4-203 凪の海に還っていく魂
ニライカナイでの戦いが集結し、最期に残ったロボット兵器は地を這いながら海へと向かった。
その行為に意味はない。
けれど彼は最期に愛した沖縄の海を見たいと願ったのだ。
『……………』
安仁屋清河の記憶を宿したロボット兵器はようやく浜辺に辿り着く。
そこにはマジムン達がいたが、突然現れた怪物に慌てて逃げ出してしまった。
『驚かせてすまないね……だが最期の我が儘なので大目に見てくれるかな……』
彼等には悪い事をしてしまったなと思いつつ、安仁屋清河は凪の広がる海を眼にしっかりと焼き付け世界から静かに消え去ろうとした。
「バナナ!」
「フガ!」
『む……?』
だがしばらくして逃げたはずのマジムンや白いガブリン達が群がり、果物や薬草を持って戻って来てしまう。
彼等は一生懸命機械の肉体を持つ安仁屋清河に食べさせようとしたが、当然何も出来ずしょんぼりしてしまった。
「けがしてるー」
「ぽふぽふするのー」
『……ありがとう。だがもういいんだ』
マタンゴさん達も不安げに痛み止めのキノコ胞子を振りまく。
安仁屋清河は彼等が自分を助けようとしているのだと察し、暖かな気持ちで満たされてしまった。
『そうか。私は沖縄を……この凪の海を護れたのだな……』
贖罪のために戦い続けた安仁屋清河は、黄昏に照らされた彼等の温もりによってようやく永遠の苦しみから解放された。
「フガ! フガ!」
『お前もまた会いに来てくれたのだな。だがもういい。これからは私ではなくあの子を護ってやってくれ』
彼はわずかに残った力を振り絞り、無骨な鋼の手でかつて共に苦難を生き抜いた愛犬にそうした様に優しく白いガブリンの頭を撫でる。
不安げな白いガブリンは切なそうに鳴いていたが、次第に彼の想いを受け入れ大人しくなってしまった。
『悲しむ事はない。私はただあの場所に還るだけだ……凪の海に……こんな私のために……ありがとう……』
万感の想いで全てを受け入れた時、どこからともなくマジムン達の歌声が聞こえた。
そしてそれは図らずも、永遠の眠りにつく亡国の罪深き王への弔いの子守歌となった。
昔ぬ話よキジムナー
――昔の話だよキジムナー
石ぬ森ぬ王あてぃてぃ
――石の森の王がいてさ
国を追わってぃ罪を負い
――国を追われて罪を負い
クルガネザーシーに姿変い
――黒金座主に姿変え
みぐいみぐいゆる時ぬ中
――巡り巡る時の中
クルガネザーシーや王あてぃてぃ
――黒金座主という王がいて
島ぬいりばやにうたれいてぃ
――島の勇者に討たれてさ
罪ぬ報いや逃ぎりらむ
――罪の報いからは逃げられず
ミミキリボンズにまた戻い
――耳切坊主にまた戻り
みぐいみぐいゆる時ぬ中
――巡り巡る時の中
龍や夢ぬ彼方までぃ
――龍や夢の彼方まで
八百マジムン懲らしめり
――八百のマジムンが懲らしめて
罪ぬ償い島ぬたみ
――罪を償い島のため
守い神あてぃ地を固み
――守り神となり地を固め
萬ぬ事どぅ海ぬ知い
――全てを知るのは海だけ
萬ぬ事どぅ玉菜知い
――全てを知るのは玉菜だけ
龍ぬ王がん夢ぬ中
――龍の王は夢の中
ニライカナイに語り継がれる子守唄をマジムン達は意味も分からず楽しげに歌い続ける。
無垢な彼等は安仁屋清河という男が沖縄で、そして我那覇ゴードンがかつてナリー・キンデルと呼ばれていた時にナジムの地で何度も繰り返した過ちを何も知らないのだろう。
幾度となく転生を繰り返しても結局何変わらず永遠に繰り返すだけだった。
全てを忘れた自分は結局次の世界でも同じ過ちを繰り返してしまうのだろう。
最早自分は輪廻の運命から逃れられる事は出来ない。
けれど自らを討ち果たした勇者ならば滅びの運命を変えられるかもしれない。
ならばここは未来ある若者に賭けて見るのも一興だろう。
稀代の暗君と謗られ、世界に終末をもたらした安仁屋清河は人生の最期にようやくただ一人の沖縄人に戻る。
全てに満たされた彼の魂は、黄金に輝く悠久のニライカナイの海に還っていった。




