4-202 黄昏に染まるニライカナイの凪の海
その後もあくせく働き無心で戦後処理を続けくたくたになるまで肉体を酷使し、疲れ果てた俺は星桜リュウグウリゾート跡地のビーチでぼんやりと夕日を眺めていた。
地上の楽園と呼ばれ栄華を誇った星桜リュウグウリゾートは夢の跡。
沖合には戦艦が沈んでおり、マップ機能で覗くとサンゴやイソギンチャクで彩られ熱帯魚の棲み処になっていた。
魚の棲み処にするために電車とかを沈めるというのは聞いた事があるが、これほどまでに絶望と希望が混在する美しいサンゴ礁を見た事がない。
朽ち果てた文明と暴力の象徴は長い年月を経て地球の一部となっていた。
その光景は世界にとっては人間が何をしようが全くもってどうでもいいのだという事を、否が応でも理解させてしまう。
「お疲れ様。はい、ヤシガニ」
「ああ」
俺は隣に座ったヒカリからヤシガニを受け取った。
ヤシガニはずしりと重く、のそのそと動いて逃げ出そうとしていた。
「ひょぉおわ!?」
「どうしたの、変な声出して」
しばらくして俺はあまりの衝撃に奇声を上げた。
だけど海を眺めている時に突然こんなデカいヤシガニを渡したら人間は誰でもこうなってしまうだろう。
「こんなしんみりしたムードで活きがいいヤシガニを渡すなッ!? ヤシガニも困ってるだろ!」
「ヤシガニ美味しいよ? 沖縄じゃ高級食材だよ?」
「そういう問題じゃなくてなあ……ったく」
ヒカリは何を言っているのと言わんばかりにポカンとした顔をしていた。
だけどこいつはこれが異常だと認識出来ないフロンティアスピリットウーマンだから仕方がない。
けれどそんなヒカリですらも黄昏に染まる水平線を眺め、その物悲しさに抗えず切なげな顔になってしまった。
「任務で向こうの世界の沖縄にやって来た時、街全体が軍事基地みたいになっててがっかりしちゃったけど……沖縄の海と空ってこんなに綺麗だったんだね」
「この希望も絶望も存在しない世界の美しさを知ってしまえば煩わしい事は何もかもどうでも良くなる。人間はいてもいなくても世界にとってはどうでもいいんだよ」
ヒカリにとってこの絶景は純粋に美しく感動するだけのものだったのだろう。
けれど滅びに魅了された俺にとっては違う意味合いを持っていた。
希望を失っていない彼女がその境地に至る事はまだないのだろうけど。
「……智樹は人間に絶望したんだね。私も向こうの世界でいろいろあったからなんとなくわかるかな」
「ならお前も戦う事を止めればいい。永遠に終わらないし疲れるだけだ」
「そうかもしれない。だけどそれでも私は世界を終わらせたくない。まだ運命に抗ってみたいんだ」
「そっか」
滅びに魅了された狂人の囁きがヒカリの心を変える事はなかった。
強い信念を持った彼女は決して戦いを終わらせる事が出来ず、ある意味では救いようがない存在なのかもしれない。
もしも彼女が絶望してしまえば、強い光が強い影を生み出してしまう様に勇者から魔王になるかもしれない。
出来ればそうなる前にどこかで諦めて欲しいものだ。
「我那覇総督もこの凪の海に魅了されたのかな。結局どこに行っちゃったんだろう……」
「さあなあ」
ニライカナイでの戦いは概ね終わらせたが唯一我那覇総督だけは見つからなかった。
最後まで出会う事すらなかったしやはりどこかのタイミングで死んでしまったのかもしれない。
何にせよニライカナイにあった遺産は回収し、核ミサイルも存在しない以上彼が何かをする事は無いだろう。
生きているにしても死んでいるにしても、もう我那覇総督には関わらないほうがいいかもしれない。
我那覇総督に想いを馳せながら海を眺めているとどこからか優しい調べが聞こえてくる。
これは確かリアンがカンカラ三線を奏でた時、マタベエが歌っていた曲だったか。
「あれ、この歌……」
「これか? なんかニライカナイに伝わる歌らしい。沖縄の言葉だから意味は全然分からないけど」
沖縄民謡の歌詞は沖縄人以外には理解出来ないけど、どことなく切ない歌だという事はわかった。
けれどヒカリにはその意味が分かってしまったらしく、ほろほろと静かに一滴の涙を流してしまった。
「……そっか。そういう事だったんだ」
「ヒカリ?」
彼女は何故涙を流してしまったのだろう。
この歌は何を伝えているのだろう。
だけど全てを知ってしまった彼女は、決して問いかけに答える事はなかったんだ。




