5-14 絶望と共に飲む酒の旨さ
噛ませ犬の不審者に尾行された後、無事(?)怪しい連中の車に乗り込んだ俺っちは悪い大人達とドライブを楽しんだ。
「助けてくれてありがとうね、お姉さんっ!」
「ええ、もう大丈夫だからね」
このままネタバラシをしてもいいけど取りあえずにぱぁ、と素敵な笑顔で感謝する。我ながらキショイ演技に寒気がするよ。
「でもお姉さん、私がお酒を買ったあたりからずっと様子をうかがっていたよね?」
「は? 何言ってんの?」
最初に俺っちがそう指摘をすると優しそうな笑みを浮かべていた中年女性は豹変してしまう。うんうん、もうちょっとからかってみようか。
「やっぱりこういう時外国人に話しかけられると怖いからね。だから同じ日本人で、なおかつ警戒されない女の人に話しかけさせて連れ去ろうとしたんだね。海外旅行で巻き込まれがちな強盗と似た感じのドテンプレな手口だね!」
「っ」
それは純粋無垢な少女が告げるはずのない言葉であり、全てを見抜かれていた事に気付いた中年女性は絶句してしまった。
「なんだ、知っててわざと捕まったのか」
しばらくして運転手の男がハッ、と鼻で笑う。きっともう隠す必要もないと考えたからだろう。
「うん。あとこのキャラ面倒だから元に戻すよ。お前さんもタバコを吸っていいからさぁ。警戒させないために子供がいる時はタバコを吸わない様にしているのかな」
「すげぇ洞察力だな。だが知ってて拉致られただなんて金が欲しい口か」
運転手の男は感心しながらタバコを取り出して煙を燻らせる。ここまでニオイが車内に染みついていれば誰でも気付くけどねぇ。
「お金とかじゃないかなぁ。強いて言うなら暇を持て余した神々の遊び?」
「なんだそりゃ。クスリでもキメてんのか?」
「若い頃に官憲と喧嘩して怪我をした時に性欲を持て余す奴は使った事があるけど、娯楽目的のクスリはまだやった事は無いねぇ」
俺っちは正直に理由を説明したけど、運転手には全く意味が理解出来なかったらしくあらぬ誤解を生んでしまう。取りあえず変わり者だと認識されたのは間違いない。
「ふぅん。つっても実際金が欲しい女はいくらでもいるし、そっちが乗り気なら別にどうでもいい。大体は皆病気持ちだがそこは大丈夫だよな」
「γ-GTPは保証出来ないかなぁ」
「オッサンかよ」
アル中のあるあるネタに運転手の男はゲラゲラと笑った。実際は肝機能なんて超速再生のパッシブスキルでどうとでも出来るんだけどねぇ。
「残念だが美味しい思いが出来るとは思わない方がいいぜ。せいぜいまともな客に巡り合えるといいな」
そもそも拉致った幼女とヤる時点でまともではない気もするけど、そんな事を言うのは野暮ってものだろう。
まともではない客――それはヤクキメやグロ系を所望する顧客だろうか。
そういうのは都市伝説ではありがちだけど流石に少数派だし、壊してしまえば儲からないから普通はあまりしない。
少なくとも商品になるうちは、だけど。
歳をとって稼げなくなった風俗嬢が割に合わない仕事をせざるを得なくなる様に、何らかの理由で商品価値が無くなればいずれはそうなるのだろう。
「にゅふふ、そうだねぇ。凄く楽しみだよぉ。あ、酒飲む? 今日の記念すべき出会いにカンパーイ~」
「お前マジで狂ってやがるな」
全くもってクレイジーで面白い。俺っちは面白い話を聞かせてくれたお礼に密造酒をプレゼントした。
「メチルアルコールが入ってるけどいい?」
「構わねぇよ。どうせもうほとんど見えねぇし、エイズ持ちだから健康なんて今更だ」
運転手は嬉しそうに酒を受け取ってグビリと飲んだ。飲酒運転だけどそれ以前の問題なのでその辺は気にしないでいいだろう。
「そっかあ。余命はどのくらい?」
「ここにいる奴は放射能やらクスリやら性病やらで全員明日の命もわからねぇ奴等ばかりさ。早ければ明日にでも、長くても三か月くらいだろ」
「ふぅん。ならこれもおまけしよう」
身の上話を聞いた俺っちはお手製のどぶろくをこっそりアイテムボックスから取り出してプレゼントした。
「アル中の理科系が本気で作った奴だから市販品より遥かに上等だよぉ」
「……変な奴だな。口利きとかは出来ねぇぞ」
「いいのいいの、クソッタレな人生の最期に乾杯してやりな」
「フッ、そうか」
運転手の男は意外な申し出に面を食らってしまったが、遠慮なく直接瓶に口を付けて酒を飲みふぅ、と息を吐いた。
「……うめぇな」
五臓六腑にアルコールが染みわたった男は恍惚の表情になり、半分ほど飲んだ所で彼は俺っちに酒を突き返した。
「残りはお前が飲め」
「ありがとうねぇ」
それはきっと悪党の彼なりの感謝の気持ちだったのだろう。
それが最期に与えた優しさならば、理解は出来ずとも責任を持って想いを受け取らなければならない。
微かに麻薬とタバコの香りが移ったどぶろくは混沌とした風味になり、より一層極上の味わいを醸し出した。
まったく、絶望と飲む酒はどうしてこんなに旨いのだろう。




