5-13 悪鬼悪霊が跋扈する悪徳の街
酒を飲みながら混沌とした歓楽街をブラついていた俺っちは、続いて下着同然の姿で客引きをしている姉ちゃん達を適当に観察した。
飲む打つ買うの三拍子は大人の遊びの基本だけど、ここでは(クスリを)飲む、(クスリを)打つ、(クスリをキメた)女を買うのが基本の娯楽らしい。
「いらっしゃ~い! バビロォン御開帳ォ!」
とある風俗嬢は店先で品のないパフォーマンスをして呼び込みをしていたけど、どういう事をしているかはご想像にお任せしよう。
風俗店には若い女もいるけれど、彼女の様にやや違和感のあるハスキーボイスで客引きをしている女性も多くいた。
ホルモン注射と整形で女性以上の美しさを手に入れた様だけど、元々の性別はへその位置でわかるんだよね。
つってもへそが見える状況なんて限られているし、その時には多分もう逃げられないんだろうけど。
「おーう、また来たぜ~!」
「あらぁ! 嬉しいわぁ~!」
陽気なパフォーマンスをしていたトランスジェンダーの風俗嬢は人気があったのか、連合軍の兵士と一緒に店の中に入っていく。
おそらく小汚い店の二階でそういう事をするのだろうが、割り切れる人間にとっては住めば都らしい。
ちらりと見えた彼女の腕には無数の注射痕があったがそれも気にしないでおこう。
「……………」
「ん」
別の場所では紳士らしき初老の男性が小学生くらいの少女と何かのやり取りをし、そのまま汚れたトイレの中に入っていった。
こちらもどういう事をするのかはご想像にお任せしよう。
この類の人間は向こうでは忌み嫌われるが、こちらでは生きるために必要なお金をくれる親切な紳士と捉えられている様だ。
生きる術を持たない彼等は上辺だけの愛の言葉や、有難い宗教の理想論では救えない。
ここにいる人間に素晴らしい未来を説いても聞く耳を持たない。
彼等が求めているのは今日食べるパンを買うための目先の金だからだ。
けれど理想論だけを語る奴等がわずかばかりの金を手放すわけがない。
奴等は同じ思想を持つ仲間同士で金を奪い合っているというのに、ましてや全く興味がない遠いどこかの国の子供に分け与えるはずがないだろう。
混沌とした街の人間は二極化される。
享楽を楽しんでいる人と、地獄の様な世界に絶望している人だ。
危険なもの、理解出来ない、異質なもの、不必要なもの――様々な理由でコミュニティを迫害されて追い出された人々にとって、ここは歪だとしても確かに楽園なのだろう。
上辺だけのポリコレや多様性は所詮見えなくするだけだ。
彼等は見たくない物を見えなくするだけで絶望する人を救うつもりなんて一切無い。
もしも戦争が生み出したこの悲惨な光景を報道したとしても、連中は子供に見せたくないだの人権侵害だの女性蔑視だと言って真実を消し去るのだろう。この悪鬼悪霊が跋扈する街を作り出したのは他ならぬ彼等だというのに。
人々は共感出来れば適当な理屈で救いの手を差し伸べる。けれどそれが出来なければやはりソドムとゴモラの様に断罪して消し去ってしまう。
結局共感出来るかどうかの違いは主観に過ぎない。
それにここにいる人間は誰も彼も壊れてしまい、救済を望んでいないので余計なお世話なのだろう。
「……………」
(ふむ……)
しかしやはり可愛らしい幼女がこんな場所にいると目立ってしまう。
人間の目をしていない男は遠巻きに俺っちを凝視し一定の距離を保ちながら尾行していた。
おそらく頃合いを見計らって良からぬ事をするつもりなのだろう。
別に俺っちなら余裕で返り討ちに出来るけどどうするか。折角だし上手く利用したほうがいいかもしれない。
「そわそわ」
俺っちは天才子役モードになり不安げな幼女を演じる。
エロゲの都合のいい美少女をイメージして、とにかく全力で美味しそうな餌になって庇護欲を掻き立てるのだ。
……お、食いついた。
それっぽいネームプレートをつけた中年女性は俺っちをロックオンして小走りで近寄って来る。
「こんにちは」
「……おねーさん、だぁれ?」
おねーさんという年齢ではないけれど俺っちは瞳を潤ませ媚びた声を出す。中身がオッサンだとは誰も気付くまい、ククッ。
「良かった、言葉が通じたわね。私はNGO団体の職員で困っている子供や女の人を保護しているの」
中年女性は優しい声で自己紹介をしてネームプレートを見せ、尾行していた怪しい男を見て俺っちに告げた。
「後ろを見ないで。悪い人があなたを狙ってるから。とにかくこっちにいらっしゃい」
「う、うん」
うん、確かに悪い人が狙っているのは間違いない。
それはあの不審者だけではないのだけど。
俺っちも気弱な少女っぽい演技を続け、彼女の関係者のものであろうバンに乗り込むと、素早く扉が閉められロックされた。
作戦が成功した俺っちと女性は互いに悪い笑みを浮かべる。考えている事は全く違っていてもその意味合いは大体同じなのだろう。




