5-4 九十九島と独りぼっちになった一里島の伝説
こっそりキンデルと海賊王ヒョウスベを仲間に引き入れた俺っちは、今日も今日とて我関せずを貫き港エリアで長崎の海と一里島を眺めながら赤星ビールを飲んでいた。
街のあちこちからトンテンカンと陽気な作業音が聞こえ、戦いは一旦お休みになりムゲンパレスの復興作業に専念している。
人口が増えた事で必要な諸々を揃える必要があり、更にはアニメの制作スタジオも作るそうだ。
人出は足りているので俺っちが何かをする必要はないだろう。今は閑話休題、幕間という奴だね。
ううむ。暇だねぇ。こういう日はビールを飲むのに限るよ。
「まれっちだー」
のんびりしているとマタベエがぽてちてと現れ絡んでくる。
絡みがあるようでないけど、そこそこ仲はいいのでこいつにとって俺っちは親戚のおっちゃんの様な感じなのだろう。
「うぃ。まめぼっくり食べる?」
「ありがとー」
こいつが絡んでくる理由は大体つまみ目当てだ。
俺っちは取りあえず奄美大島土産のまめぼっくりを与えるとマタベエは嬉しそうにポリポリと食んだ。
まめぼっくりは一度手を伸ばしたらなかなか止まらない。
特産の黒糖で固めたピーナッツは酒のつまみとしても食べられるが、やはり普通に豆菓子として食べたほうが美味しいだろう。
「まれっちはみんなといっしょにいないの?」
「オジサンはね、独りぼっちでお酒を飲む方が好きなのさ。若い子とは話も合わないからね」
「そっかー」
純粋無垢なマタベエには俺っちの想いを理解する事が出来なかっただろう。それでも彼は何かを感じ取ったのか、何も言わずそっと隣にちょこんと座った。
「ひとりぼっちでさびしくないの?」
「もう慣れたよ」
「そっかー」
マタベエは会話を投げかけるも俺っちは特に気にせずビールを飲み続ける。
ううむ、キノコながらにオッサンに気を使っているのがわかる。気まずいし何かしらの気の利いた事を言うべきだろうか。
「目の前のあの島は一里島っていうんだけどさ。ちょっとした昔話があるんだよね」
「どんなおはなし?」
そこまで面白い話ではないが話を振るとマタベエは興味深そうに食いついた。こういう好奇心旺盛な子供は嫌いじゃないよ。
「昔々、島々が目の前の葉瀬帆湾に集まって楽しい宴会を開いたそうだ。けれど宴会が行われるのは夜の間だけで、日が昇ってしまえば元の場所に戻れなくなってしまう。リーダー格の島は若い弁天島にそうきつく注意した」
別の世界で佐世保という場所に伝わる一里島と九十九島の伝説は葉瀬帆にもそのまま残っている。
しかしよりにもよって弁天という名前をつけるとは先人もなかなか憎い事をするものだ。
「だけど弁天島は特に気にせず酒をガバガバ飲んで眠っちゃったのさ。島々は懸命に起こそうとしたけど、目が覚める事はなく夜明けは刻一刻と迫っていた」
「それでべんてんじまはどうなっちゃったの? ちゃんとおうちにかえれたの?」
「いいや。結局どうやっても起きなかったから皆は元の場所に急いで戻って、弁天島が目を覚ました時にはもう夜が明けちゃって葉瀬帆湾に取り残されちゃったのさ」
多少ファンタジックではあるが、ざっくばらんに言えば酒を飲み過ぎてやらかしたというエピソードだ。アル中にとってはなんとも身につまされる昔話である。
「そいでもって百あった島が一つ無くなったからこの辺の島々は九十九島って呼ばれる様になって、あの島は丁度一里くらいの距離にあったから一里島と呼ばれる様になったって感じだね」
「ほへー。そうなんだー」
この昔話は特徴的な地形をそれっぽく準えたよくある民間伝承に過ぎない。
けれどマタベエは一里島に感情移入してしまい、取り残された一里島を切なげに見つめた。
「まれっちとおんなじだね。おさけをのんでしっぱいするなんて」
「はは、確かにそうだねぇ。俺っちもお酒を飲んで何度も失敗しちゃったよ。俺っちほど酒で盛大にやらかした奴もいないだろうねぇ。飲み潰れて置いてけぼりとか俺っちに言わせれば序の口だよ」
こんな俺っちでも何度か断酒しようとはしたがその度に失敗し、周りから人がいなくなっていった。
そう考えれば一里島のやらかしはまだ可愛い方だろう。
「……ホント、わかっちゃいるんだけどねぇ。やめられなかったんだよねぇ」
「?」
俺っちが何を言っているのかマタベエには何もわからなかっただろう。それは遠い世界の罪であり誰も知る術などなかったからだ。
けれど理解される必要なんてない。
この罪は自分だけで償うしかない。
だが禁忌を犯した代償はあまりにも大きすぎた。
一体俺っちはいつになったら赦されるのだろう。
「……さてと、サボってないで俺っちも働くか。ホレ、これやるよ」
「うん……」
俺っちはマタベエにまめぼっくりの袋を押し付けて休憩を終える。
第二部が始まる前に、英雄と魔王を導くフィクサーとして暗躍しないとねぇ。




