4-187 リアンが巡り合った最強の鬼神
――リアン・ミャオの視点から――
トモキ達が最深部に向かっている間、オレ達は戦線離脱したメンツの護衛任務という名の待ちぼうけを食らっていた。
いい加減暇になって来たしトモキ達を助けに行ってみようかなあ、と考えていると外が次第に騒がしくなる。
「どうやら戦いも佳境を迎えている様ですね。本陣の兵器が浜辺に向かって移動しました」
「みたいだな」
カムナは耳を澄ませて戦場に存在する音を把握する。
おそらく上陸したNAROと応戦するためにロボット兵器が動いたのだろう。
それはもうすぐ反乱軍が陥落する事を意味していたが、それ自体はいいニュースなので何も問題は無い。
けれど頑強な神代の門がありここは比較的安全とはいえいわば敵陣のど真ん中だ。ぶっちゃけ怖くないと言えば嘘になる。
「今更だけどガナハ総督って奴はどこにいるんだ。あいつが総大将なんだろ。まさか尻尾撒いてビビッて逃げたとか?」
「私には何とも。むしろ総大将が自ら前に出て戦うほうが珍しいとは思いますが」
もう一つ、敵のリーダーが全然姿を見せないのも少し気になる。
カムナの言うとおり親玉なら身を隠して当然だけど一体どこに雲隠れしているのやら。
「よし。行くか」
「行くってどこにだい? いい子なんだからお留守番してないと駄目だよ」
オレはすくっと立ち上がり、母親の様な事を言って咎めたリンドウに自分の考えを述べた。
「使えそうなものを探しに。籠城するにしても外に出て戦うにしてもなんかあったほうがいいだろ」
「かもしれませんけど」
カタギのニイノはリスクを恐れているのか迷ってしまう。だけどトモキたちが戦っているのに自分だけずっと待っているってのは性に合わない。
「平気だって、すぐに戻るから」
「そうですか。危ないと思ったらすぐに逃げてくださいね」
オレは皆を安心させるためにニカッと笑い、アマビコが不安げに伝えた言葉を半分くらいは支持していると都合よく解釈した。
「じー」
「?」
マタベエはついていきたそうなめでじっとこちらをみていた。
だけどそんなのはいつもの事なのでオレはスルーをした。
何かを言っても言わなくてもどの道ついて来るし放っておけばいいだろう。
「んじゃ、宝探しと行きますかね」
禁足地の奥地に存在してずっと手付かずだったクガニナーの祠は間違いなく第一級の遺構だ。
こんな状況でなければじっくりお宝探しをしたかったが、今回ばかりは皆を助けるために必要なものを探さないとな。
……………。
「ふーむ」
そして適当にうろつく事数分、オレはすぐに壁にぶち当たってしまう。
「ま、そりゃそうだよな」
なおこれは比喩表現ではなく言葉そのままの意味だ。
オレは鋼鉄の扉を触り、鍵開けが出来そうな場所を探すがそんなものは一切見当たらなかった。
目の前にある扉は他の扉と比べてかなり分厚く厳重だったので、おそらくこの先には飛び切りのお宝があるのだろう。
「いかにもって感じだし、多分お宝があるんだろうけど見る事すら叶わねぇなんて、泥棒猫リアン・ミャオ様としてはこんなに悔しい事はねぇよなあ」
クガニナーの祠はかなり厳重なセキュリティで護られておりほとんどの場所が通行できなかった。考えてみれば普通はそういうものだろう。
管理者権限を持つトモキやまれっちなら特に問題なかったかもしれないけど、こればかりは凄腕のオレ様だろうとどうしようもなかった。
「どうすっかなー。ん?」
「リアンちゃーん」
しばらく途方に暮れているとマタベエがひょこひょこと現れた。やっぱり気になってやって来てしまった様だ。
「マタベエか。折角来てくれて悪いが無理っぽい。こんな感じでどこも通れそうにねぇよ」
「そっかー」
マタベエは扉を小さな手でベタベタと触って調べたけどそれで開く事はなかった。
けれど彼が適当に触った時、パカッと何かが外れる音がする。
「なんかあったー」
「ん? どれどれ」
それはオレも気付かなかったギミックだった。
もしかしたらこれを調べれば扉が開けられるかもしれない。オレはすぐに蓋の向こう側にあった物を覗き見た。
『網膜スキャンを開始します。中心を注視してください』
「うお!?」
「むに?」
すると突然無機質な声が聞こえオレはギョッとしてしまう。まさか変なトラップでも発動してしまったのだろうか。
『虹彩パターン、一致。バイオメトリクス照合完了。DNAシーケンスを読み取り中。ゲノム配列を解析。データベースと適合しました』
「このひとなにいってるのー?」
「さあ」
無機質な声は一方的に何かを喋り、何が起こっているのか全く理解出来なかったマタベエとオレはビクビクしてしまう。
よくわからんが大丈夫だよな、これ。
『認証。オウカミイチルと認証しました』
「おおっ?」
そして何者かが喋り終えた後鋼鉄の扉が開いた。よくわからんが通れるようになったらしい。
「オウカミイチルって?」
「さあ。よくわからんがオレとオウカミイチル? って奴がそっくりなのかな」
「ふーん」
『網膜スキャンを開始します。中心を注視してください』
マタベエは不思議そうに先ほどオレがそうした様にギミックを見つめる。
するとまたしても装置が反応してしまったが二回目なので特に驚く事はなかった。
『虹彩パターン、一致。バイオメトリクス照合完了。DNAシーケンスを読み取り中。ゲノム配列を解析。データベースと適合しました。認証。オウカミイチルと認証しました』
すると謎の声はまたしても同じ言葉を繰り返した。しかし扉は既に開いているので驚きようがない。
「なんだろうこれ?」
「多分マタベエもオウカミイチルと間違えられたんだろうさ。意外と神代の技術もいい加減なんだな」
おそらくこのギミックは顔を見てそっくりかどうかを判断して扉を開けるものなのだろう。
マタベエは小さい頃のオレと似ているし、機械も同じ人間だと勘違いしたのかもしれない。
「まあいいや、ガバガバなおかげで入れたわけだし。お宝はあるかな?」
「てくてくー」
そもそもを言えばオレはオウカミイチルって奴じゃないんだが。とにかくこれで部屋の中を調べられそうだ。
「おっきいー」
「へえ、こいつは超ド級の大当たりじゃねぇか!」
扉の先には機械仕掛けの巨人が何体も置かれていた。
どうやらこの部屋は神代のアンジョが使っていた機神兵の格納庫だったらしい。
「どいつもこいつも状態もいいしすぐにでも使えそうだ。より取り見取りじゃねぇか」
今の時代にも見様見真似で作られた機神兵もどきのブツは一応あるが、神代の機神兵は遺産の中でも飛び切り価値がある。
技術力と財力が求められるので機神兵を持っているのは大国の証でもあり、グリードの領主にとって機神兵を保有している事は一種のステータスだ。
古戦場跡ならいくらでもその辺に転がっているが、こんなに状態が良ければ一つ売るだけでも一生遊んで暮らせるだろう。
「どれがいいかなあ~。より取り見取りだから贅沢な悩みだぜ」
この中のいくつかは売りさばくとしてオレの目的はあくまでも武器を探す事だったけれど、機神兵はどれも最高級の物ばかりだったので逆に選ぶ事が出来なかった。
ここにいるのは全員歴戦の猛者ばかりだ。どいつを相棒に選べば全員で生き残る事が出来るのだろう。
「……………」
格納庫を探検していたマタベエは一機の機神兵の前で足を止めてジッと見上げる。
普段は落ち着きがないのにその時の彼はどういうわけか微動だにしなかったんだ。
「ん? どうしたマタベエ、気になるものがあった……」
だけど彼のもとに近付いた時、そうなってしまった理由がすぐにわかってしまった。
漆黒と紅蓮を基調とした装甲の機神兵は大昔に製鉄技術をもたらし絶大な権力を誇っていた豪族を、あるいは並び立つものがない天下無双の鬼神を連想させた。
一目でもその雄々しい姿を見ればわかる。この圧倒的な力を持つ鬼神の前では他の機神兵など所詮ただの金属の塊に過ぎないのだと。
機神兵は神とは名がつくが、所詮大昔の人間が作った兵器に過ぎない。
だけどオレにはその機神兵が――いや、『鬼神兵』が、まるで本物の神の様に見えたんだ。
「……最高だ。ようやく会えたな、オレの相棒」
その鬼神を見たオレは不意にそんな言葉を漏らしてしまった。
けれどどうしてそんな事を思ってしまったのかオレにはわからなかった。
だけどこいつとならきっと天龍リンドヴルムや黒鉄の機神兵ともタメを張れるはずだ。
待ってろよ、トモキ、ヒカリ。オレはこの相棒と一緒に戦うぜ。
こんな天下分け目の一世一代の大勝負に、オレをハブるだなんて許さねぇからな。




