4-196 VS ザイオンを焼き尽くした魔龍 天龍リンドヴルム
本日は天気晴朗なれども波高し。
全てが始まったニライカナイの空は、人類の罪がもたらした因縁に終止符を打つ戦争には似つかわしくない程晴れ渡って美しかった。
かつて沖縄に鉄の雨が降り注ぎ多くの無辜の人が骸となった先の大戦でも、きっと空は同じ様に澄み切っていたのだろう。
世界は人間には微塵も関心がない。
この戦いの結末がどうなろうと群青の空は変わらず美しくあり続けるはずだ。
『うおりゃあッ!』
機神ウーラに搭乗して先行したリアンは空中で暴れまわる天龍リンドヴルムにハンドガンを乱射し怯ませた後、チャージショットを食らわせダメージを与える。
激高した天龍リンドヴルムは顎を大きく開けて鋭い牙でウーラを噛み砕こうとしたが、彼女はすかさずブレードの一閃を放ち返り討ちにした。
『これじゃあ倒せないか』
しかしそれは決定打にはならず、バランスを崩した天龍リンドヴルムは空高くに逃げ爆撃をする様に拡散ミサイルを放った。
「ここは俺がッ! 『狸囃子』ッ!」
制限があるので何度も使用は出来ないが、俺はすかさず『狸囃子』を発動して拡散ミサイルを制御不能にさせて迎撃した。
続けて火縄銃ランチャーで空を飛ぶ天龍リンドヴルムを攻撃するが、死にかけのため動きが不規則でなかなか狙いが定まらない。
シミュレーターでは戦闘機でも武装ヘリでもドローンでもいくらでも迎撃したが、こんな動きをする相手では訓練なんてあまり役に立たない。
それでも何発か命中させる事に成功し、そのうちの一発は急所の頭部に命中して天龍リンドヴルムは地上に落下してしまう。
『やったか!?』
「いや、まだだ!」
「グオオオオ!」
しかし天龍リンドヴルムはそれしきの攻撃では死ぬ事はなく、暴れまわって近くのロボット兵器や文明の残骸を捕食して回復してしまう。
「駄目だな。ダメージを与えてもすぐに回復しちまう。被害も増えるし一気にとどめを刺さないと」
幕末の志士を想起させるリアンの刀と拳銃の変則二刀流スタイルは攻めるのには向いているが、少しばかり火力不足は否めない。
また俺のヤオハチも基本的に搦め手で戦うタイプであり、特待生の俺だからなんとかなっているが純粋な戦闘能力では正直量産型の機神兵に勝てるかどうかも怪しい。
その点離脱したヒカリのワダツミは攻撃と耐久に全振りしたパワータイプなので、近接戦闘しか出来なくともステゴロと棍棒だけで倒せただろう。
彼女が戦えたならどうとでもなったがもしもの話をしても意味はない。しかしどうすればいいか攻めあぐねているとリアンが口を開いた。
『一撃必殺の強力な一撃をお見舞いすればいいんだな』
「そうだけど。策があるのか?」
『ある。だけどチャンスは一度しかないから外したらそれでおしまいだ。だから確実に当てられる様にしてくれ。出来るか?』
「出来るかどうかはわからんがやってみるッ!」
どうやらリアンには妙案があるらしい。
ウーラは戦闘能力だけならヤオハチを軽く凌駕しているし妥当な判断だ。俺は命運を彼女に託す事を即決した。
「リアンはハンドガンで適当に援護してくれッ! ただしチャージショットは撃つなッ!」
『あいよッ!』
俺は火縄銃ランチャーを撃ちながら天龍リンドヴルムに接近、相手の気を引きながら浮遊機雷を設置して逃げ続ける。
地味に威力が高い浮遊機雷はヤオハチにとって貴重な高火力武器だが、最大の利点は海上の機雷や地雷の様に敵の動きを封じられる事だ。
「『夢芝居』ッ!」
何より観測機器をハッキングして幻を見せる『夢芝居』と組み合わせればデコイとして相手を撹乱する事が出来る。
天龍リンドヴルムはいくつものヤオハチが出現して混乱しているに違いない。
天龍リンドヴルムは逃げていたヤオハチを本物と判断して闇雲に噛みつくが、浮遊機雷は口の中で爆発して下顎を吹き飛ばした。
だけどこれじゃ駄目だ。噛みつけなくてもこいつには様々な武器が存在する。
俺はありったけの浮遊機雷をばら撒き戦場を埋め尽くす。
これで移動は多少制限されたが、これでもまだ足りない。
「腹減りましたよね? たっぷりと食ってください!」
「グオオオオ!」
天龍リンドヴルムは回復をするため触手を伸ばし手当たり次第に捕食行動をしたが、そこには何もなかった。
霞を食べる様にいくら食べても回復する事はなく、天龍リンドヴルムは何も出来ないまま動きが止まってしまう。
「今だ、リアンッ!」
『了解ッ!』
だけど幻だと気付かれたら終わりだ。
この一撃を外せば敗北は確定する。やってくれ、リアンッ!
ウーラはブレードに焔を纏わせ、やがて焔は炎となり、その紅蓮の炎は世界を生み出す程の熱量を持つ物質へと変わった。
『行くぜェエエッ!』
ブレードは倍近い長さに変化し天地を創造した聖遺物の様な形になる。
彼女は捕食行動を行っている天龍リンドヴルムに狙いを定め、大きく振りかぶって燃え盛るブレードを放り投げた!
『天逆鉾ッ!』
かつて英雄が抜いたという伝説が残る神代の武器は、死に瀕した天龍リンドヴルムの身体を貫き全身を引き裂いて焼き尽くした。
愚かにも空に焦がれるという罪を犯した鍋島竜胆は、太陽の熱で翼が溶けて死んでしまったイカロスの様に海に沈んでいく。
全ての因縁を終わらせたその一撃は壮快であると同時に、どこか切なかった。
――だけど。
「グオオオオッッ!!」
「ッ!?」
『トモキ!?』
ほんの一瞬、ほんの一瞬油断したせいで俺は天龍リンドヴルムの最期の悪あがきに対処出来なかった。
怒り狂った天龍リンドヴルムは神話の怪物が英雄を呪い殺す様に泥の触手を伸ばしてヤオハチごと俺を取り込む。
けれどこれが儚い希望と願いを奪った代償だというのなら、俺はその罪を甘んじて受け入れるべきなのかもしれない。
……………。
………。
…。




