4-191 水底の龍宮城で見た夢
現実と空想の境目が次第に曖昧になり、私は幻想的な龍宮城に辿り着いた。
煌びやかなサンゴや貝殻、真珠で彩られた深海の城は絵にも描けない美しさで、こんな場所ならば永遠に近い時を過ごしてしまうだろう。
(タツノオトシゴ……?)
龍宮城の中には鮮やかなタツノオトシゴやリュウグウノツカイが泳いでいた。
見慣れないあの生き物は何だろう。
海老っぽい生き物はアロマロカリスで、海龍っぽいのはモササウルスだろうか。
こういうのはもうちょっと身近な魚が出てきそうなものだけど、時代が滅茶苦茶で配役が偏っているのは私に知識と想像力がないせいだろう。
彼等は私を導くかの様にゆっくりと泳ぎ、私は吸い寄せられるように城の中を進む。
そうか、こっちに行けばいいんだね。
(キャベツ……?)
城の中を進んでいた私は真っ暗な部屋に辿り着き、キャベツの落書きが描かれた石板を発見した。
私はそれがどうしても気になり、彼等を無視して石板の前で立ち止まってしまう。
大きな部屋の中には同じ様なキャベツの石板がいくつもあったけど、暗いせいで部屋の壁が見えない。
視界の端まで置かれている石板はどれだけの数があるのか見当もつかなかった。
私は無意識のうちに目の間にあった石板に彫られていた文字にそっと触れた。
『私達はここにいる 芳野星花龍 聖智樹(夢桜しばえもん)』
(よしの……ひかり……)
星花龍――普通はそう読めないはずなのに、私はその名前を見て何故かヒカリと呟いてしまった。
何もわからない。
けれどこれは忘れてはいけない大切な何かのはずだ。
隣にある名前も忘れてはいけない大切な何かのはずだ。
もっとこの場所にいたい。
ずっとこの場所にいたい。
私は私を失いたくない。
離れ離れになりたくない。
一つに戻りたい。
ずっと瞳を閉じていたい。
そうすれば何も見なくていい。
玉手箱なんていらない。
ずっとずっと子供のまま、この夢の様な世界にいたい。
(あなたは)
『こっちです』
けれど暗闇の世界に飲み込まれそうになった時、目の前に儚げな綿津見の少女が現れた。
(待って、行かないで)
『私は行きませんよ、どこにも』
いつかの世界、いつかの時代で水底に沈んで母なる海の一部となり、世界を見守り続けた少女は、独り立ちをしようとする我が子を見守る様に先導する。
『さあ、こちらです』
彼女に導かれて階段を降りた私は更に深い場所へと進む。
(カメさん……?)
その聖域は床も壁も青い水晶で出来ており、かつて共に戦った鋼鉄の龍亀が眠る様に鎮座していた。
この子はどれほどの長い間この場所で私を待っていてくれたのだろうか。
この子はどれほどの長い間世界を支え続けていたのだろうか。
機神兵の影は人の形となり、やがて見慣れた親友の姿に変わって影の手で優しく包み込んだ。
『ヒカリ』
(ノミコちゃん)
影も闇も最初から恐れるものではない。
水底の深淵もまた母なる海の一部だ。
それを否定する事は全てを否定する事になる。
同じ存在なら最初から拒絶する必要なんてなかったのだ。
だというのに私達人間はどうしてこんな馬鹿馬鹿しい事を延々と続けていたのだろう。
私は遠い世界で自らが手放した闇を受け入れ、分かたれた魂を再び一つに戻した。
「行こう、ノミコちゃん!」
「もちろんだよ。生きる時も死ぬ時も、私はずっと貴女と一緒にいるから」
歩みを止めるものか。
夢を見続けるために、私は夢から醒める事を選んだ。
力を取り戻した私は夢の彼方から世界に戻っていく。
全ては道を切り開き、前に進み続けるために。




