賊の濡れ衣を着せてしまい本当に申し訳ない」
向こうからすれば俺っちは教科書に載るレベルの大恩人なわけだけど、もちろん他国と共謀して袁国家主席を排除した今の支配者達からすればテロリスト扱いだ。
「実際テロリストさ。確かにやっていないテロもあるけど、今も昔も暴力で変革をしようとしているわけだし。それに歴史の影で暗躍し続ける荒木の一族は基本的に表に出てこないのがデフォだからそっちのほうがいいかなぁ」
「君は相変わらず欲がないね。連合軍や政治家も君の様な人間ばかりなら終末戦争は起こらなかっただろう」
身勝手な権力者に振り回された江九龍は壊れてしまった世界を嘆いてしまう。
まったく、こいつもよくもまあ今まで馬鹿な連中に付き合ってやったものだ。
江九龍は俺っちのおかげで中国が滅亡していないと言っていたが、俺っちに言わせれば『龍帝』の異名を持つ彼の様な傑物がいなければもっと早くに世界は滅び、日本もより過酷な状況に置かれていたはずだ。
「折角旧友が来てくれたんだ、我らが反乱軍の拠点を案内しよう。いろいろ話したい事もあるからね」
「うぃー」
江九龍は自ら国賓にして友人でもある俺っちの案内を買って出てくれた。
いちいち見なくても大体悲惨な状況はわかるけど、断るのも悪いし軽く把握しておこうかね。




