5-17 女皇羅一星の堕落した宴会
目玉のまれっちは換気ダクト内を進み、丸々太ったネズミにガンを飛ばして追い払った後宴会場への侵入に成功する。
その部屋は宴会場というよりも反社が集まるクラブの様で、ギラギラした光は実にオジサンの目に優しくない。
ここは一応警察署だったのに随分と好き放題改装していらっしゃる。リフォームにかかった金はもちろん国民の血税だろう。
お立ち台の上では下着同然の服を着た女性達が官能的なダンスを踊っており、連合軍の士官は鼻の下を伸ばして隣に座るホステスの胸の谷間に札束チップを突っ込んでいた。
別のパンツ一丁の士官は腰蓑の様にやはり紙幣を突っ込んでいて、頭に巻き付けたネクタイでお札の王冠を作り、若い女性を侍らせ高い酒をガバガバと飲んでいた。
バブル時代でもやっていない下品にも程がある楽しみ方だ。こういうのが好きって人もいるけど、三次元のチャンネーにあまり興味がない俺っちは趣味じゃないねぇ。
「それでは羅一星大統領の誕生を祝して~カンパーイ!」
「「ウォーイッ!」」
お、ターゲット発見。
いろいろ見てみたいけどひとまずあいつを注視しよう。
羅鋼兵団総統にして、つい最近中華人民共和国の大統領となった羅一星を。
「売れないアイドルから枕営業に明け暮れて……キモ親父をぶっ殺して……このたび私は遂に天下を取りましたァ!」
「「ウォイ、ウォイ、ウォイッ!」」
有頂天で叫ぶ羅一星に合の手を入れる取り巻きは最早反社の太鼓持ちだ。軍服を着ていなければこいつらが軍人だとは思えないだろう。
「あんたが大臣、お前も大臣、あんたも大臣、てめぇはカス! これでブスでも買いなさい!」
「ありがとうございまぁす!!」
ついでに酒に酔った勢いで国家を担うメンバーが選ばれ、羅一星は札束をばら撒き配下の人間に金を拾わせた。リアルで札束シャワーなんて久しぶりに見たよ。
元々売れない芸能人だった羅一星はお偉いさんの妾の一人に過ぎなかったが、搾取され続けた悲劇のヒロインからカリスマ的指導者になったという経歴は英雄を求める民衆にとって最高の設定となった。
たとえ背後に権力を奪い取りたかった別の支配者がいたとしても、何も知らない民衆や利権が欲しい支配者にとってはどうでもいいのだろう。
羅一星は権力を持ってから変わってしまったと言う人間もいるが俺っちはそうは思わない。
決して満たされる事のない飽くなき欲望を持ち、のし上がるためなら泥でも啜り続けた彼女の本質は最初から何も変わっておらず、勝手に周囲が悲劇のヒロインとしての幻想を抱いていたに過ぎないのだ。
「私ってばマジで最強! 今日は私の奢りよ! 連合軍の財布からいくらでも出すからじゃんじゃん高い酒を飲みなさい!」
「姐姐、あざっす!」
なんだかんだで他人の金で飲む酒が一番美味い。それは同じくダメ人間な俺っちも激しく同意する。
けれど自分たちの血税が戦地でこんな馬鹿げた使い道をされていると知られたら、連合軍への信頼は一瞬で地に堕ちてしまうだろう。
「ほらほらあんたも! 一気飲みしたらこいつのおっぱい揉んでいいわよ!」
「マジですか!? じゃ福元知弘、飲みま~す!」
「「ウォーイッ!」」
ついでにメディア界の重鎮である福元知弘が半裸の女性を侍らせてはしゃいでいる姿を見ればなおの事だろう。子持ちでいい歳をしているのにお盛んな事で。
しかし身内に甘い連中は決して報じる事はない。大物ジャーナリストの福元知弘の信頼の失墜はメディアの信頼の失墜と同義だからだ。
「飲みました~! おっぱいいきま~す!」
「いや~ん!」
もっとも今時マスゴミを信頼している奴がいるかって話だけども。しかしいくら接待とはいえ羽目を外し過ぎではなかろうか。
「うーん、お姉ちゃんもいいけど、私はむしろ君を抱きたいなあ。ボーイはいくらで買えるんだい?」
「え? わ、私ですか?」
同席していた連合軍の士官は酒を運んでいた黒服に絡んだ。
たくましい黒服はお世辞にもイケメンとは言えないが、確かに二丁目で人気が出そうなゴリマッチョな見た目だ。
「うわー、節操ないわー。白人なら大人しくロリとかにしておきなって」
「バイセクシャルの白人だっているんだよ。折角だし羅大統領も一緒に楽しむかい?」
「ごめん、私イケメンで高学歴で高収入じゃないと無理。てめーみたいな下の下のド底辺のゴミに抱かれるわけねーだろ! ギャハハハ!」
「おっと、つれないなあ」
羅一星は下品な男に下品な返しをしてグラスの中の酒をかけた。
モラルもコンプライアンスも崩壊しているが楽しんではいるらしい。
羅鋼兵団の幹部を一言で言えば、権力が欲しいだけのジジイや意識高い系ボンボンの集まりだ。
理念や言葉は素晴らしくとも身分の低い人間はゴミ扱いで相手にもせず、彼等が作る理想郷にはそうした人間はいない。
実際に最前線で戦うのは貧困や社会的地位の低さから兵士にならざるを得なかった人間であり、連中はこうして安全な場所で飲み食いしているというわけである。
「さあ、お待ちかねの龍血晶よ~! 今日はお祝いだから混ざり物じゃなくて飛び切りの上物を用意してあげたわよ!」
退廃的な宴会は続き、羅一星は黒服に赤い結晶の様なものを高そうな香炉に入れて持って来させる。
別の世界ではネクロムと呼ばれていたが、これに龍血晶なんて名前を付けるだなんて言いセンスをしてやがる。
「ウヒョー!」
お察しの通り法治国家ならもちろんアウトなおクスリだけれど、闇の世界にどっぷり染まった彼等にとっては目の色を変えてしまう逸品だ。
「たまらん……たまらん……ほおぉーん!」
彼等は食い入るように香炉を眺め、龍血晶から静かに湧き出る赤い煙を思う存分吸引し、恍惚の表情を浮かべ全身を弛緩させた。
赤い煙は次第に宴会場に充満しその場にいる全員に快楽がもたらされる。
龍血晶にはそういう効果もあったらしく、中には老若男女関係なくイチャイチャしている奴もいた。
「しゅご~い! こんなの初めて~! 早く来て~!」
「なんてエロくて美味そうなババアだぁ! いただきまーす!」
「汚ぇケツですまねぇなァ。それでも良ければ存分に召し上がってくれ」
「イエッサー! 主砲発射~! ウッホウッホウッホ!」
宴会場はクスリをキメた連中で溢れかえって思う存分愛を語り合ったが、その乱痴気騒ぎは端的に言って地獄絵図だった。
確かに神様じゃなくても核兵器で滅ぼしたくなる程醜悪な光景だ。
成程、ソドムとゴモラはここに存在していたのか。
「もっ、ぼぎゃお、うびょぼっぼっ!」
しばらくして士官が侍らせていた女性が痙攣し床を転がり失禁してしまう。
どうやら副作用で体調に異変が起きてしまったらしい。
「うほっ! いただきまーす!」
そしてその様子を見ていた若い将校がすかさず立ち上がり、女性を助けるかと思いきや猛烈な勢いで濡れた床を舐めまわした。
「うわっうわっキモォー!」
性癖をこじらせた将校の奇行に流石の羅一星もドン引きしてしまう。
これならばまだ無理矢理犯した方が理解出来るだけマシだったかもしれない。
「この女どうします? もう使い物になりませんよ」
「その辺に捨てておけば? 誰かが持って帰るでしょ」
死にかけた女性は治療を施される事もなく、吐瀉物を片付ける様に黒服達によって退場させられる。
「でも次はもっとレベルの高い女にしてくださいよ、羅様~」
「あはは、黙れよ野鶏大学の分際で。FランにはFランの女しか無理だっての」
野鶏大学とは入試詐欺等に用いられる偽物の大学の事を指すが、下品に笑う羅はコンプラに厳しいご時世では確実に問題になる言葉で罵倒した。
貧困層が多い連合軍の兵士には学歴の無い人間も珍しくないが、トップがこんな発言をしていると知ってしまえば戦う気を無くしてしまうだろう。
「ちなみに中卒の俺には?」
「その辺の野良犬とか? あんたみたいなのは入れられる穴があれば何でもいいでしょ、ギャハハ!」
「もう、羅様~!」
けれど部下は徹底的に媚びへつらい機嫌を取った。あるいはもうプライドなんてものはもう存在していないのかもしれない。
本来ならば何もしていないのに何かをしている気になっていただけの彼女達は、三千年の歴史を持つ中国のトップになるような人間ではなかった。
半グレ同然の羅鋼兵団は戦争がなければ一花咲かせる事も出来ずに消え去っていただろう。
連合軍が目先の利益だけを考え、強引に戦争を終わらせようと考えなければ枕営業に明け暮れる底辺アイドルに過ぎなかった羅一星が大統領になる事もなかったのだろう。
結局羅一星も羅鋼兵団も戦争と民衆によって生み出された怪物なのだ。
そう遠くないうちに彼女達が世界に害を為す事になるのだろうけど、それは結局のところ戦争を望んだ彼等の責任に違いない。




