5-11 夢と希望に溢れた楽園、大陸の復興支援地域の真実
のんびり飛んで十数分、俺っちは本編を進める為にアジア地域に展開されている連合軍の拠点の上空にやって来た。
元々この辺は中国でも屈指の工業が盛んな地域だったものの、現在は戦争仕様に作り替えられそこかしこで軍需物資を作っていた。
だが毎度の事ながら空気が淀んで息苦しくて仕方がない。毒に耐性がある俺っちでなければ死んでいるだろう。
ちょっと前の中国もまあまあ深刻だったけど、当時とは比較にならない程大気汚染が進行している。
これは言うまでもなく戦争の諸々に由来するものだけど、もちろん核によって汚染された大気は偏西風に乗って日本に直で流れてきている。
遠くの国ではなくご近所で核を使えばそらそうなるけど、核ミサイルでぶっ潰せー、みたいな威勢のいい事を言ってた奴はどの程度その辺の事を理解していたのだろうか。
食糧プラントがあったからまだなんとかなっているものの、そう遠くないうちに人体が許容出来る量を超え、核によって汚染された自然の物は食べられなくなるだろう。
だが食糧に乏しい大陸では食べる以外に選択肢はなく、復興支援に駆り出された人間も連合軍の兵隊も全員被爆して重大な健康被害をもたらしている。
さて、これが人類にどのような未来をもたらす事やら。取りあえず少子化に拍車がかかる事は間違いない。
まあそんな事はぶっちゃけどうでもいいので、俺っちは眼球とまれっちイヤーの倍率をいじって周辺の様子を観察する。
地上では復興支援という名目で動員された人々が汚染された畑を耕し少しでも多くの食糧を得ようとしていた。
『ええい、こんなのやってられるか!』
機械なんてハイテクなものは使えないので基本農作業は人力であり、疲れ果てたジジイはクワを放り投げ脱走する。
『おいコラクソジジイ! ぶっ殺すぞ!』
『うるさい! 何が楽園だ、何が英雄だ! 奴隷としてこき使いやがって! 俺はこんな所にいる人間じゃねぇんだよッ!』
が、当然すぐに見張りの警備員に捕まり顔面に一発食らってしまう。だがジジイはなおも反抗的な態度を取り警備員に唾を吐きかけた。
『テメッ、クソがッ! 身の程をわきまえろクソザルがッ!』
『ああぁあッ!?』
しかし返り討ちにされたジジイは放り投げられ、激怒した警備員は怒りに任せ両膝にクワを振り下ろしてしまう。
『そうだな、クソったれなテメェにはこっちのほうがお似合いだボケッ!』
『や、やめっ……!』
侮辱された警備員はそれでもなお怒りが収まらず、痛みで悶絶するジジイを担ぎ上げそのまま肥溜めに移動し放り投げてしまった。
『ごめんなさい、ごめんなさっ……ごふゅ!』
汚物まみれになったジジイはプライドを捨てて手を伸ばして必死に助かろうとするが、やがて力尽きて肥溜めの底に沈んでいった。
作業をしていた労働者は一瞬動揺していたが、またすぐにクワを振り下ろし何事もなかったかの様に農作業を続けた。
なかなかショッキングだったけど彼等にとっては日常の光景だったらしい。
人が死んだくらいでいちいち手を止めている余裕なんてないのだろう。
次に観察した軍需工場エリアでは弾薬らしきものを作っていたが見るからに質が悪そうだ。
ハイテク兵器はとっくに底をついてしまったので、素人をかき集めて有り合わせの材料で作る事しか出来ないのだろう。
身を護る道具は百均で売っていそうなボロボロの軍手だけで、眼球を護る為のゴーグルすらつけていない。
当然そんな工場では安全管理なんて概念は存在していない訳で――。
『あああ!?』
作業の途中、火薬に引火したのか何かが破裂し労働者の女性の顔は血まみれになってしまう。
半分千切れた右手の親指と人差し指は切り分けられる前のソーセージの様になり、眼球の辺りにも無数の破片が突き刺さっているので確実に失明しているだろう。
『痛い、痛い、痛いィイイッ!?』
『ったく、何やってんだよババア! ライン止めてんじゃねぇよ!』
やはりこちらも誰にも心配されず、暴言を吐く監視員によって壊れたパーツを交換する様に労働者の女性は放り出されてしまった。
復興支援地域は常に人手不足なので職に困る事はない。特需によって儲かっている人間もいるに違いない。それは確かに事実なのだろう。
けれど実態はこのザマだ。
兵士として戦わずとも、奴隷同然の扱いを受けると知っていれば彼等は大陸に渡る事を選択しなかったはずだ。
ただこっちのほうはディストピアとはいえ秩序が存在するだけまだマシかもしれない。メインはやっぱり歓楽街エリアだろうねぇ。
俺っちはどこかワクワクしながら連合軍に気付かれない様に地上に降り立つ。
さあて、クズ以下の人間連中はどんな醜悪な混沌を見せてくれるのかな。




