4-195 屍龍となる天龍リンドヴルム
――聖智樹の視点から――
「おおっとと!?」
天龍リンドヴルムと戦っていた俺はクルガネザーシーが放り投げられ空中で一回転するというあり得ない光景に驚愕した後、隕石でも落下したかのような激しい揺れによろめいてしまった。
再起不能のダメージを受けたクルガネザーシーはそれっきり動かなくなり、ヒカリが乗るワダツミも力を使い果たして行動不能になる。
『へへっ、あいつやりやがったな!』
「まったくだ。棍棒とステゴロでサタナエルだけじゃなくてクルガネザーシーまで撃破しやがった。もう正統派の化け物だな」
彼女の偉業は疲弊したリアンを鼓舞し、俺もまた親友が成し遂げた規格外の戦果に脱帽してしまう。
ロクな装備もなくたった一人で近代戦争の王者である機神兵を、それも総大将レベルの相手二名を短時間で撃破するというのは歴史に名が刻まれるレベルの勲功だ。
落ちこぼれだったヒカリが花形のNAROに就職して英雄的な行いをし、対して優等生の俺はお尋ね者になり搦め手で卑怯な戦い方に徹する。
別に戦争が嫌いな俺は戦場での勲功や栄誉なんてものには一切興味はないけど、すっかり真逆な立場になってしまったなあ、と妙な感慨を抱いてしまった。
『おーい、聞こえるー?』
「ノミコ! ヒカリは生きてるか!?」
『むにょす』
すぐにワダツミのナビ担当のノミコから状況が伝えられ、ヒカリは俺の問いかけにむにょす、と返事をした。
『もちろん。ただむにょすって感じになってもう戦うのは無理っぽいから後はよろしく』
『むにょすー』
「わかった、後は任せろ!」
『むにょすって感じ? よくわかんねぇけどわかった!』
どうやらヒカリは死んではいないがむにょすって感じになっているらしい。
俺もリアンも正確に意味を理解出来なかったが、おそらくンゴやクレメンス的なニュアンスで大丈夫なのだろうと判断した。
『っつー事は後は天龍リンドヴルムを倒せばこの戦いは終わるって事か!』
天龍リンドヴルムの正体を知らないリアンは倒すべき強敵と認識し自らを奮い立たせる。
きっと何も知らない多くの仲間も間近に迫った勝利に奮起しているに違いない。
「……ああ、そうだな」
けれど全ての真実を知ってしまった俺はとてもじゃないけど盛り上がる事なんて出来なかった。
戦争の母とも呼ばれる鍋島竜胆は宇宙を戦場に変え、終末戦争を引き起こし多くの悲劇を生み出した。
彼女は世界中で最も憎まれている人間かも知れない。
けれど虚空に向かって悲し気に咆哮する天龍リンドヴルムを見ても、俺は一切憎しみや怒りの感情を抱く事が出来なかった。
空に焦がれた純粋な彼女は世界を滅ぼしたとしても、夢の彼方の世界に行きたかっただけなのだ。
「グオオオオ!」
『うお!? なんかヤバい!?』
「ッ!?」
追い詰められた天龍リンドヴルムは泣き叫ぶ様に咆哮を上げ、ロケットが破損する様に銀鱗が剥がれ真の姿を露わにした。
壊れた箇所からは燃料が漏れだす様に泥の触手が生え、もがく様に蠢いて地上のロボット兵器を捕食し、海にいたイムシマ水軍も持ち上げられた高速艇から飛び降り慌てて逃げ出してしまう。
『手当たり次第に食ってやがるぞ!?』
「そうしないと擬態が維持出来ないからだろうな」
リアンはその禍々しい姿に恐怖したが、強い執念だけで生き続ける屍龍の様な歪な姿はただ死にかけているだけだ。
「あれじゃ放っておいてもそのうち死ぬはずだ。ニライカナイに存在するものを、レムリアに存在するものを全て食らい尽くした後にな」
沖縄や日本を護るために生み出された『桜龍』は、長い年月を経て全てが終わってしまった大災厄と同じ様に世界に牙を剥いた。
多くの神話は実際にあった出来事を別の何かになぞらえる。
人間は過ちを繰り返す生き物だが、これほど人という存在の愚かさと矛盾を見せつける神話もないだろう。
『ならその前に倒すしかないって事かッ! オレ様がやってやるよッ! 行くぞ、トモキ!』
こうなってしまってはもう天龍リンドヴルムを倒すしかない。
俺もヒーローの様に立ち向かうリアンの様に何も知らなければどれほど幸せだったのだろう。
「……ああ。やるしかないな。もうやるしかないんだろうな……ッ!」
――だとしても。
俺にだって譲れないものはある。
護らなければいけないものがある。
俺は歯を食いしばって悔しさを堪えて、大災厄を終わらせるために天龍リンドヴルムに立ち向かう決意をした。
皆と一緒に生きて帰ってゆるりまたりとお気楽な日々を続け、自由気ままに旅をしながら小説を書き続けるために天龍リンドヴルムを倒すんだ!




