4-189 ニライカナイの守護神達との決戦
いくつもの修羅場を潜り抜けた機械仕掛けの大妖怪八百八狸は再び戦場に顕現し、ニライカナイを守護する天龍リンドヴルムは怒りの咆哮を轟かせた。
『来たな、相棒。遅かったから先に宴を始めてたぜ。マタベエはあっちのほうだ』
「ていやー! ぼくもがんばってるよー!」
モニター画面には機神兵に搭乗したリアンのニカッとした笑顔が映り、小柄なマタベエはせっせと地上付近で雑魚を片付けてくれていた。
この神話レベルの怪物に比べれば雑兵でしかないので貢献は微々たるものだったけど、一生懸命戦ってくれる小さな勇者のためにもみっともない姿は魅せられない。
「悪い、リアン。お陰でパイセン達をカンカンに怒らせちまったみたいだ。けどいい趣味してるなあ」
彼女の乗る機神兵はいかにも強そうだが、鬼面の鎧武者の様な見た目は全体的に凶悪で大ボス感が半端なかった。
それは例えるのなら悪の幹部かラスボスが乗る様なイカツイ機神兵で、少なくともヒーロー側のキャラが乗る様な機体ではないだろう。
『これか? 一目惚れしてつい乗っちまったよ。こいつはウーラって名前みたいだぞ』
「ウーラ……桃太郎伝説の温羅か」
その機神兵は日本で最も有名な英雄譚に出てくる悪鬼の名を冠しており、じいちゃんが桃太郎という名前の俺は親近感を覚えてしまう。
温羅のモデルは百済からやって来た高度な製鉄技術を持った豪族だったはずだが、工業系のリアンが惚れてしまうのもある意味必然だったのかもしれない。
「オトハ、ノミコ。もうかなりキツイだろ。後は俺達がやるから下がってくれ」
『了解しました。援護をするので後はよろしくお願いします!』
損傷が激しかったオトハは指示に従い後方に下がってロボット兵器の相手をする。
万全の状態で戦う事は出来なくとも雑魚敵くらいならサクッと倒せるようだ。
『私はまだ戦えるけど。地上に残ったヒカリのフォローに回ろうかな』
一方社長プレイで余力のあったノミコは影の怪物を召喚してから撤退する。
本人がそう申し出てくれるのなら手も足りないしお言葉に甘えよう。
「グオオオオッ!」
軽く作戦会議を済ませた直後、天龍リンドヴルムは白く輝く熱線を口から放出して広範囲を焼き尽くす。
「うわっ!?」
攻撃のモーションが大きかったので回避するのはさほど難しくなかったが、やはり威力はすさまじくクガニナーの祠の敷地内にあった建物が一瞬で吹き飛んでしまった。
もしも俺達がさっきまでいた場所に破壊光線が放たれたらと思うとゾッとしてしまう。
長引かせると皆を巻き込んでしまうしその辺りも気を付けながら戦おう。
『随分と醜悪な機神兵だな。まるで人間の業を凝縮したかの様な歪な見た目だ。そんなに殺し合いがしたいと言うのならいくらでもしてやろう』
「ご時世なんですからルッキズムに配慮してくださいって!」
安仁屋首相の魂が宿ったクルガネザーシーはホーミングミサイルで追撃するも、俺はすかさず『狸囃子』を発動して無力化、こちらに辿り着く前に墜落させた。
やはり重武装した彼の飛び道具は脅威だ。
俺は強力な遠距離攻撃を避けるため大きく回る様に移動し、離れた場所から火縄銃ランチャーを天龍リンドヴルムやクルガネザーシーに乱射した。
天龍リンドヴルムは着弾した際よろめいたので効果はあるようだが、クルガネザーシーは不動の山の如く微動だにしない。
ダメージはほぼなさそうなので耐久性能も異次元らしい。
『うりゃうりゃッ!』
リアンが操るウーラは左手のハンドガンから炸裂弾を乱射し、素早く接近して力任せに右手に持っていたブレードを叩きつけた。
『ふんッ!』
『ふぎゃ!?』
しかしクルガネザーシーはやはりこれを避ける事もなく、御殿手の要領で手を捻って片手で軽々とウーラを投げてしまう。
秘伝の武術を機神兵が滑らかに使えるのも凄いけど機神兵が投げられる光景自体初めて見た。少なくとも俺達はこんな戦い方は想定して訓練していない。
「リアン、大丈夫か!?」
『平気だ! けど固すぎんだろ!?』
リアンはすぐに立ち上がって後方に下がるが自重によってかなりのダメージを受けていた。
クルガネザーシーは武装もさることながら最大の脅威はこの規格外の耐久性能だろう。
「せめて天龍リンドヴルムだけでもなんとかするか……!」
「グオオオオ!?」
俺は狸囃子の出力を上げて天龍リンドヴルムを攻撃する。
見た目こそ龍だが機械系の敵なので効果は絶大であり、海に落下して激しくのたうち回ってしまった。
「グオオオオ!」
「うげ!?」
けれど獣は往々にして手負いのほうが危険なものだ。
混乱した天龍リンドヴルムは制御不能になった近代兵器の様に、破壊光線や拡散レーザーなど手当たり次第に攻撃を放ち無差別に周囲の物を破壊してしまう。
『おめー何やってんだよ!?』
「スマン! 悪気はなかったんだ!」
有効打を与える事は出来たがそのせいでピンチになってしまい、リアンは必死で光線から逃げながら俺に文句を言った。
『悪気はなかっただと? 馬鹿馬鹿しい。こんな事はありふれている。これが実際の戦争なら罪のない人間が大量に巻き添えになっていただろうな!』
「ッ!?」
さらにクルガネザーシーまでもが激高して被弾を一切気にせず俺に接近、ヤオハチの搦め手を力尽くで封じるためにランチャーを放った。
「ぐっ!?」
コックピットは激しく揺れ、至近距離で強烈な一撃を食らった事でヤオハチのモニターには様々な警告が表示されてしまう。
これならばパルスを気にする必要もないけど、爆風によって自分もダメージを受けるしまともな思考回路が出来る人間なら普通こんな超至近距離でランチャーは撃たない。
だけど相手は文字通り人間ではない。
機械仕掛けの守護神となった安仁屋首相は自らのリスクを顧みず、沖縄を穢す人間を地球上から消し去る事だけを考えて行動していた。
何よりも激高した彼が告げた言葉が深く心を抉る。
爽快な特撮映画とは違って巻き添えで破壊された建物や街には命が存在し、戦えば戦う程犠牲者が増えていく。
俺はそういうのを何よりも忌み嫌っていたはずなのに、憎くてたまらない奴らと同じ愚行をしてしまった事が悔しくて仕方がなかった。
『トモキ、ボサッとするな! なんか来るぞッ!』
「っ」
そしてさらに心を抉る物が戦場に現れてしまう。
他の場所で戦っていた瀬田直子が搭乗するサタナエルが、無数のドローン兵器と共に乱入して来たのだ。
その時俺の脳を支配した感情は死と苦痛への恐怖だったかもしれない。
あるいは想い出と大切な人を奪われた憎悪だったのかもしれない。
いずれにせよその瞬間俺は何も出来ずに固まってしまったんだ。
「ともきくーんっ!」
雑魚と戦っていたマタベエはビーム攻撃で俺を強襲したドローン兵器を迎撃してくれるが、数が多すぎてとても対応しきれなかった。
「わー!?」
「マタベエ!?」
ドローン兵器が命中したマタベエは爆風と共にどこかに吹き飛んでいってしまう。
俺は彼の悲鳴でようやく我に返る事が出来たが、同時に大量のドローンに囲まれている事に気付いてしまった。
ああそうか、狸囃子の効果が切れてしまったのか。
そういえばこれって時間制限があったんだっけ。
『トモキッ!』
「ぐあああ!?」
高密度のドローンの集中砲火を浴び、激しく揺れたコックピットにはけたたましい警報音が鳴り響いた。
リアンは必死で何かを叫んでいたが、脳を揺さぶられた俺には聞き取る事が出来なかったんだ。




