4-193 愛と怒りとゴリ押しの鉄拳
「私はクルガネザーシーの相手をする! 後の二人はお願い!」
『任せろッ!』
『わかった!』
私はゴリラでもわかる最適解を出して智樹とリアンに指示を出す。
プロレスでもボクシングでも全ての格闘技は同じ階級の相手と戦うのが基本だ。
天龍リンドヴルムやサタナエルは強敵ではあるものの智樹達でもダメージが通る。
けれど超重量級のクルガネザーシーに対抗出来るのは同じく超重量級のワダツミしかいない。
「というわけです。よろしくお願いしまッサァーッ!」
『何がというわけだ阿呆が。最近の若い者は年長者に対する礼儀もなっていないらしい』
軍隊仕込みの大音量を安仁屋首相は不快に感じてしまった様だけど、何よりも私は同郷の大先輩であり、死してなお沖縄をずっと護り続けた安仁屋首相と戦いたかった。
「この想いが一方的な物だとしてもこれが私なりの礼儀デェエサァアッ! 行きマッサァアアッッ! 安仁屋首相ォオオッッ!!」
『知らんよそんなものッ! ヒロイズムに憑りつかれた愚か者めがッ!』
私は安仁屋首相に想いを伝えるためにミサイルの雨を一切気にせず突貫する。
カメさん機神兵は耐久性能が桁外れなので多少食らったくらいでは何ともならない。
避けられなければ避けなければいい。
何も考えずに近付いて殴り飛ばせばいい。
原点にして最強、それがゴリ押し戦法! それが私の戦い方だ!
「アアッナサアアアッ! ワーザゾエアアアッ! バナナナナナナッツ! シマバナナンアッッ! 想いを伝えるニィィイ!」
『島バナナがどうしたッ! 想いを伝えたいならせめて声量を下げろッ!』
「バナナゴォオオ伝えたィイイイッ! 伝わってクダザァアアアアアアアッッ!!」
『貴様の想いが伝わらないのは単純に音量と聞き取り辛さの問題だ阿保がッ!』
私は力任せに棍棒を振り回すけど、気合が入り過ぎたせいで想いが安仁屋首相に伝わる事はなかった。
だけどそれでも私は想いを届けるために歩みを止める事はなかった。
もっとだ、もっと思いをぶつけるんだッ!
「シマバナナナァアアッッ!! シマバナナナァアアイイシテェエエッッ!!」
『だから島バナナへの猛烈な愛しかわからんわッ!』
「あぐッ!?」
安仁屋首相の怒りの正拳突きによってワダツミは盛大に吹き飛ばされてしまったけれど、私は痛みをこらえ想いを伝えるために再び立ち上がった。
「ふふっ、平気だよ。この痛みも受け入れて私は島バナナを……島バナナ?」
「ヒカリ、ギャグシーンになっちゃうから気合は程々にね」
ノミコちゃんはハハッと笑いながらシートベルト代わりに私を支えてくれた。
いけないいけない、こんなとても偉い人にキレのあるツッコミをさせたら駄目だ。
『乱闘大臣は健在のようだな。だがおふざけに付き合っている暇はない。私も助太刀をするぞ!』
「ひゃあ!?」
しかも安仁屋首相に夢中になっていたせいで瀬田直子が操るドローンに接近を許してしまい、当たり判定がデカ過ぎるワダツミは全弾命中してしまう。
防御力が高いとはいえ普通の機神兵なら大破する様な攻撃だ。
一発くらいは耐えられたとしてもこれを何十発も食らえば戦況は厳しいものに変わるだろう。
『余計な事をするな、瀬田直子ッ! 避難民を巻き込むだろうがッ!』
「ッ!」
けれど被害を顧みない援護に安仁屋首相は激怒し、すぐに周囲を確認すると射線上には集落のショッピングモールがあった。
もしも今私が避けていたのなら、自爆ドローンはそのまま直進して流れ弾が集落に命中していたはずだ。
だけど葉瀬帆で無差別にドローン爆撃をして大勢の人を殺したくらいだし、人の命を何とも思っていない瀬田直子は配慮をするという発想すらないのだろう。
『だからだよ』
『なに……?』
「まさかこいつ……!?」
声を荒げる安仁屋首相に瀬田直子は悪意に満ちた囁きをする。
そして私はこの悪魔が何を考えているのかわかってしまった。
『さあ、もう一丁ッ!』
「ヒカリッ!」
「うぐっ!」
瀬田直子は私が回避行動をとれない事を理解した上で自爆ドローンをけしかける。
いくらワダツミが頑丈とはいえ限度があり、ダメージはじわじわと蓄積してモニターにも警告画面が表示される様になった。
『瀬田直子ッ! 貴様……ッ!?』
激怒した安仁屋首相は思わず止めようとしたけど、私が一切避けずにサタナエル目掛けてゆっくりと直進している事に気付いてしまった。
『ハハッ! 大した根性だッ! どれだけ耐えられるかなッ!』
「……………」
一歩、二歩、三歩。
カメの様にのろまな歩みだけど、傷つきながらも着実に私は進み続けていた。
『さあ、そろそろ限界だろう? クックック』
歩く、歩く、歩く。
喧しい声なんて気にするものか。とにかく先に進み続ける。
『……うん? あれ? まだ歩けるの?』
私をここまで追い詰めて突き動かす感情は何なのだろう。
薄っぺらい正義感だろうか。それとも非道なテロリストに対する怒りや憎悪なのだろうか。
『ちょーい、無理しなくていいぞ? 本当にいいから、な、な、な?』
そして後一歩踏み込めば殴れるという位置まで近付き、余裕の笑みを浮かべていた瀬田直子は慌てて背を向けて逃げ出した。
『なああああ!?』
私は卑劣な瀬田直子を逃すはずもなく、棍棒ロッドでサタナエルを叩き潰し問答無用で黙らせた。
司令塔であるサタナエルが撃破された事で戦場を飛んでいたドローンはフラフラと落下して爆発してしまう。これでもう自爆ドローンに邪魔される事もないだろう。
「終わりました。続けましょうか、安仁屋首相」
それは復讐を果たせたはずなのに私はその勝利に何の感慨も抱かなかった。
何故ならそれよりもっと大事な事があったからだ。
空気を読めない余計な乱入者のせいでボロボロになってしまったけど、私は安仁屋首相と決着を付けなければいけない。
『貴様は何故避けなかった。何故沖縄の人々を護った。歪んだ自己犠牲の精神か』
「わかりません。どういう理屈で動いたのか。ただ護らなきゃ、こいつを殴らなきゃと考えていました」
私は馬鹿だからその行動を明確に言葉で説明する事は出来なかった。
あえて言葉にするなら無意識に身体がそういう風に動いたというのが適切だろう。
「私は誰も死なせたくない。誰とも戦いたくない。NAROの皆とも、沖縄の人とも、安仁屋首相とも」
そして私の口は勝手にそんな言葉を口にしてしまい、私はようやく理由を理解した。
「彼等の住む場所で私達が戦っているのは私達の都合です。だから私は皆の分の痛みを引き受けないといけないんです」
いつの時代でも世界中で戦争が起きているけど、ただ巻き込まれてしまっただけの彼等からすれば私達の都合なんて知った事ではないのだ。
それはどんな大義名分があったとしても、どのような戦争だとしても誰もが同じ事を考えるはずだ。
『成程、その言葉に嘘はないらしい。口先だけの俗人ではないというわけか』
私が行動で示した事でようやく安仁屋首相に想いが伝わり、彼は武装を解除して御殿手の構えになる。
「はい。これでようやく決着がつけられます」
私もまた棍棒ロッドを捨てていつでも飛び出せるように身構えた。
悪役レスラーが凶器を使うのは大好物だけど、流石に真剣勝負でこんなものを使ったら失礼だろう。
『力のない正義は無力だ。どうしても話し合いで解決したいと言うのならば力尽くで話し合いに持ち込むがいい』
「わかりました。胸を借りますよ、安仁屋首相ッ!」
安仁屋首相は本来話を聞く価値もない私に挑戦権を与えてくれた。
大先輩が与えてくれたチャンスを無駄にしないためにも全力を尽くそう!




