5-5 異界に繋がるしのさき駅
ネーデルラントエリアから一駅ほど歩き、俺っちはしのさき駅という無人駅を訪れていた。
光と闇の世界が交錯し空は黄昏に染まり、二つの世界の境は曖昧になる。
鮮やかな駅のステンドグラスは赤黒く発光しており、人が足を踏み入れてはいけない事を警告していた。
もっとも視覚情報に頼らずとも、真っ当な精神をしていればこの駅に近付こうとは思わないだろう。
ここには得体の知れない『何か』が存在する。
人知の及ばない、けれど禍々しいモノであるという事だけは理解出来てしまう『何か』が。
線路というものは往々にして龍脈に沿って作られるものなので、怪談や都市伝説の舞台に選ばれるのも何ら不思議ではない。
駅の構内に足を踏み入れると、ぞわっ、と寒気を感じる。
常人はここでビビりそうなものだが人生経験の長い俺っちからすれば気に留める様なものではない。
無人駅のホームには誰もいない。
この寂れ具合は鉄道マニアにはたまらないかもしれないけど、俺っちはそこまでじゃないから待ちの時間が暇で仕方がない。
こういう時はやはり酒を飲むに限る。口寂しくなった俺っちはワンカップを飲み喉を潤した。
いい感じに酔えば異世界転生もしやすくなるってものだろう。それはただの酔っぱらいの幻覚なのかも知れないけれど。
『ゲラゲラ』
不意に視線を感じたので線路を見下ろすと、長い舌を持つ妖鬼アカネブリが憎たらしい笑みを浮かべており、口内にある眼球を動かして俺っちを凝視していた。
「……………」
その笑顔に反吐が出そうになった俺っちは飲み終えたワンカップを勢いよく放り投げた。
それはやはり幻影だったらしく、ワンカップをぶつけられたアカネブリは霧散して消滅してしまう。
微かにかき乱された心を静めると、どこからともなくガタンゴトンという走行音が聞こえてきた。
走行音は次第に接近し、本来この世界に存在するはずのない純白の電車がホームにゆっくりと停車した。
貸し切りならもう少し快適だったがどうやら今回は他に乗客がいる様だ。乗車した俺っちは適当な座席に座り背もたれに体を預けた。
乗客は特段異質な見た目をしているというわけではない。
こういう場合都市伝説では昔の服装だったり土気色の顔だったりするがごくごく普通の現代人だ。
しかし椅子に座った乗客たちは皆一様に姿勢を正し、正面を向いて微動だにしておらず違和感しかなかった。
こういう時普通は眠っていたりスマホをいじっていたりするものだが、それは人間にしては少しばかり奇妙で、数だけ揃えてそれっぽくしたゲームの手抜きグラの様だった。
よくよく見れば乗客のグラは使いまわしているのか全く同じ顔で全く同じ服装の奴も多い。でもゲーム化する時には楽そうだねぇ。
いろいろやる事は山積みだけど、向こうの世界に行ったら何をするか。
最終的に大陸に向かうとして、その前にあれこれゾンビハザードが起きた九州各地の様子を探ってみるのもいいかもしれない。
あとは夢桜しばえもんの都市伝説が現実世界にどんな影響を及ぼしているのかも気になる。そちらについても調べてみよう。
「ん」
意識を電車の車内に戻すと、数合わせで集められていた乗客達はいつの間にか全員目を見開きこちらを見ていた。
無言の彼等は何を伝えるでもなく威圧感を与える様に異質な部外者を凝視している。
これが某動画サイトならば一斉に凝視する括弧と黒丸を使った顔文字が表示されていただろう。
「わかってるって。すぐに出ていくからこっち見んな」
どうやら人ならざる彼等ですら嫌われ者の俺っちを受け入れてくれない様だ。自分の犯した罪を考えれば当然ではあるけど。
世界は揺らぎ、二つの世界を繋げる電車は表裏一体のもう一つの世界に転移する。
脳味噌が揺れる感覚はアルコール摂取後には結構しんどい。
いろいろやっておくことはあるけど、まずは大陸のほうに向かおうかねぇ。




