4-190 深層心理に存在する世界へ
――仲村渠ヒカリの視点から――
戦場に乱入したサタナエルは膝をついて倒れたヤオハチを集中攻撃し、智樹はどうする事も出来ずに自爆ドローンによる波状攻撃の餌食となってしまう。
「智樹ッ!」
親友の窮地に地上で待機していた私は思わず叫んでしまったけれど、あんな神に匹敵する様な機械仕掛けの化け物相手にはどうする事も出来ない。
たとえ機神兵でも無防備な状態でこれだけの自爆ドローンで攻撃されてしまえば行動不能になるのは時間の問題だ。
いや、損傷具合からもう動けなくなっているのかもしれない。
ヤオハチの装甲は徐々に吹き飛んで肉組織の様な痛々しい姿が露わになり、助けに入ったリアンは急接近したクルガネザーシーのアッパーカットで吹き飛ばされてしまった。
ニイノは一方的に攻撃される智樹達の姿を見て堪え切れずに泣き崩れてしまう。
「トモキさん……リアン……マタベエ……もうやめて……!」
「まずいな、このままじゃ」
その姿にアマビコは胸を痛めてしまうけれど彼には何も出来なかった。
どんな屈強な兵士でも生身の人間ではあんな怪物相手では何も出来ないだろう。
「アタシも機神兵に乗ったほうがいいかな。使い方はよくわかんないけど」
「やめた方がいいと思います。訓練を受けたトモキさんですらこうなっているのに」
リンドウさんは良からぬ事を考えてしまい、無謀にも程がある蛮勇をカムナはすぐに制止する。
機神兵は知識がなくても簡単に使える様に設計されているけど素人が扱えるものではない。
リアンが使えるのはきっと知識があるからだろう。その動きは現代の兵士と比べても遜色はなくむしろかなり機敏だ。
見た目がそっくりな愛理とどんな関係かわからないけど、曲がりなりにも特別国際支援科の彼女は作業用機神兵の操縦が上手だったし、もしも転生者ならその名残があるのだろうか。
「私がやるしかないか……!」
いずれにせよあれは例外だ。
とすると消去法で私も機神兵に乗って戦うしかない。ならすぐにでも格納庫に向かわなければ。
「格納庫はどこ!?」
私はクガニナーの祠に戻り駆けずり回って格納庫を探した。管理者権限無しで動けるエリアは限られているのですぐに見つけられるはずだ。
「格納庫……これか!」
リアン達は適当に探したのだろうけど日本語のプレートがあったので私はすぐに辿り着く事が出来た。後はこの扉の先に進めば!
「って、開かない!? どうして!? 鍵とかは……!?」
だけど重厚な扉には厳重なセキュリティが施されており、鍵穴の類はなく瞳孔認証システムでロックされていた。
『網膜スキャンを開始します。中心を注視してください』
「う、うんっ」
無駄だとわかっていたのに私はセキュリティの突破を試み、パニックになっていたせいで機械音声に返事をしてしまう。
『虹彩パターン、一致。バイオメトリクス照合完了。DNAシーケンスを読み取り中。ゲノム配列を解析。認証失敗。オウカミイチルと認証出来ませんでした』
けれど当然ロックは解除される事はなかった。
どうやらこの扉はオウカミイチルという人しか通れない様に出来ているらしい。
「なんで!? そんな事言わないで開けてよ!?」
軍事施設ならセキュリティが厳しくて当たり前だ。でもリアン達は普通に通れたのにどうしてこの先に進めないんだ!
私は癇癪を起す様に鋼鉄の扉を叩きつける。
けれど力自慢の私でもこればかりはどうする事も出来なかった。
「ふひー、疲れた。もう、人生のパイセンに雑用を押し付けないでよ」
「希典さん!」
すると最高のタイミングで最強のチートキャラが最深部から戻って来た。
老骨に鞭を打つ様で申し訳なかったけど私はすぐに戦いを終えた希典さんに助けを求める。
「ちょうどいいところに! これ開けてくれませんか!?」
「え、無理」
「いやなんでですか!? 今物凄く大ピンチなんですよ!?」
けれど希典さんは即座に拒んでしまう。
まさかこの期に及んでもよくわからない理屈を並べると言うのだろうか。
「頑張れば出来るけど時間がかかるっていうかね、面倒くさいっていうか」
「ふざけないで下さい! そんな事言ってる場合じゃないです!」
「まあそう慌てなさんな。開けられないけど助けないとは言っていないよ」
「っ」
ただ私を絶望させた後に彼はニマリと笑って安心させる。
上げて落としてまた上げるなんてこの人も実に憎たらしいお方だ。
「取りあえず言うとおりにしてねぇ。吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー」
「すぅー。はぁー。すぅー。はぁー」
希典さんは催眠誘導をする様に私に深呼吸を促し、乱れていた呼吸と精神は少しずつ元に戻っていく。
「昔々浦島はー、真っ暗で何もない海の底にいるのをイメージしてー、カメさんがいるよー」
「カメさん……」
私はよくわからないままにイメージし、深海を泳ぐカメさんと顔を合わせた。
つぶらな瞳がクリッとしてなんとも可愛らしい。
「龍宮城に行ってみればー、月日のたつのも夢の中ー」
「龍宮城……」
その声はまるで催眠誘導の様で精神は深い場所へと墜ちていく。
あれ、なんかこれ心を落ち着かせるのとはちょっと違う様な……?
……………。
………。
…。




